戦えど変わらぬ力の真髄
―――人が多い
『覇阻の場』の観客席を埋め尽くさんばかりの圧倒的な人の数。それだけの人が、今代の生徒会を担う学生たちに興味を示しているということである。
中には現代を象徴する名高い貴族家当主、商売の繁盛を以て国の中枢にその身を捩じ込んだ商団一家の大黒柱、平和の象徴たる騎士団の面々と、国を挙げての行事にこそ参加するようなメンバーが揃い踏みであった。
その全員が、今代の生徒会だけでなく、次代、もしくは次々代のこの国を背負うであろう者たちの戦いを見ようとして集まっているのだ。
観客席の熱気が、控えのためのベンチにいるチトリスらのところまで伝わってくる。
皮膚が湧きたつ感覚があった。
「―――全員、全力を出して頂戴。でも―――、私は会長の座を奪われるつもりはないわ」
控えのベンチに置いて、生徒会役員たちが最後に集まっていた。
ここからはそれぞれの場所で待機し、魔術戦の時のみ表舞台へと上がってくるのだ。その時には、それぞれが敵同士である。
だから、今だけは生徒会役員、という一つの共通点を持った仲間同士。
「どこまで行けるかしらね、今年は」
「去年は会長が新入生でありながら私たち上級生を打倒して頂点に君臨しましたからね」
ヴェニータの言葉に副会長であるカルロが言葉を返した。
本来ならば、カルロはヴェニータよりも年上であり、敬語を使うべきはヴェニータの方である。しかし、この王国において魔術戦の結果というのは絶対的なもので、特にカルロが律儀な性格であったこともあり、明確な上下関係を構築するためにわざわざカルロが敬語を使っている。
「今年は、明確な特異点がいる。それは、去年の私を越えるかもしれないわ」
「『去年の会長』を、でしょう?」
「ええ、勿論。今の私は会長の座を死守しなければならないのよ」
ヴェニータとカルロは二人語らいながら、少し離れたところで一年生組と話しているチトリスに視線を向けた。そこにいるのが、今年の新入生の中での特異点だ。
去年のヴェニータに引き続き、このように連続して特異点が現れる、というのも恐ろしい話である。
「何か、変わりそうな気がするわね」
「この学園が、ですか?」
「いいえ? この王国―――最早、世界が、よ」
「そこまでの変化―――私には感ずることも出来そうにありませんよ」
カルロは、自分の力がヴェニータに大きく劣ることを理解している。
ヴェニータが自分の知らないことを知っていて、自分の分からないことを理解していることも、全てが当然であると思っている。ただ、自分にも分かることをヴェニータが言っているのならば、限りなくそれを理解したいとも、思っていた。
「貴方とも、今日は敵ね」
「今日までの一年間、副会長として支えてきたこの私を、討つ―――と?」
「ええ、勿論」
「それでこそです、会長」
ヴェニータとカルロは、お互いに微笑みを交わしながらそれぞれの持ち場へとつくべく、歩みを違えた。他の生徒会役員たちも、同様に別々の場所へと歩いていく。
観客席からその様子を見て、観客たちも魔術戦の始まりが近づいているのだ、と悟った。
「―――初戦は、ここですか」
「面白いわよね。この采配はセンスがある」
生徒会役員同士が戦う魔術戦。
特別な今日の魔術戦の一番最初、初戦を飾るのは、それにふさわしい二人だった。
お互いに、舞台の中央へと歩を進める。
「あの時以来のチャンスね。私が負けたら私が敬語を使うわ」
「ええ、そうしてください。勝てるとは思っていませんが―――負けるつもりもありません」
「私好きよ、その考え方」
ヴェニータとカルロがお互いの視線を交わした。
去年の最終決戦は、この二人であった。上級生であり、公式の魔術戦においてもかなりの戦績を誇っていたカルロと、特異点たる新入生ヴェニータ。観客からも注目を集めに集めた二人の戦いは、ヴェニータの勝利に終わった。しかし、ヴェニータと戦った同世代の中で、カルロ以上に善戦した人間もいない。
今年も、この二人の戦いが見られる、として期待しながら観客席に並んだ人間も少なくはないだろう。
「大丈夫よ、殺しはしないわ」
「それは、肉体を―――でしょう?」
「仕方ないのよ、私は特異点だもの」
ヴェニータとカルロの会話。ヴェニータと実際に魔術戦を行ってみないと理解できない会話だった。しかし、実際にヴェニータと魔術戦を行ったり、またはその戦いをすぐ近くで感じたような人間は、カルロの言葉が何を意味しているのか、理解できてしまった。
何とも、物騒な会話だと思う。しかし、ヴェニータだから、それが美しく見えるのだ。
「―――魔術行使一時許可」
リベンジの時が来る。
相手が相手だからこそ、本気を出せるのだ。
「大気よ燃えよ、魔素よ集え―――錬金魔方陣」
「大気よ燃えよ、魔素よ集え―――錬金魔方陣」
お互いの周りを取り囲む魔素が静かに、それでいて大きく渦を作り出す。
最早、観客にとっては見慣れた状況だった。去年も、同じだったのだ。二人が台頭した最終決戦、当然のように二人は闘志を燃やしているというのに、魔素はそれに呼応しない。否、呼応していたからこそ、あれほど静かな鳴動を呈していたのだ。
「■よ、その慟哭を闇に堕とし、■を祝福足らしめん。蝕みを止める破滅の光を以て悪を殲滅せよ」
「っ…………!! ―――ふぅ」
カルロがヴェニータの詠唱を聞きながら心を落ち着かせる。
何度だって、この詠唱は聞いてきた。そして、この先に何があるかについても理解している。だからこそ、絶対に選択を間違えない。
ヴェニータの放つ、謎の魔術。それを相手に自分の力を過信して魔術による相殺を望めば、絶対に成功しない。それは、悪手に違いない。だからこそ、カルロは逃げの一手を講じる。
「雷よ集え、包括せよ―――」
カルロは、詠唱改変に造詣が深い。
本来から存在している魔術を、その場に応じた形に改変して応用する。それができるのだ。
だからこそ、彼の魔術は時に不意打ちとなり、相手に襲いかかる。
―――魔術戦は、フライングばかりのターン制だ。相手の魔術が発動する前の詠唱を聞いて記憶と照合、どんな魔術が来るのかを予測して対処する。
ならば、相手の魔術を読み違えた側が負けるのは当然の摂理。
―――そしてこの時、ヴェニータは読み違えた
「■の権能を我が手に―――即■」
「雷の権能を我が手に―――包極雷」
お互いの詠唱が終わり、魔術が発動した瞬間―――、ヴェニータは自らのミスに気づいた。咄嗟に後ずさる。
ヴェニータの放った魔術、その不可視でありながら黒い〝なにか〟がカルロめがけて直進する。
しかし、カルロの雷魔術が、それを覆い包んだ。真正面から相殺するのは無謀だ。しかし、全体的に覆い隠すようにして威力を弱めれば―――!!
カルロの思惑は成功した。
「雷よ集えッ、雷の権能を我が手に―――極雷!!」
ヴェニータの扱う魔術は、詠唱に時間がかかる。手札を一回だけでいい。何らかの方法で潰せば―――勝機はある!!
限りなく高い電圧が、カルロを起点として周囲にかけられた。そして生まれた放電の雷鎚は、極まり、集って、ヴェニータに向かっていき―――、
「―――水龍」
―――地面から現れた水の龍に吸われて、消えた。
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