番外 魔術学園講義――魔力と錬金魔方陣――
番外です。
本編とは深い関係はありませんが、作中に登場する魔法についての概念や設定など、作者の脳内で展開されている妄想世界を少し共有しておきます。
複雑で分かりにくいかもしれませんが、読んでおくとこれからの本編がより楽しめると思いますので、ぜひ番外も読んでいただければと思います。
今回は、本編でも登場する魔術学園を舞台に、講義の風景を描写しながら設定について説明します。
「では、これより講義を始めます」
部屋に入ってきた講師が教卓の前に立ち、号令を促す。
この学級の学級委員であり、この学園の生徒会長でもあるヴェニータ・フェニラルトが声を上げると、生徒たちが立ち上がり、一礼した。
全員が着席したのを確認して、講師は授業を始める。
「では、ノートを開いてください。今日は魔術の基本についての講義をします」
本日の授業内容を聞いて、多くの生徒はぐったりと体を伸ばす。
魔術の基本など、ほとんどが貴族の卵であるこの教室で説明する必要などないようなものだ。
しかし、一年の初めである今の時期、このことを教えるように定められているのも同様に事実だった。
「まず、魔術の話に入る前に、魔力と魔力量についての話から」
そう言うと、講師は黒板に『魔力と魔力量』と書き込む。
ごく一部の生徒のみが黒板の内容を自分のノートに書き写した。
「まず、魔力とは空気中に散在している〝魔素〟を練り上げることによって構築されるもので、魔術の正体そのものです。魔力は、魔術構文によって様々な形や色に変化します」
そこで、講師は一拍置き、例えば、と言って詠唱を開始する。
「大気よ燃えろ、魔素よつどえ――錬金魔方陣」
講師の詠唱に、だらけて集中していなかった生徒たちの目線が初めて講師へと集まる。
錬金魔方陣を発動できるのは、王国内で随一の魔力量を持つ者のみ。
ここは王立魔術学園なだけあって、講師として勤めるのは全員が圧倒的な才覚をもって生まれた正真正銘の一級魔術師だった。それでも、全員が錬金魔法陣を扱えるわけでもない。
流石に貴族と言えど、日常的に最練度の魔方陣を構築は勿論、目にすることさえ出来ない。
クラディエル公爵家は別として、並大抵の貴族なら中練度の魔方陣が限界の場合がほとんどだった。
そのことも有り、魔術に憧れを抱き、誇りとしている貴族たちにとって、錬金魔方陣を見られる、というのは貴重な機会で、注目に値するものだ。
生徒の大多数の視線を感じながら、講師は魔方陣を足元に構築する。
幾何学的な文様が重なり合い、複雑な陣形を象った。
その眩い輝きに、生徒たちの目線は既に釘付けだ。先程までの注意散漫さが嘘のようである。
「風形・雷形・炎形」
三言、講師が魔術構文もなしに告げると、風・雷・炎が講師の正面に並んで生じる。
生徒たちから小さな歓声が上がった。
「これらは全て、魔力の集まりです。しかし、それぞれが自然界に生じる現象と同等の色や形、力を持っている。ところで、先程のように単純な自然現象をマイクロスケールで再現する魔術を総称して、何というでしょうか?」
講師が答えを求めると、生徒の半数以上が手を挙げた。
その内、一人の生徒を指名すると、講師は腕の一振りで先ほど生じさせた三つの簡易魔術を霧散させる。
「はい、象形魔術です」
「そうですね。先程のようなマイクロスケールでの自然現象再現を象形魔術、またはもう少し広義にはなりますが、簡易魔術、などと呼びます」
「では、次に魔力量についての話に移りましょう」
ここまで話したことを粗方黒板に書き起こしてから、講師は手に持っていたチョークを台に置き、手についた粉をはたいた。
「人はそれぞれ、魔力量が定まっています」
そう言いながら、講師は黒板に人間の図を書き始める。
「そして、これが人の魔力量です。器のように思ってもらえればいいでしょう」
講師は人の図の中心に丸く円を書いた。
そのまま、横にもう一つ人の図を書き、先程より一回り大きい円も描き加える。
「このように、魔力量には個人差があります。そして、魔力量によって使える魔術の練度や数に限りが生じます」
そう言って、講師は二つの人の図の間に不等号を書いた。
「ですが、今の説明ではいささか不十分な点がありますね。誰か、補足の説明が出来る人は?」
そう言って講師は講堂を見渡した。
しかし、今回は手を挙げる生徒がいない。少し難しすぎたか、と講師は考える。
「では、これは次までの課題として―――」
次の話に移りましょうか、と言おうとした時、一人の生徒から手が挙がった。
「わざわざ次の講義まで持ち越す必要はありませんわ、先生」
手を挙げたのは生徒会長であるヴェニータであった。
講師は、満足そうに頷いて、ヴェニータを指名する。
「魔力量は本能的・感覚的なものです。実際、魔力は空気中に無限に存在する魔素を集めればいくらでも構築でき、魔力を持つ量によって魔術の練度や数が制限されているわけではありません。魔力量、とは本能的にこれ以上の魔術は行使できない、これ以上の魔力は使えない、という制限をするものです。先生は魔力量を〝器〟のようだとおっしゃいましたが、実際には体と外界を隔てる入り口と出口のゲートのようなものだと言えます」
そこまで説明してから、ヴェニータは席に戻った。
講師は少々大袈裟に拍手をしてから、その通り、と大きく頷いた。
「正にその通りですね。私の言った器、という表現の間違いにも良く気づきました」
講師が褒めると、生徒たちからも拍手と歓声が上がる。
「流石はヴェニータ様」「我らが生徒会長だ」
賞賛の言葉が上がる中、ヴェニータはその一切を気にしないかのようにしてノートに魔術構文を書き始めた。彼女は常に授業に参加しながらも自分のノートで魔術の研究をしているのだ。
「はい、では次に錬金魔方陣についての話をしていきましょう」
講師はヴェニータに指摘されていたところについて黒板に書いていたことを訂正し、続きに錬金魔方陣、と書いた。
「錬金魔方陣は全ての魔術の基本です。どんな簡易魔術も錬金魔方陣を構築せずに行使することは出来ません。そして、錬金魔方陣には等級がありましたね。すべて言えますか?」
そう言って生徒たちを見ると、今回は多くの生徒たちが手を挙げた。
その内の一人を指名する。
「低い順から《白》《紅》《翠》《蒼》《金》の五つです」
「そうですね。基本的には《紅》が発現できれば貴族としてはOKサインをもらえるでしょう。上流貴族になってくると《翠》や《蒼》が求められることも有ります。《金》を発現できるのは王国でも有数の魔術師ですので、出来ないからと言って劣等感を感じる必要はありません。この学園でも発現できるのは講師を除けばたった一人です」
生徒たちの視線が一点の方へと向く。しかし、視線を向けられた生徒は気にしていないように無視し、ノートに向かい続けていた。
「さて、錬金魔方陣は練度の高いものを構築すればそれだけ制限が解除されます。《白》では基盤魔術属性のみを用いた単純詠唱。つまり、何の補助詠唱も加えていない魔術のみが使えます。《紅》では、基盤魔術属性と同じ属性による補助詠唱が可能になります。いくつの補助詠唱をつけられるかについてはそれぞれの魔力量によって変化します。《翠》になると、基盤魔術属性と近い性質を持つ補助魔術属性、例としては風と水、というようなものですね。その二つの異なる属性で補助詠唱が可能になります。《蒼》になれば性質の異なる属性を併合した補助詠唱が可能になり、《金》では細分化された魔力密度や速度などの意図的な調整が行えるようになります。まあ、魔力量によってつけられる補助詠唱の数が制限されますが……」
そこまで言い切ってから、例を見せましょうか、と言い、講師は詠唱を始めた。
「燃え盛る炎よ、木を、空を焦がせ」
講師が始めた魔術構文を聞いて、一部の生徒は明らかに反応した。
授業にも参加せず、ノートとにらめっこを続けていたヴェニータも、この時ばかりは視線を上げる。
これは、王国最強と名高い、クラディエル公爵家の当主の十八番であり、代名詞ともいえる魔術……の言わば劣化版だ。
本来ならこの詠唱の先に基盤魔術属性に設定されている炎属性と対極にある水属性の補助詠唱が入る。
「風よ来たりて、炎を追いやる勢いを持ち、雷さえも退けよ」
「炎の権能を我が手に――。炎神揮斧」
魔術詠唱が終わると、講師の背後に炎で形成された斧が発現した。
「私の魔力量では、これ位が限界ですかね」
そうは言うが、この講師の発現させた魔術も、十分に圧倒的なものだ。
水属性の補助詠唱をつけることが出来ているスーディア・クラディエルが人外なだけで。
「さて、先ほど話した錬金魔方陣の特徴には足りない要素がありますね。誰か分かりますか?」
この質問は生徒たちにとってもよく知っているところだったらしく、手は多く挙がった。
「はい、錬金魔方陣では一部の魔術を魔術詠唱無しで行使できます。しかし、その精度はそれぞれの魔力量に依存します」
生徒はそう言って席に座る。言って欲しいことは全て言ってもらえたようで、講師が満足そうに頷いた。
「その通りです。錬金魔方陣の中で自分が発現させられる等級は魔力量によって変化しますが、魔力の扱い方を知る前は自分の魔力量より低い等級の魔方陣しか発現させられないことがあります。魔力の扱い方については日々、修練を怠らないように」
そう言って、講師は壁に掛けられた時計を見た。
時間を確認してから、講師は教卓の前に立ち、講堂を見渡す。
「では、今日はこの辺りで講義を終わります。皆さん、お疲れ様でした」
ご読了、ありがとうございます。
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本編の次話は5月19日(金)の午後九時に投稿予定です。




