世代は違えど現る特異点
「〝絶対〟は本当に絶対だった!! 副会長を二度目に破った勝者はヴェニータ・フェニラルト―――ッ!!」
司会の言葉が声高く響き渡る。同時に、勝敗が決した。
最後の魔術の大技同士での拮抗。それは、火花を散らし、光を散らし、魔力を散らした末に、一つの結末へとたどり着いた。その結果こそが、ヴェニータの勝利だ。
「いい試合だったわ、カルロ」
「ええ、ヴェニータ様も、ですね―――私も、少しは成長できたのでしょうか」
「それは、私が証明するわ」
「光栄です。私は、貴女に認めていただけるなら踏み台と成り果てた甲斐があったというものです」
ヴェニータの魔術を直に受けて、カルロは少しばかり寿命を縮められたかのような苦しみ方を見せながらも、ヴェニータの前であるから、と最後の力を振り絞るようにして表情と佇まいを取り繕った。
その律義さに感心しながらも、少しばかりは心配し、ヴェニータは感想戦もそこそこにお互い控室へと戻ることを促す。カルロもその流れに従い、最後に二人で観客席へと深く礼をして、控室へと戻っていった。
「―――お疲れさまでした、カルロ様」
「あぁ、チトリス嬢か……ありがとう」
二組に分けられた控室の内、チトリスはカルロ側だった。
魔術戦前と比べ、少しばかりやつれているように見えるカルロに、チトリスは先んじて用意しておいた水を手渡す。カルロも礼を言ってそれを受け取り、一気に飲み干した。いつもは優雅な所作を崩さないカルロがそんなに勢いづいて水を飲んでいるので、それだけ疲れたのだろう、とチトリスは予想する。
「本当に、素晴らしい戦いでした……ヴェニータ様も、カルロ様も」
「そう、か―――微力ながら模範となれれば良いのだが……しかし、ヴェニータ様は恐らく、あれでも全力を出していらっしゃらない。まだ、私との差は大きいのだろうな」
「あれで、ですか……」
謙遜も多分に含むだろうが、それ以上に真剣に悔やむような感情が見え隠れするカルロの表情からして、カルロの言葉もあながち間違いではないのだと覚り、チトリスは思わず声が震えた。
先ほど見ていたヴェニータの戦いも、十分に特異点と評されて然りなものだった。謎の魔術を用い、二種類の魔術を使いこなす。そんな魔術師が、これまでにそう居たとは思えない。しかし、カルロが確かに断言する。ヴェニータの真の実力はそれ以上である、と。
「チトリス嬢が特異点であり、新入生の中で圧倒的な実力を誇るということは私も認めている。しかし、酷なことを敢えて口にするのなら、ヴェニータ様には、勝てない」
「……えぇ、そうなのだと思います。あの方と相対するまでもなく、ただ戦っておられる様を見るだけで理解しました。私がこれまで魔術戦で無敗を誇れたのも、あの方と対峙する機会が無かったからだということを」
「魔術戦……それはまた別の―――む、この話は置いておこう。チトリス嬢の出番のようだからな」
「分かりました。では、行ってまいります」
「うむ、善戦を期待しているよ」
小さく礼をして、チトリスは控室から舞台へと上がっていく。
そして、もう片方の控室から出てきた人影を前に、戦意を高めた。
控室の構成から、大体の采配は予想していた。
チトリス側の控室にいたのはカルロともう一人、先程は丁度席を外していたメイミダスの三人。であれば、もう一方の控室にいるのは先程戦いを終わらせたヴェニータとミティ、ニーチィの三人。その中で、恐らく采配として組まれるであろう相手はチトリスとしても理解していた。
この采配を組んだのは恐らく王立魔術学園の教師陣、もしくは教師陣を含めた貴族の上層部。それだけ魔術に秀でた者たちであると同時に、人の力量を見抜くことに長けた者たち。であれば当然、組まれた采配は力量が偏らないように工夫がなされているはず。
だからこそ、チトリスは彼女と相対している。今、二人して定位置に立って、チトリスは目の前の彼女を見据えた。
(ニーチィとの再戦は、またいつか……いい機会があるわよね。それは、今じゃない)
「―――よろしくお願いいたします、ミティ様」
「ぁ、は、はい、よろしく……お願いします」
視線をチトリスとは少しずれた右下やら左下で泳がせつつ、声を震わす彼女が強者であるなどと、素人目に誰が理解できるだろうか。観客こそ訓練された強者たちであるので、ミティの実力には察しがついているのだろうが、それでもミティの様相に疑問を持つ者が多い。
―――あれで、生徒会を務めていたのか
そう言った疑念が籠められているであろう視線が、ミティに突き刺さる。
しかし、ミティはその視線を気にも留めず―――というより、気にしていられない様子で、チトリスの方だけを見ていた。それも、真っ直ぐとした視線ではなかったが。
(この方は、本当に見た目だけでは判断できない)
ミティの実力は、恐らく生徒の中でも一握りの中に含まれる。ヴェニータのような上澄み中の上澄みと比べてしまえば劣るのかもしれないが、それでも十分に強者に違いなかった。
そのことは、彼女の戦いを実際に目の当たりにしたチトリスこそ理解している。
「ぅ、ま、負けませんからね……」
「ええ、私もその心算です」
学年は違うが、この場ではお互いに対等。ミティからの弱弱しい宣言に、チトリスははっきりとした戦意で返す。ミティの肩が、小さく震えているように見えた。
ここは、到達点ではない。ミティには失礼だが、彼女は通過点に過ぎない。
現状の到達点たるは生徒会長の座だ。カルロも、ヴェニータすら下して生徒会長の座に君臨する。それが、現在チトリスにとっての最大の到達点であった。その後のことは、言葉通りにそのあと考えればいい。
だから、まずはミティを下し、上級生の更に上に、立つ。
「――魔術行使一時許可」
二人の間で、魔素が蠢き踊る。しかし、その規模の違いは明白だった。
明らかに、チトリス側よりもミティ側で魔素の動きが大きかった。それは、チトリス側でこそ嵐のように渦巻くばかりだが、ミティの周りのそれは、恐ろしき悪魔を象るかのように暴れ狂い、周囲にまき散らされていた。
明らかな、魔術量の差が透明になる。しかし、チトリスはそこで勝ちを諦めたりなどは絶対にしない。
「吹き荒ぶ風よ、彼方より炎を纏い来て、その道を拓け――」
副会長であるカルロから着想を得た、詠唱改変。カルロほどに抜本的な改変は出来ずとも、細かい動作の変更であれば可能だ。小さく、細かく、そして緻密に。
「風の権能を我が手に――風破撃」
発動したチトリスの風魔術。一点集中かつ、攻撃力に重きを置いた『風槍撃』に比べ、恐らく人間に対する殺傷力は低いであろうそれ。しかし、対戦相手に対する攻撃力を代償として、『風破撃』は空間に対する作用を大きくしていた。
風がうず高く積もった落ち葉を蹴散らすように――『風破撃』がミティの周りの空間をそのまま押しのける。同時に、ミティの周りで蠢動していた魔素が、一気に霧散した。
(やっぱり、魔素の制御はそこそこどまり……!)
チトリスは予想を確信へと移行させる。
ミティの持つ圧倒的な魔力量。それは、周りの魔素がミティに引き寄せられるが如くすり寄っていく、ということでもある。魔術師にとっては、勝ち取るべき力が相手から来てくれるのだから、願ってもないような状況。しかし、ミティにはその先の力が足りていない。
魔素が近づいてきてくれたとして、それはその場に近寄ってきて揺蕩っているだけなのだ。それらを自らの魔力として包括し、扱いきれなければならない。魔素を、制御しなければならない。
「うぅ……む、昔から苦手なんです……ぅ」
チトリスの風魔術が、何を狙ったものなのか、ミティは聡く気づく。
しかし、気づいたとして今更遅い。
――チトリスは、勝ち筋を見つけていた
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