場を乱すは招かれざる闖入者
◇
「――おや、レガノン子爵閣下。もしかしなくても、始まってますかね」
「む、これはこれはリパリエルス卿……!! 本日は来られないかと思っとりましたぞ。――無論、既に試合は始まっております。丁度、『特異点』たるクラディエル公爵家の御令嬢が勝利を勝ち取ったところで」
「なるほどなるほど。モルドレッド侯爵家の御令嬢は……まだのようですかね。なら、まあ……」
「しかし、リパリエルス卿は今回の生徒会役員の魔術戦、酷く楽しみにしておられたというのに……遅れられたのには何か、理由が?」
「ああ……少しばかり邪龍を屠ってきたところでして。いやはや、疲れるもんですよ、龍と相撲と言うのも」
◇
試合を終えたチトリスは、一度『覇阻の場』から離れ、校舎の方へと来ていた。
試合を行っていない生徒会役員はある程度の自由な行動が認められており、学園の敷地内から出なければ移動も可能だ。
チトリスとしてはニーチィの試合を見るために外に出歩くつもりはなかったのだが、少々危急の用事が出来てしまった。そのため、ニーチィの試合に間に合うようにと急ぎ足で校舎へと向かっているわけだ。
「――――」
周りに視線を飛ばしながら、校舎の方へと近づいていく。
自分に対して向かう意識の矢印がないか、と気を遣いながら歩を進めれば、その気配にはすぐに気づけた。その気配を辿り、更に速足で校舎へと歩く。
そして、視界の端に映ったのはローブに身を包んだ男だった。一瞬で校舎の陰に隠れたが、一瞬だけでも姿を見せれば、チトリスには存在を捕捉される。
最近、チトリスは校内で謎のローブの人間を見かけることが増えた。
しかし、チトリスの視界に一瞬だけ映ったその人間はその一瞬、刹那でどこかへと隠れてしまう。その姿を視界に入れて捕捉することは何度かあったが、実際にその正体を見つけたことは一度もなかった。
と言っても、全く心当たりがないわけではない。それどころか、ローブの男、と言えば思い出されるのはある特定の存在だ。
忘れもしない、クラディエル公爵家襲撃事件の、実働部隊。彼らがローブに身を包んでいたことは記憶している。そして、そのローブと、最近見かけることの多い存在の身に着けているローブは、恐らく同じものだ。つまり、どのように処断されたかは分からないものの、何らかの形で処分されたはずの彼らが、今更になって動き始めた、という事である。
「少なくとも、今のところは害はないけれど――」
今後も害を及ぼさない、とは断言できない。
それどころか、今は鳴りを潜めているが、今後何かを企んでいる、と言う方が信憑性が高まるだろう。それだけのことを、彼らはしたのだ。
「一先ず、これで牽制は出来たかしら」
相手が何もしかけてこない以上、こちらから大きく動くことは出来ない。
だからこそ、今回のチトリスの目的は最低限の牽制をすること――相手の存在を把握している、と知らしめることだ。相手がある程度思考力のある人間なら、これによって簡単には動けなくなる。
目的は果たした、とみて、チトリスは会場へと戻ろうと体を翻す。
ニーチィの試合も近づいているだろう。彼女の試合を見ないなどと言う選択肢は存在しない。今から戻れば十分に間に合うだろうけれど、それでも急ぐに越したことはない――そう考えて、チトリスが足を踏み出した、その瞬間だった。
「対象認識・強制移送――障壁顕現」
チトリスの気配察知の範囲外で、魔術が発動した。
「――――ッ」
チトリスは、確かに踏みしめたはずの地面が固いことに違和感を覚えた。先程歩いていたのは草道だ。こんなに感触が固いわけもなく――そんな違和感を抱きながらふと視線を周りに向ければ、周りの景色さえも、変わっていた。
「ここは――校舎内……?」
先程まで、校舎の外を歩いていたはずだ。だというのに、突然に場所が変わっている。
咄嗟に、周りからの奇襲を警戒して身構える――が、特にそんなものはなかった。しかし、少なくともこれが何らかの魔術による影響である、という事は分かった。
「こんなことをした理由――そして誰が」
ホワイダニット、フーダニット。
当然のようにチトリスの思考には疑念が浮かび上がってくる。魔術が発動したのだとしても、だれが何のためにこんなことをしたのかが分からない。それ以上に――こんな作用のある魔術が、現代魔術に存在しただろうか。
「――これはこれは、『聖女』様」
「フルグルカ・ミスティアルド……っ」
その顔を見て、浮かび上がったのは驚きや困惑よりも、やはりか、と言う納得だった。
現代魔術には存在しない作用の魔術。それは直接的に古代魔術が発動されたことを意味する。そして――古代魔術と言えば、で思い出されるのはこの男だ。
『狂信者』フルグルカ・ミスティアルド――聖女を信奉する者を名乗り、チトリスを聖女と崇める彼。先日の入学式において宣戦布告を行い、スーディアとの戦いの末に敗走した人物だった。
「聖女様に覚えていただけるとは――光栄の至りに存じます」
「――目的を」
「――――?」
「あなたの目的、現状を説明の上、大人しく捕縛されなさい」
「それは……聖女様のご命令でも、唯々諾々と従うわけに行きませんので」
「では、一先ず制圧します」
◇
突然の変化は、チトリスだけに留まらなかった。
生徒会役員であるニーチィ、メイミダス、カルロ、ミティ、ヴェニータも、チトリス同様に瞬間転移を果たす。
校舎一階、チトリスとフルグルカ――
校舎二階、メイミダスとミティ――
校舎三階、ニーチィ――
校舎四階、ヴェニータとカルロ――
およそ二人ずつに分断され、校舎の各階層に配置されている。そして、それぞれのもとにはフルグルカと立場を同じくするものが――
「私は――」「俺は――」「わしは――」
「――『聖女を信奉するもの』」
四方に分断され、それぞれで戦闘が始まろうとしていた。
◇
「ふぅむ……何が起こったのやら」
男は、先ほどまでと見ていた景色が違うことに首を傾げつつ、校舎の中を歩いていた。
しかし、不思議には思いつつも、彼の表情に緊張や不安は見えない。と言っても、自信があるわけでもなかった。
「まぁ、なんとかなるでしょうよ。正直に願えば、大体叶うもんだし」
気楽な様子で一人呟き、彼は――リパリエルス卿は校舎をさらに歩いて進んでいった。
その先に何があるのか、彼は知らない。ただひたすらに正直であっただけの彼は、何も知らないまま、状況を打破する。
「――ふむ、こっちの方かなぁ……いや、こっちか……? あらま、どこだっけここ」
傍から見れば何とも不安になる出発の様子を見せながら、リパリエルス卿は校舎の中を歩んでいく。
場を乱した闖入者と、その闖入者の思惑から外れた人間。
――――場外戦闘が始まる。
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