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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
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――入学――


 怒涛のフルグルカ戦も一旦は収束し、今度こそチトリスは王立魔術学園への入学を果たした。

 そして、今日が初めての登校日である。


 

「さて、私のクラスは……っと」


 クラスの分割表が張り出された王立魔術学園校舎の一角で、チトリスはその表の中から自分の名前を探していた。


 今は生徒たちの数もまちまちな早朝の刻である。本来なら今より二時間ほど後でも全く問題なく授業には参加できるのだが、チトリスが普通の時間に来てしまうとまたも人だかりができる可能性もある。社交界のような場所ならばそのようなことが起こるのも仕方のないことだと割り切れるし、あきらめて受け入れるのだが、今日は初登校日なのだ。

 チトリスの周りにできた人だかりによって初日から遅刻するような人が出てきては困る。そして、遅刻するかもしれない人の中にチトリスもまた、含まれるのだ。

 初日から印象を悪くするのはチトリスとしても避けたかった。



「あら、ニーチィも同じクラス」


 チトリスの口が少し綻ぶ。

 入学式を通して利害関係なく仲良くなれただろう、と感じたのはニーチィ一人だけであった。


 他にもチトリスと関わろうとする新入生は勿論多かったが、殆どが社交界にデビューして間もないような子供たち。チトリスを見るというより、チトリスの先にあるクラディエル家との関わり、という利益を見ている視線が隠せていなかった。

 チトリスとしても自分が公爵家の令嬢に生まれたことの宿命だと割り切ってはいる。しかし、そのような視線がはっきりと見えてしまうと純粋な人間関係は築けなくなった。


………………


「チトリス様、ご機嫌麗しゅう」


「あら、メイミダスも早起きね」


 ふと、チトリスが割り振られたクラスの教室に向かう途でメイミダスが正面から歩いてきた。

 メイミダスも一人の貴族の卵である。その所作は流れるように美しい。それでいて、稲妻の如くキレのある、騎士の動きも垣間見えた。早撃ちの碧魔士と呼ばれるだけはある。一挙手一投足のどれをとっても、精錬された動きだった。


「早く動けば動くほど良い、というのが一家の教えです」


「流石は早撃ちを極めたコーディアヌス家の御子息……日々の生活すらも鍛錬というわけね」


「いえいえ……その早撃ちですら貴方様には届かないのですから、まだまだ鍛錬は必要です」



「『其方なら極地には近い』……」



「??……それはどういう?」


「……っ、いえ、何でもないわ」


 日常的な会話である。貴族である以上、どうしても社交辞令などが混じってしまうのは宿命か。しかし、それでも穏やかな会話には違いなかった。


 だからこそ、突然割り込んできた異物には誰もが過敏に反応した。

 チトリスの思考に乱入した〝絶死の聖女〟。フルグルカとの戦いの頃から更にその存在感を強めた彼女は、チトリスの思考の一部を常に稼働させねば抑えられなくなっていた。


 時には先程のようにチトリスの言葉として顕出することもある。



 最近のチトリスの課題としては、自らの絶死の権能を制御するだけでなく、現実に応用する方法を模索することと、〝絶死の聖女〟に対する応策を考えることの二つが大きかった。

 それ以外についても考えなければならないことは多いが、最も重要性の高い物はこの二つだ。



「そう言えば、チトリス様」


「??どうかしたの」


「いえ……烏滸がましいことを述べることを先んじてお詫びいたしますが―――」


 少し言いにくいようにしてメイミダスは次の言葉を口にすることを躊躇った。

 チトリスはそのメイミダスの様子を咎めるわけでも急かすわけでもなく、静かに待つ。


「この王立魔術学園には生徒の使用できる模擬戦場があると聞きます。いつは問いません。可能な時で構いませんので、週に一度程度決闘を受けていただきたい」


「……? それくらいなら構わないけれど……何故?」


「先日の賊の件で、私は何もできなかったのです……!」


 メイミダスは、声を荒げはしない。それでも、その一言にメイミダスの感情の全てが現れているのではないか、というほどに激情が現れていた。


 チトリスは、その気迫に少々圧される。声量も抑えられているし、口調も語調も強いわけではない。それなのに、メイミダスは確かに感情をむき出しにしてその言葉を吐いているのだと、チトリスは理解した。



 メイミダスは、自分の実力不足を憂いているのだ。そして、悔いている。

 自分が、フルグルカとの戦いで何の役にも立てなかった、と感じて自責の念を抱えているのだ。それだけなら、チトリスは何も考えることはなかっただろう。そのような人間―――実力不足に嘆く人間には何度も会ってきたのだ。今更心を動かされない。



 しかし、自分の実力に憂えて克己心を育む人間は、チトリスも好きだった。



「ええ、では週の終わりに一度、決闘をしましょう」


「……!! ありがとうございます」


 メイミダスの瞳が輝く。

 自分より強いなどという言葉では生ぬるいほど、圧倒的な相手であるチトリスとの決闘を定期的に取り付けることが出来たのである。

 上を目指すものとして、これほどに光栄であり、有効な鍛錬方法はない。そして、メイミダスは全く意識していなかったが、これは他の意味でも大いに意味のあることだった。



 ちなみに、チトリスの人気はただ単なる貴族の位の高さによって構築されるものではない。

 その滑らかに輝く金色の長髪、長いまつげと宝石のように美しい瞳。その容姿は「金色の芍薬」と称され、社交界でも持て囃されている。


 そのチトリスと、週に一度は確実に会うことの出来る約束を取り付けることが出来た。本来なら、新入生、先輩を問わず、男女問わず、誰もが求める権利であろう。

 メイミダスは全く、意識していなかったし理解もしていなかったが。



「では、よろしくお願いいたします。私はこちらですので……また、お会いしましょう」


「あら、メイミダスもこのクラス?」


「『も』ということは……」


「新入生の生徒会役員は全員同じクラスなのね」


「そうでしたか……、改めてよろしくお願いいたします、チトリス様」


「ええ、よろしくね、メイミダス」


 この学園の大部分の生徒がメイミダスのような役回りを望んだだろう。この場面が早朝に展開されたことがせめてもの救いである。こんな状況が生徒たちの目の前で起ころうものなら、メイミダスは恐ろしいほどの羨望の視線を受けていただろう。

 


  ◇



 新入生を含む生徒たちが登校する時間になって―――。


 クラスの分割表を見ながら生徒たちが一喜一憂する。


 チトリスは入学までに打算無しで仲良くなれたのがニーチィ一人だけだったが、他の新入生の中には多くの友人を既に社交界などで作っている人もいる。そのような人にとってはクラスの割り振りは非常に重要なのだ。

 そして、今年に関してはそうでなくともこの国に二人しかいない公爵令嬢の一人が新入生にいるのである。クラスの割り振りが気になるのも仕方のないことであった。

 それこそ、クラスの割り振りを気にしていないのは皆に注目されている当事者のチトリスや、まだ恋愛やら友情やらに目覚めていないメイミダスくらいのものである。



「はっ……!! チトリス様と同じ……!!」


 混みあうタイミングを避けるため、少し遅れて登校したニーチィは人の少なくなったクラスの分割表を見て独り声は小さく、されど感情溢れて声を漏らす。

 選抜試合の時、勇気を出して声を掛けて、結果的にチトリスからも気に入られたニーチィは、新入生の中でも稀有な存在である。



 チトリスの、学生生活が始まる―――。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

今話にて第二章は完結となります。

来週は一度登場人物紹介を投稿し、その後はサンチェスシリーズに戻る予定となっています。



知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


いいねや評価、ブックマークなどもあります。是非、気が向いたらボタンを押すなりクリックなり、していってください。


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