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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
19/37

――死地――



 チトリスとニーチィが、死地へと踏み込んだ―――、


 その五分ほど前。




  ◇




「……っ! 防音結界が?」

 スーディアは、誰よりも先に異変に気付いていた。


「―――スーディア・クラディエル公爵殿、ヴァンハルト国王陛下がお呼びです」


「……成程、すぐ行こう」


 自らの外側に小さく防音結界を張り、いつの間にかスーディアの背後まで近づいていた従者が声を掛ける。スーディアは、国王の呼び出しの意図を汲み取ってすぐにその場を離れた。



―――外で何かが起こっている


 最悪のパターンの想定もしつつ、スーディアは会場の外へと出た。


 そして―――、 


 そこには、死地が広がっていた。



 これまで、クラディエル公爵家は実戦的な実力主義をもとに鍛錬を行い、スーディア自身も戦術構築の研究に勤しんできた。

 そのように、何者かと闘うために魔術を研究してきたからこそわかる、明らかな死地。


 明確な殺気と、恐ろしいほどの静謐が、そこにはあった。


 雨が降っていた。

 大雨だ。先程雷が鳴っていたが、これは雷雨だった。



「―――陛下、これはどういうことでしょうか?」

 既に外に出ていたヴァンハルトを見つけ、姿勢を低くしてスーディアは尋ねる。


「うむ、賊じゃろうな」

「では、排除対象ということで」


 自分の問いに国王からの頷きが返ってきたことを確認し、スーディアはもう一度相手を見据える。軽く見積もって30人程度だろうか。

 顔を隠すためか、何やら怪しげな仮面をつけている。剣などの武器は持っていない様子から、全員が魔術師だろうか、とスーディアはあたりをつけた。



「分が悪いな」

 ヴァンハルトが小さく呟く。

 数だけを考えれば、懸念が生じるような数ではない。

 しかし、自分たちが防衛すべき未来の希望が、多すぎた。


 ここで押し留めなければ、学生たちに被害が及ぶ。

 誰もが、貴族としての英才教育を受けてきたものばかりだ。それでも、実戦でも戦えるのは数少ない一部だけだろう。それこそ、生徒会役員などだろうか―――、と考えて。



「国王陛下、我々はここに」

 生徒会役員が、全員揃っていた。

 チトリスやメイミダス、ニーチィと言った新入生以外の現生徒会役員だ。

 

「賊ですか……何かしらの制約は?」

「特にない。相手の生死は問わん。ただ、味方に関しては死ぬな、死なすな」

 ヴェニータの問いに、ヴァンハルトは短く答える。


「了解いたしました。では、戦闘態勢に移りますので」

 ヴェニータは一歩下がった。


「実戦想定パターン3、敵を排除する」

 ヴェニータの声が、冷たく響いた。



 敵の動きは、依然としてない。

 結界が破壊されたことから、何かしらの魔術が行使されたのは間違いない―――が、結界を破壊できる魔術は少ない。特に、物理的な結界ならば物理魔術によって破壊できる可能性はあるが、防音結界のようなものは簡単には破壊できない。



「何やら、嫌な予感がするのぉ……」

 ヴァンハルトは、生徒会役員やスーディアが戦闘態勢に入っていることを確認しながらも、呟いた。国王や王国最強と名高いスーディアがいるであろうことは容易に予想できる、この場所にたった30人程度で襲撃を行うなど、普通に考えればおかしいことだった。

 普通に考えれば、何かしらの手札は持っているだろう。

 それこそ、スーディアなどをも打倒できると言えるような手札が。



「―――、」

 初めて、敵が口を開く。

 はじめに何が出てくるか、魔術詠唱か、宣戦布告か、と考えながら、ヴァンハルトはまず次の言葉を待つ。



条件設定・動作停止(STOP)

「は?」



 その口から紡がれたのは、今ここで発せられるはずのない言葉だった。

 確かに、その口から出てきたのは詠唱、しかし、詠唱は詠唱でもこれは古代魔術の詠唱だった。

 古代魔術とは、ごく一部を残して殆どが失伝したと言われる、古代に使われていた魔術だ。

 その汎用性は今とは比べようのないほど高く、様々な現象を起こすことが出来た。その例として、魔術戦で多く用いられる古代魔術がある。

 

 先程の選抜試合でも用いられたものだが、魔素の流れを制限し、ある範囲内の魔術師が魔術を構築できないようにするものだ。

 そして、詠唱一つで魔素の流れを元に戻すこともできる。

 現在の魔術では絶対に再現できない、魔術における極地である。



 その詠唱が紡がれた瞬間、国王やスーディアの動きが止まった。

 殺されたのではない。拘束されたのでもない。意識を失って倒れたわけでもない。

 ただ、その場で動けなくなった。


 力が抜けて倒れるわけでもない。ただ、その位置に張り付けられるようにして動けなくなったのだ。


「陛下!! 何が……」

 明らかに異常事態が起こっていることを覚り、ヴェニータがヴァンハルトに声を掛ける。

 しかし、ヴァンハルトの視線が動くだけで、体は動かなかった。


「成程、何らかの条件で制限した人物の動きを止める魔術ですわね」

 現在動きの止まっている人物から察するに、年齢による制限だろうか。

 見ている限りでは、学生は魔術の影響を受けていない。



 ヴェニータは歯噛みする。

 これによって、ヴァンハルトやスーディアを筆頭とする、圧倒的な強者は全くの戦力外となったのだ。そして、見ている限り今戦えるのは生徒会役員のみ。

 このままでは数で押し負ける。



 何か、策はないか……

 逡巡するヴェニータだが、明らかな異常が続きすぎている。

 流石に、これは想定外だった。



「生徒会長!! 何が起こっているのか、教えていただけますか」

 ―――その時、二人の令嬢が死地へと踏み込んだ。



「っ!! チトリス公爵令嬢、ニーチィ侯爵令嬢まで!」

 ヴェニータが驚きの声を上げた。

 ここは、新入生がいていい場所ではない。


「中に入っておけ、ここは生徒会役員が押し留める!」

 副会長である、屈強な男子生徒がチトリスとニーチィを中に戻そうとする。

 ここは、新入生には不相応な、死地だからだ。


「私たちも、先程認められた生徒会役員です!!」


 しかし、副会長もチトリスの抗弁に口を閉ざさざるを得なくなる。

 確かにそうだ、とは思った。

 生徒会役員が、と主語を設定してしまったことを今更ながら、副会長である彼は悔やむ。



「いいでしょう。メイミダスも連れてきなさい、生徒会役員で、この場を制圧します!!」


「会長!? 良いのですか、新入生ですよ!?」


「問題ないわ、彼女らは明確な、特異点よ」


 ヴェニータが認めたことで、チトリスが戦闘態勢をとる。

 ニーチィが背を向けて走り出し、メイミダスを呼びに行った。


「それで、改めて教えてください、生徒会長。今は、どのような状況ですか」

 チトリスは周りを見回しながらヴェニータに問う。

 ちらりと見つつ、スーディアやヴァンハルトがいるのは確認した。


「敵は約三十名。古代魔術を使うことが出来るみたいね……そして、」


「―――クラディエル公爵、ヴァンハルト国王陛下、及びその他教職員を含む格上の方々は全員戦闘不能状態よ」

「……っ!?」


 あまりに状況が悪い、とチトリスは改めて認識する。

 スーディアやヴァンハルトなどがいないとなれば、戦闘力は圧倒的に減少する。

 古代魔術という特異点を考えれば、相手の方が優勢になるだろう。


「戦術構築は相手の手札が割れるまでは出来ない……その場で臨機応変に対応しなさい」

「はい、理解しています」


 チトリスは、考えを入れ替える。

 これは、魔術戦ではない。生き死にの関わる、本当の戦いだ。



「メイミダス・コーディアヌス、ここに」

 

 生徒会役員が全員揃った。

 

「生徒会長、中では幾人かの貴族や教職員が動かなくなり、混乱状態です」

「ええ、状況は大方把握しているわ。そして、そちらには手を割けない。こちらも分が悪い……そちらに戦力を割くことは絶対にできない」



 ヴェニータは生徒会長として覚悟を決める。

 彼女が、現在対応可能な人員で、最強なのだから。



「敵を制圧します!! 戦術は様子を見つつ指示します。それぞれ、臨機応変に対応しなさい!!」



 本当の魔術戦が、ここに幕を開けた。



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