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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
17/37

――選抜――


 全ての試合が終了して―――、



「最後、どうやったのかだけ、聞いてもよろしいですか」


 試合を終えた候補者が控室に戻って、休憩をしていた時、メイミダスがチトリスに尋ねる。

 試合を見ていてチトリスの戦法に疑問を持っていた他の候補者たちも、直接尋ねこそしなかったが、気になっていることではあった。



「ああ……あれは、少しばかり小細工をしただけです」

 細かい話をすると少しややこしくなるのですが……と続けながらチトリスは説明を続ける。


「私の詠唱は、一つの魔術行使の為の詠唱に見えて、本来は二つに分割できるのです。『風よ広く来たりて、木々を倒し、湖面を揺らせ』ここまでで、一つの詠唱です。『煌々と燃える炎迫り来て、空の安寧を脅かせ』ここまででさらに一つの詠唱。二つの詠唱を一つに見せかけるために少し偽装はしていますが、種が分かれば納得できるかと。水と炎の同時付与も、それぞれ別の詠唱だからできたわけです。私なりにお父様に近付くために構築した、疑似的な詠唱短縮ですね」


 どうしても、相手の魔術を予測したうえで先に魔術を構築しなければならないので、詠唱短縮よりも使い勝手が悪く……とチトリスは続けるが、話を聞いていたメイミダスを含む候補者たちは開いた口が塞がらない。


 クラディエル公爵家の長女であるチトリスが、新入生の中で、そして候補者の中でも圧倒的な実力を持っていることは知っていたが、これほどとは―――。

 候補者たちの思いは同じである。

 

 チトリスは、これまで基本的に用いられてきた魔術とは全く違う魔術の使い方をしている。他の誰よりも、実戦的なのだ。


 チトリスがこの疑似的な詠唱短縮を考案した理由は、自分より格上―――特に錬金魔方陣()を発現できる魔術師に対してある程度同じような土俵で戦うことが出来るようにするためだ。

 詠唱短縮を基本として戦術を構築されれば、詠唱短縮を行うことが出来ない魔術師は敗北の一途をたどる。だからこそ、疑似的な詠唱短縮によってその溝を埋めよう、というのだ。

 

 マルティアル王国は確かに実力主義だ。

 しかし、それは魔術師という権威ある職業、その美意識の構築が基盤となった実力主義であって、本当に戦場でどのように行動するのか、ということを中心に戦術を構築していく、実戦的な実力主義ではない。

 その中で、チトリスだけは考え方が違った。というよりは、クラディエル公爵家だけが違うのだ。


 未来の貴族たちは、この場で改めて理解した。

 クラディエル公爵家が、未来を既に掴んでいるのだ、と。



「ということで、歓談に興じているばかりではいけませんね。そろそろ試合結果の報告のようです」

 壇上に上がる準備をしなければ、とチトリスが声を掛ければ、候補者たちが準備を始めた。

 この場でチトリスがその声かけをするというのは候補者たちに対する皮肉と受け取られてもおかしくはない。それでも、そんな響きはなかった。


 チトリスだからこそ、ここで声を掛けても、問題がない。




「すべての試合が終了しました。では、試合の結果を報告します。栄えある優勝を勝ち取ったのは―――チトリス・クラディエル!!!」


 チトリスが壇上に上がって小さく礼をする。

 魔術戦の時とは違い、落ち着いた拍手が返ってきた。


「決勝戦では惜しくも敗北しましたが、それ以外の試合では圧倒的な実力を見せた準優勝―――メイミダス・コーディアヌス!!」


 メイミダスが壇に上がり、礼をする。碧い髪がさらりと揺れる。



「ここに、二人を生徒会役員として認めます―――」

 その瞬間、大きな拍手が響き渡った。

 次代の生徒会役員、つまりは将来の重役となることが、ここに宣言されたのである。


「では次に、生徒会長より一名の推薦をしていただきたいと思います」

 司会の言葉で、一人の令嬢が壇上へ上がる。


 チトリスやメイミダスの眼前を通って、中央へと歩んでいくその令嬢。

 マルティアル王国における特異点であり、王立魔術学園における最強として君臨する、本当の女傑。彼女こそが、生徒会長だった。


 長い紫髪を耽美に靡かせ、同じく紫の双眸に妖しげな焔を燃やす令嬢。



「王立魔術学園生徒会長、ヴェニータ・フェニラルトです」


 その名乗りだけで、令息だけでなく令嬢までも頬を上気させ、一人や二人はくらりと体を揺らす。

 年に不相応なほどの色香までも漂わせ、生徒会長という名の最強が、そこにいた。



「候補者の試合は全て、しっかりと見させてもらいました。特異点の存在によって少々候補者の実力差が浮き彫りになってしまいましたが、全体的な水準も高く、どれも良い試合だったと考えています」

 ヴェニータはそう言いながら、チトリスの方を軽く一瞥する。

 チトリスがいなくともメイミダスが他を圧倒していた可能性もあるが、そのメイミダスさえも圧倒したチトリスが、今回の特異点で間違いないだろう。


「私は試合の勝敗をもとに推薦を行うつもりはありません。これからの研鑽に期待する意味も込めて、生徒会長である私――ヴェニータ・フェニラルトは彼の者を推薦します」


 候補者は生徒会長が誰を推薦するのかについて、一切話を聞いていない。

 この場で、名を呼ばれた者は壇上に上がるように、という指示を受けているだけだ。

 だからこそ、彼ら彼女らは緊張状態に置かれていた。

 誰が呼ばれるかは分からない。もしかしたら、万が一にでも、億が一にでも自分である可能性がある。全員がそう考えた。

 候補者たちと貴族たちが全員揃って固唾を呑み込む。


 ヴェニータの唇が言葉を紡ぐため、開いた。




「―――ニーチィ・モルドレット、壇上へ」


 候補者たちが、自分かも知れない、と期待を膨らませる中、ニーチィだけは自分が選ばれる可能性は無いだろう、と決めつけていた。

 候補者の中でも、最も実績が少なく、第一試合からチトリスに敗北したのがニーチィだ。まさか、天地がひっくり返ったとしても自分が選ばれることはないと考えていた。


 しかし、事実として、選ばれたのはニーチィである。

 それは紛れもない事実だ。確かに、生徒会長・ヴェニータはニーチィの名前を呼んだ。


 

 緊張のせいで、足が強張る。

 それでも、初めて実際に相対して、一瞬だけ試合相手として認められ―――それだけで心酔した彼女の隣に立てる可能性が、与えられるのならば、と。ニーチィは思い切って足を動かした。



 ブロンズヘアーがふわりと揺れる。

 小柄な彼女の身体が小刻みに震えているのに気づいたのは、幸いにもチトリスとメイミダスくらいのものだった。


 彼女が壇上に上がって、大きな拍手が上がる。

 どの貴族も、何故彼女が、と訝し気な視線を送ってきているわけではない。

 誰もが、自分が選ばれたことを、祝福してくれている、とニーチィは心の中で安堵する。



「チトリス・クラディエル、メイミダス・コーディアヌス、ニーチィ・モルドレット―――」


「この三人を生徒会役員として、そしてここに居る新入生全員を、我が校の生徒として心から、歓迎します―――!!」


 オオオォォ、と歓声が響く。

 拍手の渦の中央に立って、ヴェニータは優雅に礼をすると、降壇した。

 チトリスやメイミダス、ニーチィもヴェニータに続いて降壇した。拍手に包まれながら。




  ◇




「―――よくやった、チトリス」


 試合を終え、立食パーティーが再開された会場に、チトリスが戻ってきた。

 そのチトリスに、スーディアが声を掛ける。

 

「ありがとうございます、お父様」


「疑似的な詠唱短縮とは、面白いことを考えたな」

「やはり、お父様は気づいていましたか」

 チトリスとしては、疑似的な詠唱短縮を相手に覚らせないために詠唱を偽装し、不意打ちをするために戦術構築を行っていたのだし、欲を言うならばスーディアにも戦術を把握してほしくないと思っていた。それでも、お父様なら分かってしまうか、という諦念がチトリスの中にあるのもまた、事実だった。


「格上との差を完全になくすことは流石に不可能だろうが、不意打ちとしては成立するだろう。観客の中でも初めから気付けていたのは数えるほどしかいなかった」

 実際に名を出すのであれば、スーディアや国王であるヴァンハルトなどだろう。そのような、圧倒的な強者は詠唱が行われた時点でチトリスの戦術に気づいていた。

 しかし、詠唱の時点で気づけたのは本当にごく一部の人間だけだ。それから、少しずつ違和感に気づいたものも多かったが、最終的にその本質まで理解できたのは全体の三分の一にも満たないだろう。


「成長したのだな……」


 ふと、零れたような声だった。

 チトリスも、それがスーディアの口から零れた言葉だと理解するのに、少々の時間を要した。

 普段から、自分の感情を表情にさえ出すことが少ないのがスーディアだ。そのスーディアが、このようなことを呟いたのは何時振りだろうか。



「いつかは、お父様をも越えられるよう、精進いたします」


「ははは、頼もしい言葉だ」


 談笑が終わる。

 スーディアも、チトリスを箱入り娘にしたいわけではない。選抜試合前はチトリスが人に囲まれて流石に困っているようだったので助け舟を出したが、自分ばかりが娘を独占するのも良くないだろう、とは考えていた。


「これからはこの新入生の中で過ごすんだ。交友を深めてくるといい」


 チトリスはスーディアの言葉に頷くと、人ごみの中に入って行く。

 すぐに、チトリスに声を掛ける貴族が現れ始めた。



―――〝絶死〟の権能を発現させたときはどうなるかと思ったが……


 スーディアは、総てを知っている。

 全てを知っているからこそ、動けない。チトリスにこれからを委ねる以外に、彼は手段を持ち合わせていなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


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次回投稿

「――奇妙――」

12月4日午後七時投稿予定です。

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