――試合――
次のイベントが始まる。
新入生の中でも、選ばれた者だけが参加することのできる、選抜試合だ。
「選抜試合に参加する候補者の方はこちらへどうぞ」
生徒会役員の在校生の案内によって、チトリスを含む数人の新入生が宴会場に設置された、魔術戦用フィールドへと移動する。
王立魔術学園の入学式が、一日中行われる要因の大部分は、これから行われる選抜試合だった。
王立魔術学園において、最強は誰なのか、と問われれば誰もが生徒会長こそがその人だ、と答える。それは、生徒たちにとって権威の象徴である生徒会長が強い、という固定観念から来るものではない。
言葉通りの意味で、生徒会長は王立魔術学園における最強である。
これから行われる選抜試合で優勝したもの、準優勝したもの、加えて生徒会長が推薦したものが生徒会役員の座を手に入れる。
そして、生徒会役員が上級性も含めて全員揃ったところで魔術戦を行い、その中での最強が生徒会長となるのだ。
であるから、王立魔術学園の生徒会長というのはその世代における最強だと表現しても差し支えない。
その選抜試合に、当然のごとくチトリスも参加していた。
事前に様々な実績を鑑みて選出された生徒会役員の選抜試合候補者の一人である彼女は、誰から見ても次代を引き継ぐにふさわしい人物であり、生徒会役員となる事も当然のように求められる立場なのだ。
「では、準備が整いましたので、生徒会役員選抜試合を始めます」
アナウンスが響き、新入生や貴族たちの視線が集まる。
アリーナと観客席、というようなレイアウトで構築されたステージには、既に多くの貴族たちが観客として存在していた。
観客席に入ることのできなかった下級貴族も、少し離れたところから観戦をするようである。
生徒会役員選抜試合は、それほどに注目されるイベントだ。
「第一試合を始める前に、試合形式について確認します。試合形式は伝統にのっとり、一騎打ちの魔術戦となります。試合は事前に用意された結界内で行い、どちらかが致命傷を負った時点で試合終了となります」
全員が理解している試合形式についての説明が滔々と行われる。
チトリスを含む、候補者8名は戦意を高めた。
「早速、第一試合を行います。候補者は前へ」
出てきたのは、短く深い碧の髪をふわりと揺らす美青年と、燃えるような深紅の髪をしたガタイの良い青年だ。お互いがお互いをその双眸で見つめ、強さを測りあう。
「第一試合は早撃ちの名手、メイミダス・コーディアヌスとその堅牢さでこれまで勝ちぬいたカドン・グラムの戦いです―――!!」
名を呼ばれたメイミダスとカドンがそれぞれファイトポイントに立つ。
魔素が渦を巻いた。
「では、錬金魔方陣を展開してください」
「「大気よ燃えろ、魔素よ集え―――錬金魔方陣」」
二人が同時に詠唱を行い、それぞれが錬金魔方陣を展開する。
二人とも生まれが高位な貴族であることも有り、既に錬金魔方陣は翠まで到達していた。
チトリスと比べれば見劣りする翠の輝きだが、この歳であれば十分すぎる実力だった。
「試合を開始します。魔術行使一時許可」
口伝えに伝わってきた、古代魔法の一種だ。
一言でアリーナの魔素の流れが変わる。これまで、魔術を行使しようとしても魔素の流れが悪いせいで出来なかったのが一変、魔術師の身体を魔素が循環し出す。
「稲妻よ光れ!! 雷の権能を我が手に―――雷光」
「ッ……!!」
メイミダスが、先制攻撃を仕掛ける。
迸る雷光を前に、カドンは何かしらの簡易結界を張ろうとするが、予想より数段はメイミダスの魔術構築速度が速い。
カドンの詠唱が始まるか否かというところでメイミダスの雷撃がカドンに命中した。
「致命傷程度の威力を確認っ!! なんと試合時間数秒に満たず! 勝者はメイミダス・コーディアヌス―――!!!」
会場が歓声に沸く。
メイミダスが大仰に一礼すると、更に拍手が強まった。
一瞬にして試合が終わってしまった。
カドンは堅牢さによってこれまでに幾度か行われてきた魔術戦を乗り越えてきた。
しかし、魔術戦における堅牢さとはつまり、簡易結界をすぐに張ることができ、なおかつ魔力切れを起こしにくい、ということだ。実際の攻撃に対する物理耐性があるわけではない。
本来、簡易結界は攻撃よりあとに構築される性質上、攻撃より早く構築される。しかしそれは、両者が同等の実力であった場合だ。
今回の場合―――、
メイミダスは、早撃ちを得意とすることから、早撃ちの碧魔士とも呼ばれ、今回の生徒会役員選抜試合における優勝候補の一人であった。
「圧倒的な実力で第一試合を制したメイミダス、第二ラウンドに進出です!!」
アナウンスの中、メイミダスとカドンがアリーナを出て行った。
本来ならば雷撃による感電で立てるわけもないカドンだが、アリーナ全体にかけられている結界によって全くの無傷だった。
しかし、本来ならば致命傷だったのだ。
「では、第二試合を行います。第二試合も引き続き、優勝候補の登場です!!」
そのアナウンスに、会場がもう一度沸いた。
誰が出てくるのかなど、全員が分かり切っている。
アリーナに登場したのは、長い金髪を靡かし、胸にはルビーのブローチを煌めかせる美少女―――チトリス・クラディエルである。
もう一方の入口からは、ブロンズヘアーを短く整えた令嬢が入ってくる。
「第二試合、魔術界の期待の新星、チトリス・クラディエルと堅実な戦いを繰り広げるニーチィ・モルドレットの戦いです!!」
二人の令嬢が、ファイトポイントに歩を進める。
「両者ともに、錬金魔方陣を展開してください」
「大気よ燃えろ、魔素よ集え―――錬金魔方陣」
「大気よ燃えろ、魔素よ集え―――錬金魔方陣」
ニーチィの錬金魔方陣は翠、チトリスの錬金魔方陣は蒼だ。
ニーチィに実力のないわけではない。先述の通り、貴族であっても学生で翠なら、良いほうだ。
それでも、稀代の天才・チトリスには敵わない。
天才の子は当然、天才だ―――。
「試合を開始します。魔術行使一時許可」
魔素の流れが変わる。同時に、ニーチィが詠唱を開始した。
「水よ流れ、滔々たる流れの元に広大な海を形作れ―――」
水の基本詠唱に同じく水の補助属性付与。
彼女の堅実な戦い方に沿った、魔力量をあまり消費しない詠唱だった。
「吹き荒ぶ風よ、彼方より水を纏い来て、空を朱く染め上げよ―――」
「水の権能を我が手に―――碧流」
「風の権能を我が手に―――風槍撃」
ニーチィとチトリスの宣言が重なる。
本来、ニーチィの方が速く詠唱を始めたし、ニーチィが二節詠唱なのに対してチトリスは三節詠唱なのだから、ニーチィの宣言が早く来るはずだった。
しかし、魔術の構築速度が違う。
これは、鍛錬の差ではなく、ただただ才覚の差だった。
お互いの魔力の奔流は、激突こそしなかった。
チトリスの風魔術がニーチィの水も巻き込んでなお勢い無くさず、ニーチィへと殺到する。
「水よ、壁と―――ゴボボ」
咄嗟に簡易結界を張ろうとするニーチィだが、詠唱をするために開かれた口からは情けない息が漏れただけだった。
「致命傷を確認っ! またも瞬殺でした、勝者チトリス・クラディエル―――!!!」
会場が拍手と歓声に包まれる。
恭しく、スカートの端を少しだけ持ち上げて、チトリスがお辞儀をすると、一部の観客は立ち上がり、手の痛みも忘れて拍手を続けた。
「対戦、ありがとうございました。私は相手にならなかったと思いますけれど、チトリス様と一度でも戦えて、良かったです」
ニーチィがチトリスの前に立って、小さく礼をする。
小柄なニーチィを前にして、チトリスもふふ、と微笑んだ。
「また、王立魔術学園では仲良くしましょう」
「……!! はいっ」
ニーチィが満面の笑みでアリーナを去るのを微笑ましく見てから、チトリスもアリーナから去る。
アリーナを出てなお、チトリスに対する拍手喝采は続いていた。
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次回投稿
「――魔術――」
12月1日午後七時投稿予定です。




