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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
22/37

――聖女――



「よくぞ看破された」


 瞬間、三十人ほどの仮面の集団が、中央の一人を除いてふらりと地に伏した。

 ばたりばたりとその場に倒れ、仮面を落とす様子は、人の儚さを彷彿とさせる。しかし、その集団はそもそも人ではなかった。


「まさか……人形!?」

 その本質に、誰も気づけないほどの精巧な出来だった。

 だからこそ、誰もが気付かずに戦闘状態に入っていた。ヴェニータでさえ、その正体は看破できなかったのだ。

 

 チトリスも観察の末、偶然に発覚した事実を述べたまでである。

 偶然がなければ、攻撃をしても無駄な人形を叩き続けることにしかならなかった。



「その通り。これらは単なる傀儡、魔術に依り一定の動作をするよう設定されただけの人形です」

 丁寧な口調とは裏腹に、殺意だけは漏れている。

 人形たちが人間だと錯覚されていた要因の一つに、濃密な殺気があった。

 それらは全て、この男からのものだったのだ。本来なら一人から溢れ出すにはおかしい量のさっきだったこともあり、それが一人のものであるなどとは看破できなかった。



「何も怯える必要はないでしょう。こちらに攻撃の意図はない」

 そうは言いつつも、その殺気が生徒会役員の緊張を解かせまいとしていた。

 ヴェニータを含む全員が、いつでも魔術を行使できるようにと戦闘態勢を維持している。

 

 男が困ったような表情を浮かべる。 

 それだけを絵にするならば温和な青年にしか見えない。

 

「今回、私は襲撃を目的としてきたのではないのです。ただ、宣戦布告をしに来たのみ」

 そう言って、青年は仮面をその顔から外す。

 その顔が露わにされた。



「私はフルグルカ・ミスティアルド―――ただ〝聖女〟を信奉する者」


「そして―――貴方方の、敵となり、障害となる男だ」



 チトリスの肩が震えた。

 『〝聖女〟を信奉する者』と述べた彼の目が、はっきりとチトリスを見据えていたからだ。

 そして、チトリスには思い当たる節がある。



 絶死の聖女―――!!



 絶死の権能に覚醒した時から、チトリスの中に住まうようになった意識下の存在。

 最近では活動が低下しているようだが、その存在感は消えることがない。

 チトリスの意識の片隅、何時までもどこかしらに残り続けているのだ。


「チトリス公爵令嬢」

「―――!!」


 ふと、ヴェニータに声を掛けられて初めて、チトリスは自分の周りに魔力が集まってきていることに気づいた。

 フルグルカの言葉に呼応するかのように、絶死の聖女が現実世界に干渉しようとしていたのだ。

 チトリスははっとして意識下の彼女を元の場所に戻す。


 魔力の渦が収まった。

 濃紫の魔力になる前に抑え込めてよかった、とチトリスは内心安堵する。

 またも暴走状態になれば、スーディアが相手でない以上、誰を殺すことになるか分からない。



「ああ……やはりだ!! 私の―――」

焔■(黙りなさい)―――」


 フルグルカの言葉を、ヴェニータの魔術が遮った。

 錬金魔方陣の極点である、金の錬金魔方陣。その最大の恩恵は詠唱短縮の解放である。 

 本来ならば詠唱が不可欠である魔術行使だが、その詠唱を短縮し、魔術行使の起動言語を送るだけで魔術行使を可能とする。

 本来必要な工程を取り除き、限りなく極小化した、魔術が炸裂する。


 フルグルカは、仮面をつけていない。

 

 つまり、魔術が無効化されることはない。



「ああ、残滓さえもが美しい―――」


 それが、フルグルカの身体が炎に包まれ、死亡するまでの最後の言葉となった。

 フルグルカの肌は死を齎す焔によって燃えつくされ、その焦げさえも消え去る。無惨なまでにそこには何もかもが無くなった。


 

 そして、再生が始まる。



 地面に舞った灰が、ふわりと浮き上がり、一か所に収束する。 

 地面にこびりついた血だった何かが、逆再生されるかのように元の位置へと戻って行く。

 

 ニーチィがその様子を見てひっ、と声を上げた。

 メイミダスが嘔吐いて口を押さえる。

 チトリスが目を背けた。


 何もかもが無くなったところから、もう一度フルグルカが生まれた。

 

「残滓はその美しさこそ極まれど、本質の輝きには劣りて、聖女の名を騙るに過ぎない」


 無から生まれなおしたフルグルカは、その表情を恍惚に歪ませる。

 

 何もかもが、歪だった。

 フルグルカは、はっきりとヴェニータの魔術に依って死んだ、いや、死んだはずだった。明確な死を受けてなお、フルグルカはここに立っている。


 怯えるとはまた違った感情だった。

 明らかに、この世界の摂理に反した行動に、本能的な拒絶が起こる。

 本来なら有り得てはいけない状況であり、この状況は誰もが拒絶し、可能な限り全力で否定しなければならないものだ。


「何とも、皮肉なものだ。君たちは正義であるはずなのに、正義の証左を持たざる者だ。そして、私は悪であるはずなのに、正義の証左を持つ者だ」


 何を言っているのかわからない。最早、何も口にしてはいけない。

 ただ、単なる拒絶しか起こらない。


 フルグルカを肯定することなどできるわけがない。

 


「私は、死を持たない。ただ、それだけだ―――」


 滔々とした彼の語り口は、変化しない。

 ただ、水の流れの如く淀みなく、流れるように紡がれる。その言葉の流麗さとは裏腹に、その言葉は肯定などありえない、この世界にあるべきでない言葉だった。



「破■・腐■・滅■」

 ヴェニータがまたも魔術を行使する。

 その度に、フルグルカの身体が死に絶え、再生を繰り返す。

 見るも無残な光景だった。地獄絵図という陳腐な表現が最も適切だろう。

 人の身体が破壊され、腐り、滅びていく。その様を見て正常でいられるものもいない。

 ヴェニータこそ魔術を続けて行使し続けているが、その表情は歪み切ったままだ。

 他の生徒会役員はそもそもフルグルカを視界に入れることさえできていない。


 ここに、戦闘は成立していなかった。


「破壊によって―――」

 グシャリ

「―――のみしか行動―――」

 バキ

「―――出来ない、哀れな―――」

 ミシリ

「―――人だ―――」


 破壊と惨い破砕音で言葉が途切れ途切れになりながらも、フルグルカは言葉を紡ぐ。

 

「まだ分かっておられない―――」

 グシャリ

「―――これが無意味だと」

 破砕音が響く。圧し潰される。


「ええ、確かに貴方は私たちではどうしようもない」

 その魔術で何度もフルグルカを殺しながら、ヴェニータは冷静にそう呟いた。


「だから、これは時間稼ぎよ」


 その瞬間、パキリと音がしたような気がした。

 魔術が、破壊されたのだ。



「―――状況を聞こうか、ヴェニータ君」

「スーディア師匠(せんせい)、お待ちしていました」


 本来ならここで動かないはずだった。

 フルグルカは、彼を唯一の脅威として認識し、彼の動きは真っ先に封じた。

 宣戦布告を確かに果たすために、彼だけは封じなければならなかった。

 しかし、彼だけを封じ込めるよりも年齢による制限を掛けて古代魔術を行使する方が脳への負荷が少なかったために年齢による制限を掛けて行使しただけだ。

 実際にはスーディア以外についてはどうでも良かった。



 フルグルカの唯一の誤算、王国最強の魔術師が、ここに降臨する。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


現実の方が忙しくなってきたので、一時投稿をお休みします。

ご了承ください。



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