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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
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――仮面――



「では、先陣は私が―――」

 先ほど、チトリスやニーチィを安地に戻そうとした副会長が、一歩前へと出る。

 歩けば、彼の上着がはためいた。


 チトリスは、彼の上着の内側を見る。

 そこには、無数のナイフが並べられていた。



「雷よ、空に光り見えぬ道標となれ」


雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――透雷」


 流石というべきだろうか。

 彼の述べた詠唱は、本来とは少し違う役割を持たせるために詠唱改変がなされている。

 やはり、生徒会副会長ともなればそれほどの実力になるというものなのだろう。


 魔術が発動し、空気がピリと揺れた。

 見えないが、確かに魔力を感じる。しかし、指向性を持っているはずなのに全体的に魔力を感じるせいか実際にどこに魔術が発動しているのかは覚れない。

 緻密な魔力制御だった。魔力制御だけに限定すれば、一級魔術師にすら届くであろう、極地だ。


「まずは、刃物による物理攻撃を」


 副会長が呟くと同時、彼は上着の中からナイフを複数取り、無造作に放り投げる。

 すると、それらのナイフは物理法則に従わず、滞空した。

 どのような仕組みなのか、と考えようとして、チトリスは背後の気配に気づいた。



「か、彼の戦法は、ナイフを用いたれ、連続攻撃です……わ、私たちの目には見えませんけど、空気中には無数の雷があって……そ、その雷を辿ってナイフを飛ばします……見えない雷に沿って飛んでくるナイフなので、よ、避けるのは至難の業なんです……」


 ふと、気配なく迫っていた小柄な影に、チトリスは驚いて声を上げそうになる。

 隣にいたニーチィは少し声が漏れていた。


 背丈はニーチィと同じほどだろうか。

 貴族令嬢然とはしない整えられていない髪とその髪に隠れた瞳。正直言って、令嬢としてふさわしい様子ではなかった。



 しかし、明らかに強い。



 チトリスは彼女を見て、周りに纏う魔素からその強さを測る。

 流石は生徒会役員と言ったところだが、本当に生徒会役員には化け物しかいないのかもしれない。総ては明らかだった。彼女は、間違いなく強い。

 おどおどとした表情や口調は自分に自身の無さそうな印象を受ける。しかし、もしそうならば過小評価が過ぎる。彼女は、明確な強者のステージにあと一歩で届くだろう。


「あっ……じ、自己紹介がまだでした……キャスミティルド・グラフィエルです……な、名前が長いので、ミティと呼んでもらえれば……」


「チトリス・クラディエルです。どうぞ、敬語などお使いになりませんよう、ミティ様」

「ニーチィ・モルドレットですっ。私も敬語は要りませんよ?」


 チトリスとニーチィがミティの自己紹介に応える。

 死地であるここでも、少しばかり和やかな雰囲気が流れた。

 

「い、いえ、これは私のあ、アイデンティティなので……」

 そう言いながら、もじもじとミティは後退しつつ、また気配を消した。

 魔素の動きが無くなる。ミティが意図的に動きを無くしたのだ。


 チトリスの肩から力が抜ける。

 いつの間にか、ミティを相手に緊張していたようだ。それも仕方のないことだろう。魔素の動きの激しさ―――つまりは魔力量において、スーディアに次ぐほどの量を持った人には初めて会ったのだから。



 ―――チトリスが、ミティの強さに戦慄する中、副会長はそのナイフを魔術によって構築した弾道に沿って飛ばし始めていた。


 風切り音さえも置き去りに、雷の如くナイフが迫る。

 本来なら有り得ないような射線を描きながら、ナイフが飛んだ。


 右に曲がって、左に曲がり、上へ跳ねて下へ刺さる。

 その弾道は、ミティの言う通り予測不可能で、避けるのも難しいであろうものだった。


 敵方にも、多くのナイフが突き刺さる。

 仮面にも、そのナイフは当たっていった。

 しかし、それによる損傷は見受けられない。やはり、ナイフでの攻撃も効かないようだ。

 


「―――ミティ議長、次は頼んだわよ」


 ヴェニータに名を呼ばれて、無からミティが姿を現す。

 魔素が、恐ろしいほど揺動を始めた。


 彼女でさえ、議長なのだ。

 ならば、会長や副会長は、どれだけ強いのか。

 先ほど見えたその実力の一端さえも、氷山の一角に過ぎないというのか。



「水よ蠢き、破砕を齎せ」

水の権能を我が手に(詠唱完了)―――水破」


 途端に、雨の向きが変わった。

 雨が仮面に、体にとぶつかろうとしては弾かれる。


「これは……!! 環境に干渉してる!?」

 ニーチィの驚きの言葉は、核心をついていた。

 雨というこの環境の自然由来の存在を操り、自らの魔術とする。

 水魔術における極点ともいえる神業であった。

 ミティは、その技を成し遂げたのだ。学生の年齢でそのことを成し遂げるのは不可能なはずだった。しかし、ミティの生まれ持った圧倒的な魔力量と血も最早滲まなくなるほどの鍛錬によって、それは成し遂げられた。



 雨が、環境そのものが、敵に牙をむく。

 魔術が、空間に干渉した。


 自然は、人がどれだけ希っても至れない極地である。

 魔術に依ってその現象を真似たとしても、自然の出力には敵わない。

 どうやっても、自然が人間に勝つ。

 では、どうすればいいか。


 そもそも、自然を操ってしまえばいいのだ。

 


「えっと……け、消し飛べ?」

 何を決め台詞にしようかと内気そうに悩んだ割には物騒な言葉を残して、ミティは魔術の出力を最大限にあげた。

 雨が魔力の奔流と混ざるようにして光を放ち、波濤となって迫った。

 まるで津波だ。津波が迫って来たかのような圧倒的な物量だった。


 しかし―――。

 敵に損傷はない。



「……これも外れね。次は―――」

「ヴェニータ様、少しよろしいですか?」

「チトリス公爵令嬢?」


 チトリスは、先程ミティの魔術が発動していた時の様子を見ていた。

 途中からはその物量によって敵が見えなくなっていたが、十分に手掛かりとなるようなものは見えた。


「仮面の能力が分かったかもしれません」

「……っ! それは何?」


 ヴェニータの表情が変わる。

 もしもチトリスが仮面の能力を看破したのであれば、趨勢が大きく変わる。

 これまで優勢になり切れなかった生徒会役員側が圧倒的な優勢になれるかもしれないのだ。


「先程、ミティ様が魔術を行使された時、直前まで敵にあたっていた雨が、その方向を変えた瞬間―――魔力を纏った瞬間に敵に中らなくなったのです。つまり、仮面の能力は魔力を纏ったものを防ぐ能力かと」


「成程、それならすべてに筋が通る……よくやったわ、チトリス公爵令嬢。これで私たちが優勢に立てる!!」



「魔力を纏った攻撃の無効化を仮面の能力と仮定し、ここからは魔術を行使せずに戦闘するわ。それぞれ、何かしら準備しなさい」


 ―――と言われても、動けるものは少ない。 

 副会長であればナイフを用いることが出来るが、全員が魔術師であるこの状況で、魔術を行使せずに戦闘を継続できる人間も少ないだろう。


 魔術師は、魔術に依ってその戦闘を成立させる。

 魔術を補助として剣技を放つ魔法剣士というのも魔術師のカテゴリの中に存在はするが、それも魔術による補助があるからこそ成立するのである。

 純粋な剣技なら、ある程度しか戦うことは出来ないだろう。


 この場にいる、誰もが逡巡する。

 自分はどのようにして戦えばいいのか、と。



「戦う必要はないかと」


 どうやって戦うのか、と全員が考えていたからこそ、チトリスの言葉に呆気にとられる。


 この状況で、戦う以外の選択肢はあるのだろうか。いや、ないだろう。

 全員が、この問答を自分の中で終わらせていた。

 だからこそ、戦う必要はない、と断言するチトリスの言葉を疑う。


「ち、チトリス公爵令嬢、そ、それはどういう……」

「違和感がありませんか? こちらが明らかな戦闘態勢を取り、攻撃を仕掛けているのに相手は何らかの防御をとるわけでも、攻撃を仕掛けるわけでもない。明らかに、こちらの動きに対応できていません。相手には、戦う意思がない―――いえ、この場合戦う意思を持てない、と言えば正しいでしょうか?」


 チトリスがミティの問いに答える。

 しかし、ミティは首を傾げるばかりだった。

 戦う意思がない、のではなく戦う意思を持てない、というのはどういうことなのか。



「まさか……、」

 チトリスの言葉を理解したのか、ヴェニータが声を上げる。 

 でも、初めに古代魔術を……、とひとり呟きながら、もう一度敵を見る。

 そこには、ただ直立して動くことのない人影があった。



「よくぞ看破された」


 その時、初めて詠唱以外で敵が口を開いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


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