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ある日覚醒した聖女の力、殺すしか能が無い!  作者: 村右衛門
第二章 緊戦前線の入学式
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――魔術――




 それからも、選抜試合は恙無く行われ、チトリスは勝ち進んだ。



「ついに決勝戦となりました!! ここまでを勝ち抜いてきた、二人の登場です―――!!!」


 決勝戦は、ここまで一度も魔術を食らわず、完全な無傷で勝ち進んできたチトリスと、毎度のように十秒以内の戦いを演じて見せた、メイミダスの一騎打ちとなった。

 もともと予想されていた優勝候補同士の対決が実現し、会場にいた貴族たちはそれぞれどちらが勝つかと期待を膨らませる。これが一般大衆の中で行われていたならば、どちらが勝利するか、賭ける者も出てきていたであろう。

 

 白熱必至の試合を前にして、チトリスの表情は冷静な儘だった。

 これまで、無傷で勝ち進んできたことを誇るわけでもなく、これからの決勝戦に緊張して体を震わすでもなく、ただただ冷静な儘だった。

 チトリスにとって、ここは超えるべき―――超えて当然の壁である。

 王国最強を父に持ち、その父を打倒せんとするチトリスならば、同学年とは言えど、学生に負けているようではいけないのだ。

 それこそ、圧倒的な実力を見せつけて勝つようでなければいけない。



「次代の新星であることを戦績で示した無傷の女傑―――チトリス・クラディエル」


「早撃ちの碧魔士の名に偽りの色は一切なし―――メイミダス・コーディアヌス」



 名を呼ばれた二人が、ファイトポイントへと歩を進める。

 それだけで、周りの魔素が踊り狂うように渦を巻き始めた。

 錬金魔方陣の練度に観点を絞れば、チトリスの方が上であることに疑いの余地はない。

 しかし、メイミダスの実力は錬金魔方陣によって制限されるものではない、ということはチトリスもよく理解していた。

 第一試合でもそうだったが、メイミダスが行使する魔術は最も階層の低い錬金魔方陣でも行使できる、単節詠唱ばかりだ。

 錬金魔方陣の階層を上げたとしても、そこまで大きな変化は現れないだろう。

 だからこそ、メイミダスとの戦いにおいては錬金魔方陣によるアドバンテージはチトリスにない。



「噂のチトリス公爵令嬢と対戦できるとは―――光栄です」


「お手柔らかに、お願いいたしますわ」


「まさか、ご冗談を」


 チトリスとメイミダスがお互いに言葉を交わして笑い合う。

 少し言葉を交わしている―――ただそれだけで、魔素はそれぞれの精神に呼応するようにして更に唸りを上げて渦を作った。


「これは、本来なら無意味で―――尚且つお互いの名誉を掛けた戦いだ。それは貴女もご存じでしょう」

 知性的なメイミダスの双眸に、静かな焔が揺らぎを見せる。

 選抜試合における決勝戦は、これ以上ないほどに無意味だ。

 選抜試合における優勝者と準優勝者が生徒会役員の座を手に入れるというのならば、決勝戦に進出出来た二人をそのまま生徒会役員にしてしまえばいいだけで、二人の勝敗をつける必要はない。

 だが、ここは実力主義の王国、マルティアル王国である。

 どちらが上なのか、それについてはっきりさせないままに終わることなどはあり得ない。

 

 メイミダスの言った通り、これはお互いの魔術にかける誇りと名誉を掛けた、重要な闘いなのだ。チトリスも勿論、その事を理解している。


「ええ―――、勿論理解しているわ。だからこそ、私は貴方をここで圧倒する」


「頼もしいお言葉です。言葉の壮大さに、実現性があるかは二の次だ」


 チトリスとメイミダスが、それぞれの双眸に焔を燃やし、言葉を交わす。

 その様子を、司会の生徒会役員は静かに見ていた。


 (いつ始めたらいいんだろうなぁ……)


「では、そろそろ始めましょう。観客の皆さんも私たちの戦いを楽しみにしている事でしょうし」

 チトリスが、司会の生徒会役員の苦悩を感じ取ったのか、ふと声を上げる。

 メイミダスも頷いた。


「両者、錬金魔方陣を展開してください」

 司会の生徒会役員がほっ、と胸を撫で下ろし、アナウンスを入れる。

 それを合図に、チトリスとメイミダスの周りで魔素が躍動した。


「大気よ燃えろ、魔素よ集え―――錬金魔方陣()

「大気よ燃えろ、魔素よ集え―――錬金魔方陣()



「では―――試合を開始します。魔術行使一時許可(FIGHT)


 魔素の流れが、勢いを以ってアリーナに溢れる。

 観客の貴族たちは緊迫した試合の開始であるというのに、その荘厳かつ神秘的な風景に感嘆の声を漏らし、息をつくばかりだった。



「雷よ、集え―――初撃で終わらせましょう。雷の権能を我が手に(詠唱完了)―――極雷」


「流石、これまですべての試合を初撃で終わらせてきた方の言葉は重い」


 チトリスは呟きながら、相手の魔術を観察する。

 端的に表現するならば「指向性を持った雷」だろうか。

 


 チトリスのもとに、雷の輝きが殺到する。

 しかし、それはチトリスに中らないままに魔力に還元された。

 メイミダスの表情が、驚きと困惑で歪む。チトリスは、メイミダスの魔術を体を翻して避けたのだ。


「魔術は絶対的なものだと思われがちですが、その速度は意外と遅かったりします。魔術をどれだけ極めたとしても、体を動かす速度と動体視力を極めた人間の速度には敵わないでしょう」


 チトリスの声は、落ち着いていた。

 こうなることがすでに分かっていたかのような声だった。

 

 これまで、チトリスは魔術に関する鍛錬を怠ったことはなかった。

 しかし、同時に体を動かす鍛錬―――騎士が行うような鍛錬を行うことも多かった。単に、ずっと同じ場所にとどまったままに魔術を行使するだけでは、魔術師の安全はないからだ。

 どうしても、魔術師は魔法の利便性からか、自分の身体を動かす、という子供でもできるような初歩的なことを侮っている節がある。

 しかし、チトリスにとってその考え方は最も愚かなものだった。

 魔術も、普段の行動も、総ては自分の身体が動くからこそのものであって、魔術に依って自分の身体を動かしているのではないのだ。



「それは、魔術を極めている全ての人に対する愚弄では……?」

「いえ、魔術を極めるだけでは不十分だ、という話です」

 チトリスは一般的な魔術師と比べて体を鍛える訓練もしている、というだけで、本業は魔術師である。魔術を極めることが無意味だとは考えていない。

 ただ、魔術を極めただけでは戦場で生き残ることが出来ないと考えているだけだ。


 


「では、次は私のターンですか―――」



 天才の蹂躙が、始まる。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


知り合いなどに勧めていただけると、広報苦手な作者が泣いて喜びます。


いいねや評価、ブックマークなどもあります。是非、気が向いたらボタンを押すなりクリックなり、していってください。


次回投稿

「――詠唱――」

12月2日午後七時投稿予定です。

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