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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第一章 夢を切り裂いた先の景色
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隠怪密談

今話は第三者視点(いわゆる神様視点)で話が進みます。



ダモニア・マルティアル第二王子とスーディア・クラディエルの魔術戦が終わった。


しかし、これは最早戦いとは呼べるものではなく、後に歴史批評家たちはこの急襲騒ぎをスーディア・クラディエルの圧倒的実力を示した一つの資料として扱うようになる。




  ◇




ローブを纏った魔術師たち、そしてそれを纏め上げていた第二王子。

気絶した彼らを尋問するという予定を手帳に加えつつ、スーディアは本邸から少し離れた森へと進んだ。



クラディエル公爵家の敷地は広い。本邸と別邸、それを広く囲む森林、というように一つの街を一か所に凝縮したような地形となっている。


基本的に、森の中は各代当主が自ら独自の目的に使うことが決められており、当主が許可しない限りクラディエル公爵家の血を引く者であっても侵入は侵犯扱いである。


そして、これまでの当主たちは一度たりとも跡継ぎ以外をその森に入れたことがなかった。



〝怪蜜の森〟


これは、当主たちが隠す何かのあるこの森を呼称する際によく用いられる言葉である。

当主たちの抱える謎が全て詰まっているとされるその森を形容するには相応しい表現だ。



「――遅くなりました」


森の奥に進み、更に獣道に見せ掛けた抜け道を通り、木の葉に隠されたそこに、小屋はあった。


木製で、いかにも見すぼらしいその外装に似合わない内装の豪華さが何やら怪しげな雰囲気を演出している。


これぞ、森中の隠れ家だ。


中には煌びやかな調度品こそないものの、アンティーク調の小物が置かれ、魔術に関して書かれた魔導書や魔術の研究用の器具が設置されていた。


そして、魔術関連の小物に囲まれたソファに腰かけて、()()はいた。



「よう、クラディエルの坊主、また〝アレ〟繋がりか?」


「だから、彼は公爵家当主だと何度言ったら……。すまないね、スーディア君」


一人は老体ながらも丈夫そうな体で鋭い眼光を携える偉丈夫、もう一人はふんわりとした笑顔を浮かべながらも刺すような瞳を輝かせる老爺だ。



老爺が偉丈夫を宥めている。


「何にせよ、お前より位は低いだろう」


「そういう問題じゃあない………」


「いえ、陛下には頭も上がりませんから」


「スーディア君まで……」



和やかに会話しながら、スーディアは空いていたソファに腰かける。

スーディアが佇まいを直すと、二人の雰囲気も変わった。



「では、早速話に入らせて頂きます」


スーディアは今日のダモニア王子のことを二人に報告した。

そして、〝切裂〟の権能のことも。



「成程、これはこちらの領分だな」

スーディアが話し終わった頃、偉丈夫が言った。


ローテーブルの上に置かれていた古びた本を開き、その文面をスーディアに見せる。


「この魔術だな?」

偉丈夫はスーディアに確認した。スーディアからも頷きが返ってきた。



「やはり、魔属性の権能の覚醒者は集まってくるのかねぇ……因果なもんだ」


「本当に、困った因果だな」


偉丈夫の言葉に老爺がはぁ、と溜息をついた。

偉丈夫ははっはっは、と肩を揺らしながら笑っている。



「私の娘が魔属性の権能を授かった時が一番因果を感じましたね、私は」


話を終え、三人分の紅茶を用意しながらスーディアは笑みを浮かべた。


朝、突然娘が倒れた、という話を聞いた時のことを思い出す。


あの時は悪夢を見ているのかと思った。そして、その正体に気づいた時、少々の憎しみも抱いたものだ―――、



「本当に、困ったものですね」


偉丈夫と老爺の二人に。


公爵として今まで社交界で鍛えてきた表情筋を総動員し、笑みを浮かべているが、実際には幾らか憎しみを抱えているのも事実だった。


もう過ぎ去ったことであるから、この二人に実害を加えようとは思わないが、それでもすべての因果が憎たらしく思えてしまう。



「まあ、私たちにもこればかりはどうしようもないんだ」


「もう組んじまったからな」


自分の裏の感情まで読み取っている二人の反応にスーディアは分かりやすく溜息をついた。


この二人は、生ける伝説でありながら、死人であり、人間だ。

それを一番よく分かっているのは現時点で彼らに唯一接触できるスーディアだった。



『君たちが全てを失った時、私の実家へと行きなさい―――』



偉丈夫と老爺は思い出す。

いつしか言われた言葉を、そしてそれを言った時の師匠の顔を。


その言葉を聞いた時、そんな時は来ない、と思った。


そして、実際にそんな時が来た時、師匠の実家、と言えど自分たちが認められるわけがない、と思った。自分たちは明らかに異物なのだから。



歴史に置いて行かれ、既に遺物となった彼らは、今も亡霊として生きている。



「まあ、大丈夫だ。魔力は安定してるし、何より俺が言うんだから問題ない」


根拠があるのか疑いたくなる偉丈夫の言葉に、スーディアは渋々頷いた。


信じられないような言い方をするものの、彼の実力も、その言葉の信憑性もスーディアは理解している。

どこから来るのか分からない圧倒的な自信さえなければ、もう少し信頼しやすいのかもしれない、とは思うが。



「しかし……今のところ君の領分しかないなぁ」


老爺がもろもろと息とともに声を発した。



「何故かは分かりませんが、今のところ〝暗〟ばかりです。何か、心当たりは?」



「そういう、時代なんだろ。あれらは感情がトリガーとなる。それだけ大きい感情だ」


「即ち、この時代には人を救いたいよりも斃したいという人の方が多い、ということ……か」


二人の言葉を受け、スーディアは心の中で頭を抱える。


チトリスについても、同じことが言えるのだ。

自分に対する、激しい憎しみと似たような感情、激情ともいえるそれが、〝絶死〟の権能を引き出したのだから。



「―――流石に、この風潮がかの権能を呼び起こすとは思えんが……」



「注意した方がいいね」



「ええ、魔属性の権能の裏での管理が我らクラディエル家当主に課せられた義務ですから―――」







ご読了、ありがとうございます。

是非、面白かったところ、ネタバレに配慮しながら展開の考察など、感想欄にて送っていただけると力になります。

宣伝などして下さると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。

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