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木元崇

 

 警察か木元かの二択で木元に来てもらうことに決めて、私と由紀さんは急いで寝室に貼られた兄のきしょい写真を剥がしにかかった。あと石川義一がここに来たことの戦犯は木元だということもわかった。何が起こったのか木元にLINEで一通り(由紀さんの寝室のこと以外)伝えたら『俺のせいかもしれん』返信があった。

『どゆこと?』

『キリやんに写真の出どころ訊かれたときにおまえじゃなくて青山の名前出した。それがカズに伝わったっぽい』

 なんとなく桐山さんが写真の持ち主に危害を加える可能性は木元も考えてて、木元としては青山由紀なら場所わかんねーだろうから、みたいな予防線だったそうだ。

 それで桐山さんから連絡を受けた石川義一は私が由紀さんと合流するのを待って由紀さんを確認したから犯行に及んだわけだ。桐山さんは由紀さんの住所を知らなかったはずなので、私がのこのこ訪ねて行ったからこういう状況になった、と。

 最近引っ越した私の住所もわかんなかったはずじゃね? と思ったが、たぶん駅で張ってたんだな。

 んー。

 木元が写真の出どころを訊かれたときに正直に私の名前を出していたら、私は一人のときに石川義一に襲われてたわけで、熊よけスプレーとスタンガンがあっても私に一人で成人男性を撃退する能力は、おそらくない。今回たまたまうまくいったのは私を無力化したと勘違いした石川義一の意識が由紀さんの方へ向かっていてその隙を突けたからだ。

 そもそも木元が写真の出どころについて何もしゃべらなかったらよかったんじゃね? 説はあるけれど、直に私の名前を出さなかったのは多少のファインプレーだったことを認めてあげてもいいんじゃないだろうか。40点ぐらいはやってもいいかな。

「あの……」

 由紀さんがいつものびくびくした声で話しかけてきた。

「ん?」

「瑞樹さんは、わたしのこと許してくださるんですか?」

「許すもなにも現段階ではべつに私はあんたに何もされてないけど」

 むしろ清水のおっさんのことに気づけたのは由紀さんが後ろからつけてくるおっさんに気づいたからだし。酒飲みに来れる友達って私にとっては結構貴重で、由紀さんがヤバイやつなのは薄々わかるけどまあ私の中でそれを問題にするのはヤバイ部分が発揮されてからでべつにいいかなって。

 兄に対してストーカー行為を働いてたのは、直接兄に謝ったらいいんじゃねーの。

 写真を剥がし終わってから石川義一を転がしたままで「ちょっと落ち着こう」ってなって二人で買ってきたつまみを開けた。スモークタンがレモンとコショウの風味が効いてて美味かった。食ってるうちにもうなにもややこしいことを考えたくなくなってきたので酒も開けた。由紀さんにも勧めたら由紀さんもちびちび舐めるみたいにして飲み始めた。

 そのうち木元が来た。

「よお、木元―」

 酔っぱらってすっかり楽しくなった私はカンを掲げて言った。

「おま、まじか。俺がどんだけ心配したと」

 木元はあきれた様子で部屋の中に入ってきて、石川義一を見て絶句した。酒盛りしてる私達を見てLINEの内容がドッキリかなんかで全部ウソだったんじゃないかと早合点してたらしい。

「警察は」

「呼んでなーい」

「なんで」

「なんとなーく」

 せっかく兄が黙ってるのにこいつら捕まえていろんなことゲロったら山田さんにめーわくかかるからー、とかは頭の片隅くらいにはあったがどっちかというと私の警察へのトラウマのがデカい。

 呆れ顔の木元に向かってストロングゼロの350ミリの缶を投げる。木元がおっきな手で缶を受け止める。「いや、俺、車だし……」テーブルに缶を戻す。それから膝をついて石川義一を見る。「おまえ、これ洒落になってねーぞ?」木元が言い、石川義一が木元を睨みつけた。「ぎゃはははは」私がスタンガンをぶんぶん振ったら「ひいいいい」石川義一は悲鳴をあげて縮こまってた。あー、おもしれー。ノリでもっかいぐらいバチってもいいかなー。

「警察は呼ばなくていいのか」

 木元が由紀さんに聞く。

「あまり大事おおごとにしたいとは思ってません」

 木元が嘲笑うみたいにして「脛に傷あるから?」言う。「まあ、そういうことです」、「無罪放免でこいつ見逃していいわけ?」石川義一を親指で指す。「正直あんまりよくありませんが、やむなしということで」由紀さんがやけになって酒を呷った。

 木元がちっちゃく舌打ちする。石川義一に向けて「見逃してくれるってよ。おまえなんか弁解ある?」言う。石川義一はなんも言わなかったが、黙ってるのかビビッて喋れないのかはよくわかんなかった。やりすぎたかなー?

「一個だけ聞くけどさ、ジマもこの件の元のやつ、噛んでんの?」

 石川義一は視線を彷徨わせて迷う素振りを見せたあとで首を縦に振った。へえ、山田さんの件のときに途中で帰ったっていう真島隼人も犯人グループの一人なのか。木元が目元を抑えた。

「おまえさ、今回は見逃してもらっただけってのはまじでよく覚えとけよ。次になんかあったら瑞樹たちが何言っても俺が警察に全部ぶちまけるからな? あともうキリやんと連絡とんのはやめとけ」

 石川義一の反応を待たずに木元が顔をあげて私と由紀さんに向き直る。

「んじゃ俺はこいつ連れて帰るわ」

「えー、飲んでけよー」

 ストロングゼロ(ダブルレモン)を掲げた私を木元がびみょうな目で見た。

「俺はあんたがこいつの近くにいるのもあんまりいいと思ってないんだけどな」

 由紀さんに言う。

「はい」

「あたまのかてーやつだなぁ。だからフラれるんだよぉ」

 私のヤジを受け流して、木元は「まあ、よろしく頼むわ」石川義一を担いで出て行った。


 そのあたりから記憶がなくて気づいたら翌朝だった。途中から兄貴がいなくなったことを愚痴って号泣してて由紀さんも号泣しだした気がするが、具体的に何言ったかはまったく覚えてない。由紀さんは仕事に出たらしくてもういなかった。




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