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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
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――詠唱――



「では、次は私のターンですか―――」


 チトリスが、魔素を集め、魔力を練り上げる。



 魔術戦において、ターンなどは存在しない。本来なら、詠唱の途中に攻撃を挟んでもいいし、チトリスのように体を鍛えているのであれば普通に体術を利用して詠唱を妨害するなどしても、ルール違反にはならない。

 しかし、詠唱を美化し、お互いに妨害しないというのは魔術師の持つ暗黙のルールであり、マナーだ。未だ学生だからと言って、そのマナーを破れば少なからず批判を食らうだろう。

 メイミダスは、チトリスの一言によってチトリスの詠唱を待たなければならなくなってしまったのだ。



「風よ広く来たりて、木々を倒し、湖面を揺らせ、煌々と燃える炎迫り来て、空の安寧を脅かせ」



 チトリスの行った詠唱に、メイミダスや観客の貴族が驚き、困惑する。

 それは、本来ならばこの場で出てくるはずのない詠唱だ。


「そんなっ……()()()()()()()()が学生に!?」

 メイミダスが、有り得ない、と言わんばかりに声を漏らす。

 観客も全員がその通りだ、と頷いた。


 本来、炎と水の同時付与は魔力量的な問題から、出来るはずがなかった。

 学生が積み得る鍛錬の量では、到底至りえないはずの、ある種の境地なのだ。

 スーディアや、ダモニア王子の集めた精鋭ぞろいのローブ集団の一部、といった圧倒的な強者たちだからこそ扱いうる、神の御業。

 それを、学生であるチトリスがやってのけたのだ、と見ている全員が驚きを隠せずに口を開く。



「成程、そう言うことか……面白いことを考えたな、チトリス」



 王国最強のスーディア・クラディエルは、チトリスが何をしているのか、理解していた。

 殆どの貴族たちはチトリスがなぜ、炎と水の同時付与が出来ているのか、理解できていない。理解しているのはスーディアやごく一部の上級生、教員くらいのものだった。


「五節詠唱に加え、水と炎の同時付与―――基本詠唱に一方を組み込んだお父様程ではありませんが、学生にしては十分でしょう?」

 チトリスの問い掛けに、十分という範疇に収まっていないだろう、とメイミダスは指摘することさえできなかった。 

 これで、父親に劣っていることを恥じるくらいならば、ここに居る大半の貴族より上だ、と誇ってくれた方が良かった。その方が、自分との差を当然のものだと自然に認められたのに、とメイミダスは歯噛みする。


「さて、この魔術、明らかに高威力だとは思いますが、防御魔術は必要ではありませんか?」

 どうぞ、と手で指し示してくるチトリスに、メイミダスは何とか目線が鋭くならないように、と表情筋を動かす。

 どれだけ、自分が侮られているのか、と思いはする。しかしそれでも、勝ちに拘る。そうでもしなければ、メイミダスは自分の存在価値を認められない。



「雷雲よ来たりて壁となり、空を埋め尽くし、風をも散らせ―――」

 メイミダスの詠唱が始まって、チトリスの口角が上がる。

 これも、総て計画の内で、自分は彼女の掌の上で踊らされているだけなのかもしれない、と思いながらも、メイミダスは詠唱を紡いだ。


 これまで、簡易魔術でばかり攻撃を仕掛けていたメイミダスが、はっきりと三節詠唱を行う。

 錬金魔方陣が翠であることも有り、性質の似通う属性同士での詠唱にはなったが、これまでより明らかに威力があることは分かる。


「これが、僕の出せる最大火力ですよ……貴女には遠く及ばないでしょうが」



雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――乱雷壁!」

風の権能を我が手に(詠唱完了)―――揺湖嵐」


 彼我の詠唱が重なった。


 その時、メイミダスは、少しの違和感を覚える。

 しかし、今は他のことを考えることのできる状況ではなかった。


 チトリスとメイミダスの魔力が拮抗する。

 魔力の奔流同士のぶつかり合いが、風と雷になってぶつかり合った。

 メイミダスは、更に違和感を強くする。

 

―――自分とチトリス公爵令嬢の魔力が、()()()()()()


 本来なら、メイミダスの放った三節詠唱より、チトリスの五節詠唱の方が威力が強くて当然だ。しかも、今回は水と炎の同時付与も行われている。それなら、チトリスとメイミダスの魔力が拮抗しているのは明らかな異常事態だった。


 魔術に関する鍛錬を怠っている貴族はチトリス公爵令嬢も―――クラディエル公爵家もこんなものか、と嘲笑の色を浮かべる。五節詠唱だというのに、これほどの威力しか出ないとは、と。

 しかし、実力を持つ貴族のほとんどが気付いた。


 明らかに、この状況はおかしい、と。

 これまでのチトリスの試合を見ていても、その魔力構築は早く、魔力密度も一般的な学生の水準と比べて圧倒的なものだった。

 メイミダスが学生の中で卓越した魔術の使い手だとしても、魔力密度でチトリスに勝てていない。これは客観的な事実であった。



 魔力の奔流が、輝きを失いつつある。拮抗が終わりかけていた。

 このまま行けば、どちらが勝つということもなく引き分けの様な終わり方が訪れるだろう。

 メイミダスは、明らかな違和感を感じながらも一旦は魔力的な拮抗に敗れてそのまま圧殺されることはないだろうと予測し、一旦は安堵する。


 ふと、魔力の輝きが魔素に還元されて消えた。

 どちらの魔力も、同時に魔素に還元される。


―――ここでの圧殺は避けられた……

 

 そう思ってメイミダスが安堵の溜息を洩らした―――その瞬間に、空気の色が変わった。

 誰も詠唱を行っていないはずなのに、魔素が鳴動する。

 魔素が真紅を色取り、燃え上がるような焔を作る。熱で空気が揺れ、お互いの像が拉げた。


「何が、起こって―――」



「終わらせましょう。炎の権能を我が手に(詠唱完了)―――」


「なっ!? いつの間に詠唱を……!?」



「―――迫炎覇」


 勢いよく、炎が迫る。

 メイミダスが、詠唱の為に口を開こうとして、口腔を火傷した。

 一気に水分を奪われる感覚、喉が焼け爛れたかのような痛みを感じたと思えば、すぐに結界によって回復が行われた。



「一体、どうやって……」

 メイミダスの口から洩れたのは断末魔ではなく、純粋な疑問の言葉だった。

 観客である貴族たちも、チトリスの詠唱がどこにあったのか、と疑念を膨らませる。

 しかし、チトリスは詠唱をはっきりと行っていた。

 何も、小声で詠唱だけを行ったわけではない。

 詠唱をしていたからこそ、あの場で魔術の行使が出来たわけである。



「致命傷を確認!!! 驚きの方法で勝利を収めたのは、無傷の女傑―チトリス・クラディエルだ―――!!!」


 会場に、今まで以上に歓声が響き渡る。

 勝者が―――新入生の中での最強が、ここで決まったのである。

 チトリスはこれまでの試合の時と同様にスカートの裾を軽く上げ、深々と礼をすると、そのままアリーナから退場した。

 メイミダスも、逆側からアリーナをあとにする。



 天才の蹂躙が、終わった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


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次回投稿

「――選抜――」

12月3日午後七時投稿予定です。

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