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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
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――開幕――



「基本戦術としては、遠距離砲撃を利用する間接戦よ。相手の手札が分からない以上、安易に近づくのは得策ではない。一旦は様子見ね」


 ヴェニータは敵から目線をずらさずに生徒会役員に告げる。

 全員からうなずきが返ってきた。



「では―――」


「魔術砲撃開始―――!!」


「吹き荒ぶ風よ、彼方より炎を纏い来て、空を朱く染め上げよ」

「雷よ集い、その稲光で闇夜を照らせ」

「風よ、嵐となり四八方より迫り来て、水の在り方を変えよ」

「煌々と燃える炎迫り来て、空の安寧を脅かせ」

「水よ流れ、滔々たる流れの元に広大な海を形作れ」

「水よ集い、雷を湖面に映し出せ」

「雷よ、空を駆け巡り、風に紛れて地に堕ちよ」


 チトリスら生徒会役員が、それぞれ詠唱を開始する。

 全員が全員、学生という範疇に収まりきらないような魔力密度と構築速度だ。

 彼らを相手取るのであれば、一級魔術師一人では心もとない。三人程度いて初めて優勢に立てるだろう。


「「風の権能を我が手に(詠唱完了)―――」」

「「雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――」」

 「炎の権能を我が手に(詠唱完了)―――」

「「水の権能を我が手に(詠唱完了)―――」」



「風槍撃」「極雷光」「風濫水撃」

「迫炎覇」「碧流」「湖雷」「雷空破風」


 全員の魔術が起動する。

 その瞬間、敵が大勢吹き飛んだ。これは文字通りの意味である。全員が全員、ある程度の魔術師であろうに、その全てが簡易結界を張ることもなく、その衝撃で宙を舞った。



「油断しないように!! 敵はまだ残ってるわよ」


 ヴェニータは周囲に注意を促しながら、自らも詠唱を行うために口を開いた。

 ここに、マルティアル王国の特異点が降臨する。



「■よ、その慟哭を闇に堕とし、■を祝福足らしめん―――」


 その詠唱が始まった瞬間に、チトリスの肩が震えた。

 恐ろしいほどの殺気が、ヴェニータの周囲に渦巻きだす。

 

 これが、王国の特異点と呼ばれたヴェニータ・フェニラルトの代名詞であった。

 

 スーディアの代名詞は、炎と水の同時付与による圧倒的な高威力魔法である。

 それに対して、ヴェニータの代名詞は、誰も知らない魔術の行使であった。どの文献にも、その魔術について書かれていない。誰もが、その魔術について説明することが出来ない。何の属性を利用しているのか、ということについても説明がつかない。


 しかし、それにも関わらずヴェニータの魔術は認められてきた。

 その裏には、彼女の施した詠唱に対する偽装がある。

 詠唱の構築段階から他の者に認知的作用をもたらすように構築されているのだ。一部の詠唱が認識できないのも、その為である。


 誰もが、不思議に思わない。

 これが、マルティアル王国の特異点なのだ、と誰もが疑わない。

 誰もが、ヴェニータを認めてきた。


 だからこそ、チトリスが初めてだった。

 ヴェニータの魔術に対する違和感を抱いたのは。



―――波長が似ている……


 チトリスは、ヴェニータの詠唱を聞きながら感じる。



「―――蝕みを止める破滅の光を以って、悪を殲滅せよ」



■の権能を我が手に(詠唱完了)―――破■滅■」


 その瞬間、それまでの濃密な殺意を塗り潰すほどの殺意の嵐が吹き荒れた。

 チトリスはその感覚では既に五度は死んだ。


 体が内側から破裂して死んだ。

 爆裂四散し形なく崩れて死んだ。

 ――が――して死んだ。

 気が付いたら――が――していて死んだ。

 ただ、魔力の奔流に呑まれて死んだ。


 死の予感を抱いたわけではない。本当に、チトリスの感覚では確かに死んだのだ。

 味方であるチトリスが、それだけの殺意を感じたのだ。

 敵である仮面集団は、更に大いなる殺意を感じ、感覚でなら何度だって死んだだろう。本当に、命を落としていても何ら不思議ではないほどの出力だった。


 ふと、目線を飛ばした。

 ただ、驚愕した。



「敵に損傷ありませんッ!!」

「どういうことですか!?」


 生徒会役員が困惑の叫びをあげる。

 それもそのはずだった。

 彼らも、貴族として、そして生徒会役員として鍛錬を怠らず、これまで研鑽を積んできた者たちばかり。ヴェニータの周りに吹き荒れた殺意には敏感に反応した。

 全員が感覚の中で何度死んだか分からない。

 それなのに、敵方には何ら外傷は見当たらず、損傷がないのだ。

 全くの無傷など、有り得ない出力だったのに。



「方策を変えるわ、相手は何らかの隠し札を持っている」

 ヴェニータが一歩下がりながら告げる。

 相手が全員視界に入る地点だった。


 誰もが、ヴェニータの思索の末の策に期待している。

 その事を理解しながら、ヴェニータは敵を観察した。


 敵は仮面をつけ、他は完全な手ぶらだ。

 武器は持っていないということは魔術師だろう。しかし、周りに魔術の反応がない。簡易結界どころか、錬金魔方陣までも生じさせていないのだ。

 しかし、それもまた当たり前か、とヴェニータは考える。

 

 古代魔術は、錬金魔方陣を必要としない。

 錬金魔方陣に依る魔術行使の体系が確立されたのも古代魔術がすでに失伝した頃だからだ。

 古代魔術は汎用性が高い代わりに不確定要素を多く伴う。その不確定要素を減らし、確実な攻撃手段として確立させたのが錬金魔方陣による属性詠唱式魔術だった。

 魔術史における最も偉大な大賢者・クラディウスは基本的な属性詠唱を大別し、それぞれの詠唱構文を確立させた。

 それぞれの現象を定義づけ、それをもとにした魔術詠唱を創り出した。また、錬金魔方陣を一種の拠り所として用いることによって術者に過負荷を掛けず魔術を行使するための方法を確立させたのだ。

 だから、現代の魔術を行使するには錬金魔方陣が欠かせない。

 だが、逆説的に言えば古代魔術の行使には錬金魔方陣が必要ないのだ。



―――しかし、あの全員が古代魔術を修めているのだろうか


 ヴェニータは古代魔術についてもある程度の知識を持っている。しかし、古代魔術は簡単に行使することさえできないような代物だ。

 目の前の三十人全員が古代魔術を行使できるというのは簡単に信じられないことだった。しかし、逆に古代魔術を行使できないのなら何故、錬金魔方陣を展開するか、または武器を携帯していないのか、という疑問が生じる。

 


「まさか、襲撃以外に目的が……?」

 ヴェニータの小さな呟きは、生徒会役員に浸透した。

 小さなざわめきが広がる。


「ですが、この状況で襲撃以外にどんな目的があるのでしょうか」

「襲撃でないならこれほど攻撃的な行動をとる意味は……」

 メイミダスとチトリスが反駁する。

 ヴェニータの思考はうまく回らなかった。確かに、襲撃であるならばおかしい状況だ。だけれど、逆に襲撃でなくてもおかしい状況なのだ。


「そもそも、こちらの攻撃が通っていない理由を考えなければ消耗戦になって敗けるわ。相手方の目的よりもそちらを考えなければ……」


 そう言いながら、ヴェニータはもう一度視線を敵方に向ける。

 やはり、気になるのは全員がつけている仮面だろうか。

 確かに、仮面をつけることで自分が何者なのかを分からないようにできるだろう。しかし、正直言ってそれに何ら意味はない。

 現在、マルティアル王国の主要な貴族は全員がこの入学式会場に集っているのだ。顔を知られている可能性があり、なおかつ顔を知られて困るというのは貴族以外に少ない。

 仮面をつけているのがただ単なる顔隠しであるとは考えられないのだ。


 とは言っても、仮面の力を見破らなければそもそも打開策も見つからない。

 先程の様子を見たところでは魔術の攻撃が通っていない、というのがヒントだろうか。

 であれば、魔術を無効化する能力?

 いや、それならば敵が()()()()ことはない。


 ならば、物理ダメージを無効化する能力?

 確かに、それなら風魔術や水魔術、炎魔術など、物理的な攻撃手段によってダメージを受けていないのも頷ける。

 しかし、それならヴェニータの放った魔術が通らなかったのには筋が通らない。ヴェニータの魔術は、物質的ではなく、概念的な攻撃だ。それが通らなかったのなら、単なる物理ダメージの無効化という能力ではないだろう。



 思考が螺旋状に絡まる。

 思索はすでに崩壊寸前だった。

 ヴェニータと言えど、古代魔術に関する細かい知識は持ち合わせていない。

 そもそも、そのほとんどが失伝し、現在では形もほとんど残っていないのだ。

 

 そんな状況で、おそらく古代魔術に依るであろう力を秘めた仮面の正体を探れ、というのも難しい話だった。

 

 

「仮面に何らかの手札が隠れているはず……手当たり次第に考え得る攻撃手段を試すわ!! それぞれ、安全を確保しつつ攻撃態勢!!」


 ヴェニータの指示で、生徒会役員がそれぞれの構えをとった。

 

 チトリスは、選抜試合の時、メイミダスに魔術だけを極めていても実戦で役に立たない、と述べた。しかし、それは生徒会役員全員が理解していることだった。


 

 ここからは、魔術戦という名には収まらない。

 

 王立魔術学園が誇る、生徒会役員の戦いが始まる。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


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