立場は違えど変わらぬはその意志
とんでもなくお久しぶりです、村右衛門です。
長らく、長らくお待たせいたしました。『絶死の権能』シリーズもようやく投稿再開となります。本当に、プロットを書こうとしない作者で申し訳ないです。
いとも、簡単だった。
カルロの発動している魔術が一つだけだと、そう勘違いしていた自分のミスに気づいてからの刹那。そこから自分の劣勢を覆すのは、簡単だった。
「―――水龍」
それは、ヴェニータが特異点であると言われた理由の一つだった。
しかし、表舞台でその所以を見せたことなどほとんどなく、一部の事情を知る者たちから、それは特異点だと言われてきた。そう、それは魔術師であればあり得ないことで―――、確かに異端児として呼ばれるにふさわしい特長だった。
「忘れていたわ、私って―――使う魔術は一種類じゃないの」
「ええ……っ! そのよう、ですね」
動揺を表情の下に押し殺し、カルロは徹して下手の態度を崩さない。
それは、本来誰もが理解するのに時間を要するであろう状況だというのに、カルロは一瞬にしてその状況を呑み込めてしまった。
―――本来、魔術師は一種類だけの魔術を極める
これは、魔術師一人に対して微笑む魔術の才は、一つだけだからだ。
魔術には後天的なものは存在しない。そして、先天的に与えられる魔術の才は、一種類のみ。ならば、魔術師たちにとって二種類以上の魔術を訓練するというのも意味のないことで―――。
いわゆる、一般的な考えというのが、それだった。
そこに一石を投じたのが誰あろう、ヴェニータの師でもあるスーディアであり、その小さな波紋を大きな波動へと変え始めたのが、ヴェニータなのである。
自分が極めている魔術―――つまりはその魔術師が先天的に手に入れた、才能としての魔術は魔術師にとって絶対的なもので、それ以外の魔術を極めることは一切の意味を持たないことだ。
それは、何故か。単純に言ってしまうなら、極められない魔術は扱えないからだ。少なくとも、実力本分の一割にも満たない力にしかならない。だから、魔術師は絶対に二つ以上の魔術を極めようなどとは考えない。
加えて、二つ以上の魔術を同程度の実力で扱える人間など、存在するはずもなかった。
「貴女は―――簡単に魔術の垣根さえも超えてしまえる……そういうことですね」
「それほど凄いことではないわ。異国の言語が自国では暗号に成りうるのと、何ら変わらないただ単純な事実に過ぎないもの」
カルロは、ヴェニータの発言の真意を測ることが出来なかった。
何を言っているのか、理解することが出来なかった。しかし、ヴェニータの発言がいつも深意に塗れていることなど、彼自身一番よく知っている。そして、今はまだその言葉の意味を図るだけの資格も、能力も、自分にはないということも―――、よく知っている。
「何が何でも、貴女を超す。それが、私の覚悟です」
「ええ―――、そうね」
カルロは、本気だった。
ヴェニータに勝てるなどと思っていない。それでも、負けるつもりもない。そう、最初に言った時の言葉は全く嘘偽りのない本心だ。圧倒的な神威を前にしても、カルロは絶対に引き下がろうとはしない。それが、神の御前で唯一、自分に出来ることだから。
―――正直、この戦いは踏み台として消費される
そのことは、カルロもよく理解しているところだった。
誰の踏み台として、か―――? カルロか、ヴェニータか? 否だ。
この戦いは、ヴェニータという一人の特異点から、次の世代たる新入生の中の特異点へと引き継ぎが行われる、そのための踏み台となるのだ。
この舞台に揃っているのは、確かにヴェニータとカルロの戦いを楽しみにしているものたちなのだろう。しかし、それ以上に新入生に期待を寄せている人間は、多い。それはカルロの想像以上だ。
その事実―――自分だけならまだしも、ヴェニータまでもが新入生の存在を引き立てるための舞台装置として消費されようとしている事実に、カルロは少なからず反感を覚える。今更、そして自分なんかには解消できないと知っているその反感。しかし、ふと目を向けた先の景色を前にして、カルロはその反感がいとも簡単に吹っ飛ぶのを感じた。
「さぁ、ここからよ……!! これが踏み台ならば、踏めないほどに高い踏み台にでもなってやればいい。そうしてこそ、私たちの戦いには意味がある、そうでしょう!!?」
―――ああそうだ。いや、そうだった
カルロは、一気に意識を切り替える。
自分たちが踏み台である、などという事実は既に分かっていたことではないか。そして、そのうえで、自分は何を為すのか。そして、何をヴェニータに見せるのか。それが、自分の出すべき答えであると。カルロは今理解した。
「ええ、何もかも、貴女の仰る通りです―――ええ、ええ……ッ!!」
気分が高揚していることが自分だけで分かった。
そして、無意識のうちに口から詠唱が漏れてくる。それが、目の前のヴェニータを打倒するためのものとして、溢れてくる。
自然に存在する、電気の移動。それだけのはずの雷の鼓動が聞こえてくるような気さえした。そして、自分の鼓動と共鳴する。
その時、雷鳴が遙か上空で大きく響いた。
◇
(ヴェニータ会長は当然として……副会長であるカルロ様も、警戒しておかないと)
雷鳴轟く空を見上げて、チトリスは一人思考する。
雲一つない空のどこに、雷雲があるというのだろうか。見渡してみても、雲一つない晴天で、遠雷にしては真上から聞こえてきたかのような切迫感がある。
この状況から導き出される答えは、一つだけなのだと、チトリスは理解していた。
(ミティ様だけだと思っていたけれど……いや、丁度今覚醒されたのかしら)
魔術と自然との共鳴。それは、魔術における一つの頂点である。
ミティがフルグルカとの戦いで見せた自然への干渉も、その一つである。その時に降っていた雨に水魔術を介して干渉し、結果としてそれらすべてを武器として見せた。それだけの効果範囲を持った魔術の行使は膨大な魔力と詠唱の緻密さを必要とする。
現在確認している限りではミティだけが可能としていることなのかと思ってたが、先程のカルロの上空で鳴り響いた雷―――そこから察するに、カルロも自然への干渉が可能になっているのだろう。
学園の上層に位置する生徒会役員とはいえ、これほどの技量を学生でありながら有している。それは異常ではあった。しかし、そもそもヴェニータにせよチトリスにせよ、特異点として認識されているのだ。今更ではある話だった。
「雷の権能を我が手に―――!! 鳳雷極ッ」
「■の権能を我が手に―――、破■滅■!」
お互いの詠唱の声が響き渡る。
砂が舞って埃と化し、それらが魔力の波動に押しのけられる。
何時しか、ヴェニータとカルロの戦いは佳境に迫っていた。
ヴェニータを相手にしてここまで耐えているのはカルロが初めてだろう。それが分かっているからこそ、観客席にいる貴族たちも声援を送るなんてことも忘れ、体を前のめりにしながら戦いに視線を送り続けている。
ヴェニータが扱う魔術が二つ以上であることも明かされ、その衝撃は凄まじい物であっただろうに、貴族たちはその事実を一旦は忘れることにしたらしい。
魔術師の世界においてはヴェニータの存在は異端となるだろうし、その存在に対する扱い方も考えねばならない。しかし、今はそんなことを考えていてもしょうがない。どうせ、ヴェニータに迂闊に手を出すことは出来ないのだから。
「―――絶対的女王を、引き摺り下ろしましょうッ!!」
「その凄まじい覇気、意気込みは認めるわ……!! それでも、絶対的女王は間違いなく〝絶対〟よ!!」
お互いの持つ、恐らくは最高火力。それは最初にカルロが避けた正面衝突によって、最後の雌雄を決するべくぶつかり合う。
ヴェニータの魔術相手には一切の太刀打ちが出来ない、というカルロの想像とは裏腹に、ヴェニータとカルロの魔術は拮抗した。それは〝絶対〟に相対し、その概念自体を崩さんとする、小さな芯。
成り立たなかったはずの拮抗は、やがて一つの結果を見出した。
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