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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第三章 四離四戦フォーオー
29/37

白が映えるは闇夜にて

お久しぶりです、村右衛門です!

サンチェスシリーズの完結に伴い、こちらのシリーズの投稿を再開していきます。

投稿頻度はサンチェスシリーズ同様に毎週土曜日の19時の予定です。よろしくお願いします!



  ◆



 ここは、マルティアル王国王都郊外にある森の中、隠されるようにして木々に覆い隠され、それでいて荘厳に聳え立つ一つの白塔。―――大聖堂である。

 マルティアル王国に、公式に認定された聖堂は存在しない。そもそも、宗教という概念がマルティアル王国では明確な存在感を持たないからである。確かに、それぞれの信仰について制限するような規則はなく、宗教が禁止されているわけでもない。しかし、宗教という思想が集団を形作ることが無いのだ。


 であるから、この場所は異質だ。

 大聖堂などは存在しないはずのマルティアル王国にただ一つ存在する、大聖堂。

 信仰の集まる象徴であるこの建築物は、闇夜の黒に相反する白で構築され、中にはステンドグラスで描かれた天使たちの聖戦がある。そして、何より特徴的なのは、その中央に位置する祈りの間に置かれた彫刻である。

 修道女の服装の女性を象ったもので、一見すればなんの変哲もない彫刻の芸術作品のように見える。しかし、何よりおかしいのはその首が少しずれていることだ。人間が生物として、生命を持っている以上はあり得ない状況。首を一断され、ずれ落ちている最中かのような、恐ろしい彫刻。


 これが、〝絶死の聖女〟の姿だとされている。


 この大聖堂に信仰を寄せるは、〝聖女を信奉する者〟―――。


 ………………


「対の信者よ、よくぞ戻った」


 大聖堂の祈りの間に、声が響く。

 夜の星々がステンドグラスを通して差し込み、淡い光に照らされた神秘的な光景の中で、一人の老爺と青年が相対していた。

 片や、青みがかった薄鼠色の短髪を揺らす青年―――、片や上等な白い衣に毛の生えない皮膚を包んだ老爺。一見するだけならば、祖父と孫にも見えるような年齢差であった。


「教皇様、本日もご壮健で何よりです」


「うむ、堅苦しい挨拶はよい。報告せよ―――、聖女様はどうであったか」


「はい、とても麗しく居られました。ただ、未だ()()()()()かと」


「成程、宣戦布告は果たせたのだな」


「ええ、少々誤算はありましたが、恙なく」



 淡々たる口調で、対の信者―――フルグルカは教皇に報告する。

 宣戦布告をチトリスに向けて行い、スーディアに惨敗はしたものの、フルグルカはすでに目標を果たしていた。何よりも重要なのは、チトリスの自らは戦場にいるのだ、という意識だ。それを奮い起こすこと。それが、今回のフルグルカの目的であった。



「よくやった、対の信者よ。そなたには次段階の統率の任を与えよう」


「光栄の至りにございます、教皇様」


「次段階は翌月―――詳細は後に通達する」


「承知いたしました」


 フルグルカは、教皇が下がれの合図をするのを確認して、静かに一礼し祈りの間から出ていく。

 教皇は、フルグルカの去ったことを確認してから、ふと溜息をついた。

 次段階を成功させることは、悲願の成就へと近づくための大きな一歩となる。フルグルカに任せたのは、それほどに重要な任であった。だからこそ、本当にフルグルカでよかったのか、と悩む。

 


「絶生の権能さえなければ―――、あやつを取り立てることなどせずに置けたのに」


 こんな呟きは、フルグルカには聞かせられない、と自覚しながら教皇はまたも、溜息をついた。




  ◇




 魔素が氾濫した川の水の流れのように暴れ狂う。

 二人の実力者―――しかも生徒会役員が決闘をしている、というので興味を持った学生たちも集まり、観客も十分。ここは昼休憩の短い間、簡易的な魔術戦大会と化していた。

 しかし、それほどの注目度もやむなしを言われる両人が決闘を行っているのだ。話題になるなどは当然の如く、リアルタイムで観客が集まるのさえも当然と言えた。



 片や新入生の特異点である、と生徒会長から評価を得たチトリス・クラディエル―――。


 片や〝早撃ちの碧魔士〟の二つ名を持つメイミダス・コーディアヌス―――。


 どちらも新入生の中で行われる生徒会役員選抜試合にて優勝候補と目された実力者同士である。結果的にはチトリスが圧倒的な実力を見せて終わったわけだが、それでも決勝戦までのメイミダスの快進撃には目を見張るものがあった。チトリスがいなければ、メイミダスが特異点と呼ばれていたであろうことは誰もが理解していることである。

 候補者として集められた人たち―――つまりは新入生の中でもある程度の実力を認められた上澄みの者たちの中でも頭一つや二つも抜け出ており、その者たちをも踏み台にして見せたその圧倒性。チトリスだけでなく、メイミダスにも注目が行くのは当然だった。



「―――では、よろしくお願いします、チトリス様」


「ええ、お手柔らかにね、メイミダス」


「御冗談を―――、私が挑戦者なのには変わりありません」


 選抜試合の始まりにもしたような言葉の掛け合い。

 それだけで、当時よりも大きな魔素の蠢動が生じた。うねる大蛇の如く暴れ狂い、その場を支配する。二人の実力者を中心として渦を巻き、魔素が自分たちを操って戦う二人をも超える戦意を表明した。

 二人の足元にはすでに翠と蒼の錬金魔方陣が組まれている。



「では、始めましょうか」


「ええ、いつでもいいわよ」


「では――――――」


 メイミダスは、懐に事前に入れていたコインを取り出す。

 それを軽く指で弾けば、小さな金属音が響いた。そして、そのコインが物理法則に則って地面へと迫る。最早、チトリスもメイミダスも、二人ともがコインなど眼中に入れていなかった。


 コインが地面に落ちたと同時に小さすぎる衝突音が二人の耳朶を打つ。しかし、緊迫感に肌をぴりつかせる静寂の空間ではその音は嫌に大きく空気を震わせた。



「稲妻よ光れ、雷よ集え―――」


「――――――ふふ」


 チトリスがメイミダスの詠唱を聞いて小さく微笑みを漏らしたのを気づかないふりをしたまま、メイミダスは詠唱を続ける。自分の手の内など見透かされているのだ、と理解したうえで、挑まなければ、メイミダスは気が済まない。



雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――雷光」


「やはり、早撃ちは基本戦術なのね」


 そういいながら、その早撃ちをチトリスは身のこなしだけで避ける。

 最早、チトリスが動いたことを音だけでは察知できない。チトリスの身のこなしは流れるように滑らかで、ほとんど音がしていないのだ。チトリスの周りは聖なる静謐が満ちているかのように、チトリスの周りだけは無音の空間として切り取られていた。


雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――極雷」


 メイミダスは、チトリスが体を小さく動かして雷を避けたのを確認してから、堅実に魔術の二つ目を放つ。この戦法を入学式で見ていない生徒会役員でない上級生などはメイミダスが突然始めた疑似的な詠唱短縮に疑問の声を漏らすか、感嘆の声を漏らすかした。


 チトリスの行った疑似詠唱よりは詠唱の工夫が足りないが、それでもある程度の相手ならば誤魔化して不意を突くことが出来るであろう出来栄えだ。

 まさしく、公式に行われる魔術戦でこそ使われるべき戦術であり、週に一度、と約束の交わされた王立魔術学園での個人的な決闘などで明かされていいものではなかった。しかし、メイミダスはチトリスを打倒すべく、惜しむことなく自らの持ちうる全てを出し切らんとする。その全てには選抜試合にてチトリスが展開した疑似的な詠唱短縮の技術も当然含まれていた。

 あの戦術を見てから、メイミダスは個人的にその技術を手に入れるための鍛錬を行った。単純に疑似的な詠唱短縮の技術を手に入れるだけならば、簡単なことだ。チトリスに種も明かされたのだから、真似をするだけでよい。


―――しかし、それでは足りない


 メイミダスは、あらゆる戦況パターンを予測し、それぞれについてどのような詠唱短縮が必要かの研究を行った。

 チトリスはこの詠唱短縮の生みの親なのだから、その種を明かすは知人の声が誰のものか明かす程に容易であるはず。だからこそ、メイミダスはチトリスにその種を暴かれた前提でその先を読むことに徹した。



―――行動予測、先手を打ち、二連続の魔法砲撃。

 

―――行動予測、魔法砲撃と防御壁の詠唱、打撃を防壁にて凌ぐ。


―――行動予測、魔法砲撃を見切って回避、二重の防御壁詠唱。


―――行動予測、高威力の魔法砲撃に二連続の防御壁で勢いを殺す。



 そうして戦っていれば、メイミダスは意外にも自分がチトリスと戦いを続けられていることに気づいた。魔法砲撃についても見切れている。打撃も防御できている。

 常日頃は自らの先手ばかりで気にしたことのなかった相手の行動が、予測するだけで手に取るように分かる。この時、メイミダスは戦意の向上によって一種のゾーンに入ったような状態になっていた。



―――楽しい、楽しい、楽しい!!


 これまで、これほどまでに魔術戦を楽しいと思ったことがあっただろうか。

 メイミダスは、その一家の教えによって早撃ちを極めてきた。それ以外も能力の多寡が激しくなく、高水準なオールラウンダーとして出来上がったメイミダスだが、最終的に極めたものは何かと問われれば早撃ちだと答える。それほどに、早撃ちを重視してきた。

 だからこそか、魔術戦がこれほど続くことなどメイミダスの戦いでは有り得なかった。

 メイミダスが早撃ちを極めれば、周りの人間は如何にかしてメイミダスに追随せんと早撃ちを極め始めた。しかし、メイミダスの成長速度に追いつける者はいない。そうして早撃ちで勝ち目無しと悟れば、次は早撃ちを一度受け切り、早撃ちの舞台からメイミダスを引きずり降ろそうと考えるものも出てきた。しかし、メイミダスの早撃ちをそもそも受けるだけの防御壁を、メイミダスの早撃ちよりも早く顕現させることは出来なかった。


 一撃目で終わるのならば、メイミダスにとってそれは誇りであった。

 しかし、同時にそれはメイミダスにとっての魔術戦足りえなかった。魔術戦とはお互いが魔術を交わし、その攻防が成立してから初めて魔術戦足りうるのだというのがメイミダスの持論である。であれば、一撃目だけで終わり、攻防の「攻」だけが成立しているのは魔術戦ではない。ただの蹂躙だ。



 云わば、メイミダスはこれまでの人生で、魔術戦など数えるほどしか経験していないのかもしれない。蹂躙ならば何度、何十、何百も経験しているが、魔術戦は少ない。

 それが覆されたが数日前、そして魔術戦が成立し、その楽しさを理解させられたのが今日である。



「チトリス様、今日は本当に良い日です!!」


「それは良かったわ。私も今、とても楽しい!」


 恍惚の表情を浮かべたまま、その行動は抜かりない。

 お互いが行動予測をしあいつつ、打撃と魔法砲撃、そして防御の一手が絡み合っている。


 目の前で巻き起こされる目に負えないような圧倒的な魔術戦。

 その様相は既に昼休みのひとときにあっていいような決闘の範疇を超えていた。あまりにも長く続く決闘に『昼休み明けの授業は決闘終了まで延期する』という放送がなされたのは何時頃だったか、最早忘れてしまうほどだ。

 本来ならば授業優先なのだが、もともと実力重視でお互いの合意を得たのならば決闘も自由な王立魔術学園である。それに加えてチトリスとメイミダスという生徒会役員であり、今代の注目株が決闘しているとあれば、教員側も強制的に終了を促すことは出来なかった。


 何より、恍惚のままに決闘を行う二人を止める無粋など、あってはならない。

 これほどに、決闘に熱狂したのは何時振りか、と教員側さえもが観客に回っている。


 週に一度、という約束をしたものの、その第一回からこれである。

 教員側としては毎週このような決闘が行われるのであるから、不安の種となるのであろうが、まだ彼らはそのことを知らない。今はただ、熱狂しているだけだ。



「嗚呼、終わってしまうのが惜しい。いつまでも、この身果てるまで戦っていたい!!」


「ええ、『楽しい!』楽しいわ!」


 そう言いながらも、終わりが近づいていることに、二人ともが気付いていた。

 魔力量は基本的に先天的なものが全てだ。つまり、メイミダスはチトリスに魔力量では勝てることはないだろう。であればその魔力量に応じた戦い方を考えるべきなのだが、彼らの決闘は長引きすぎた。そろそろ、幕を引く時間だ。



「『感情の増幅を感じる』わ!!」


 そう叫んだと同時、チトリスの体が大きく躍動する。

 魔素が、チトリスの体捌きに呼応するようにして大きくうねった。その体は龍を成し、その咆哮でメイミダスを消し去らんとするほどに膨れ上がる。

 メイミダスは確かに、そこに龍を見た。錯覚だといわれても、メイミダスは譲らないだろう。




「―――でも、お終い」


 寂しそうに、チトリスの呟きが零れた。

 メイミダスとの戦いを楽しんでいたチトリス(絶死の聖女)だが、チトリスは自分が戦いを楽しんでいることの危険性に遅れて気づいたのだ。

 あと十数秒。ただそれだけ戦っていれば、チトリスの中の〝絶死の聖女〟が戦意を露わに飛び出してきただろう。彼女は、戦いが好きなのだ。戦場が好きなのだ。それも、気分の高揚するような、白熱した戦場が。


 メイミダスとの戦いは、楽しかった。

 それは〝絶死の聖女〟だけの感覚ではない。チトリスも同様に楽しさを感じていた。だからこそ、終わらせねばならなかった。

 それだけに、悔しさも寂しさもある。しかし、寂寥を避けんとして破滅を導くは愚行だ。



 チトリスの手刀が、メイミダスの首筋に添えられていた。


 最後の一撃。

 魔術師にとってはその身の誇りであろうその一撃を、魔術によるものではなく手刀という肉体的な技にしたのは、チトリスだからこそだ。

 チトリスにとっては魔術と体術の違いなどない。ただ、その時により効率的かつ合理的で、効果的な一撃を選択する。その結果が、なんであるかはその時次第だ。



「負けました。流石の一言に尽きます」


「メイミダスも、流石だわ。これほどに技術を吸収されるなんて」


 決闘後の感想戦が始まり、教員たちは良いものを見た、と満足顔で次の授業の準備をするべく校舎に戻っていった。

 観客であった生徒たちも、次の授業の準備をしなければ、と興奮冷めやらぬままに帰路に就く。決闘場から人が少なくなっていく儘に、チトリスとメイミダスの戦意も今更ながらに冷まされてきた。

 〝絶死の聖女〟も、つまらない、と言いたげにチトリスの思考の奥底へと帰っていく。


 ………………


「偉そうなことを言うなら、もう少し自分を信じてもいいかもしれないわね」


「といいますと?」


「貴方の行動予測は的確なものが殆ど。けれど、確実性を求めて判断が遅れることがある。もう少し、自分の行動予測を信じてみたほうがいいわね」


「成程、アドバイスありがたく頂戴します」


 次の授業の準備をしなければ、と早歩きで教室に戻りながら、チトリスはメイミダスにアドバイスをする。これも、一つの約束であった。

 そもそもメイミダスがチトリスと決闘をするのは強者たちの中では無力な自分への戒めであり、そのような自分との決別のためだ。ならば、強者であるチトリスからのアドバイスを受けられるほうが圧倒的に成長しやすい。


 メイミダスは、チトリスに追い付けたなどとは考えていない。

 先程は確かにチトリスの行動を予測し、それに合わせた行動をできていた。しかし、最終的な結果はメイミダスの敗北。しかも、メイミダスが思考を急速に回し、その熱で汗をかく中でチトリスは涼しげな顔をしていた。攻防が成立していただけだ。

 情けはかけられていなかったのだろう、とは思う。それでも拮抗できていなかった。


 

―――まだ、上にいる


 チトリスとの距離を実感すればするほど、自分の弱さを実感し、同時に克己心が燃え上がる。

 メイミダスは成長するという点に関してよい性格をしていた。成長しやすい性格だ。



「是非、来週もお願いいたします」


 そう言って小さく頭を下げるメイミダスの瞳では、克己と克彼の焔がその勢いを増していた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


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