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青山由紀

 

 家に火炎瓶投げ込まれたときはさすがにどうしようかと思った。さすがに引っ越すしかなかったけれど、二、三回引っ越してもネット上の特定班が私の家を追跡してきて発見して同じような嫌がらせをばら撒いて父と母は完全に参ってしまった。私がわりと平気だったのは元々ヒッキーだったから。窓ガラスがいつ割られてもいいように段ボールで蓋して光が入ってこなくても全然平気だったし、食べ物とか飲み物とか深夜のコンビニ調達で余裕だった。ただ続けば私も参ってきそうだったのでいまは一人で家賃の安いアパートに部屋借りて暮らしてるけど。

 私は二十二歳なのに免許すら持ってなくて移動はもっぱら電車だ。平衡感覚に難があって自転車乗れないのは我ながらわりと笑える。仕事だってイラストレイターで原則としては家で作業できる。というか特定班は相塚昂輝の妹の私がペンネーム・相羽良綱だと気づかないんだろか。本名隠して作業しててほんとによかった。バレてたら燃え盛ってただろう。そんときはそんときだが。出版社さん本名隠してくれて本当にありがとう、担当の山内ありがとう、仕事減らされた恨みはまだかなり残ってるけどな。

 で、なんでそんな状況に陥ってるかというと二年前に兄の相塚昂輝が大学で金属バット振りかざして同じ学校の野球サークルのやつらをぶっ殺したかららしいんだけど、それを聞いた私の感想は「ああ、あいつならやりかねないな」だった。基本的におとなしくて温厚なやつだったけどなんか気に食わないことがあっても溜め込んじゃって我慢して我慢して我慢して耐え切れなくなってストレスを爆発させて物を破壊する癖のあるやつだったのだ。中学一年生の兄が食器棚と冷蔵庫とテーブルを金属バットで粉砕したのを私は覚えている。あれはなにが理由だったんだっけ。なんかくそくだらないことだったと思うんだけど。

 兄が暴れたサークルで借りてた個室はそれはもう悲惨な状況だったそうだ。兄は明確な殺意持ってヤってたから殺された五人はバットで背中砕かれて動けなくなったあとで頭をどつかれて脳みそ半分飛び出したり、目玉が飛び出たり。最初は速効性重視で頭とか狙ってたんだけど三人ヤったら残りを観察する余裕ができたのか残り二人は頭とかじゃなくて足を折られてから腹とか胸とか殴られまくって死んでた。やるなあいつ。

 兄は高校の頃は地方大会決勝まで母校の野球部を導いた結構なスラッガーで、ドラフトには掛かんなかったがスカウトさんがちらちら見に来てたりはしていた。兄がプロにお呼びが掛かんなかった決め手は身長が百七十を切っていて体つきがスポーツマンにしては小さかった。要するにプロでやっていけるフィジカルではないと判断された。結局モノ言うのは骨格と筋肉とかいう天性のものなんだなと兄が時々ぼやいていた。小さい体でそれなりに打ってた兄はスポーツのセンスがあったんだろうけど、それはフィジカルの問題を乗り越えられるほど飛びぬけた天才じゃなかったのだ。(小さい天才ってとアルトゥーべとか例に出したいんだけどサイン盗みの問題でちょっと言いづらいね?)

 兄の動機は未だによくわかってはないし、実はそんなに興味もない。

 兄が法廷で「犯行内容については全面的に認めます。しかし反省も後悔もしておりません。彼らが生きていたらもう一度同じことをします」と語ったのをテレビニュースで絵コンテだされながら聞いたときに私は部屋で一人で大爆笑した。すごくあいつらしい。いいよ。もうそれでいいよ。死刑でいいと思ってんなら、それで貫けよ。と思った。被害者遺族のことなんか知ったこっちゃないんだな。反省なんざ一ミリもしてないんだな。エゴが爆発していた。

 刑務所の塀の向こうにいる代わりに父母と私に向けられたヘイトにはそこそこムカついたがそれは法的には兄に責任がないことで嫌がらせしてくるやつらの個別の責任だ。自宅突YouTuberにはさすがに辟易したが。それから警察呼んでも「お宅にも責任あるから」みたいな顔してあんまり真面目に取り合ってくんないのも、ああこいつらそーなんだなと思って税金納めたくなくなった。ひゃっはっは。

 さてはて、そんな馬鹿みたいなテンションで生活していた私のもとへ(ハイになってないとやってられん)、この度、一通のお手紙が届きました。

 内容は、


「お兄さんのことに関してお話があります」


 あと日付と時間と場所。二日後の十四時で東大阪の兄がいた大学の近くの喫茶店。

 女の人っぽい字だが、妙に汚い。手に力が入ってなくて線が歪んでいて閉じてないといけない部分がちゃんと閉じてなくて撥ねとか払いとかめっちゃくちゃ雑。あ、これ鬱かなんかの人の字だなと直感的に思ったのはお父さんとお母さんが最近こういう字を書きがちだからだ。病んでレラ。

 病んでるやつの話を聞きに行っても自分も病むだけなのでどーしよーかなと思ったんだけど、女のネチネチならもっと間接的でこういう直接は言ってこないような気がしたのまあ行ってやってもいいかと思いました。私はいつかイラストの一枚絵や二次創作だけじゃなくて自分の漫画も描きたいと思ってるので話聞いとくことは芸の肥やしになるじゃないかなとか考えていた。こわいものみたさ。

 再生数稼ぎで正義漢気取りのバカYouTuberだったら無言のままこっちから動画とってYouTubeに上げようと思ってカメラとボイスレコーダーも用意。あんなもん一部だけ切り取ったらどうとでも印象を操作できるからね? あと110番にすぐに連絡できるようにスマホもセット。よし。暴漢対策用のスプレーとスタンガンもカバンの底に忍ばせた。

 準備万端で私はアパートの自室を脱出して喫茶店に向かった。

 梅雨の合間の晴れ空の下で十五分かけて駅まで行って切符買って電車に乗る。車内の全員が「犯罪者の妹」って目で私を見てきてるような気がするけれど、どうせ勘違いで思い込みでこいつら全員ただのモブだから無視無視。東大阪の駅で降りて、スマホで場所検索しながら喫茶店を探す。と、駅のすぐ近くでわりと簡単に見つかる。「アメージング」って名前のその喫茶店は、隣のコンビニのキラキラした感じとケンタッキー・フライド・チキンの目立つカーネルおじさんに囲まれて息をひそめてるみたいに全然目立っていない。窓から喫茶店の中を覗いてみると誰もいないように見えたがよくよく見ると一番奥に髪のなげー女が一人で座って俯いて本を読んでいる。時計を見ると十三時五十分で来ててもおかしくない。まあ向こうは私のことわかるだろうから違うとこにしれっと座っとけば向こうが話しかけてくるだろう。

 とは思いつつも私はあの手紙を思い出して「あんな鬱っぽいやつにほぼ知らない人間に話しかけるだけの行動力があるんだろうか?」とも思う。

 まどろっこしいのは面倒だ。私は直情型なのだ。客いねえ。あれっぽい。よし、二時まで時間潰してまだ客があいつしかいなかったら話しかけよう。私は喫茶店に入る。安っぽい木造の作りだった。テーブルとイスの安っぽさと裏腹に生意気にも間接照明で天井から跳ね返ってきた光がやさしくなかを照らしている。観葉植物がちらほら。カウンターから男性の声で「いらっしゃい」。エプロンつけた中年のおっさんが顔を出して客が来たことに驚いたように眉を動かした。

「お好きな席へどうぞ」

 おっさんが言うので私はあえて髪の長い例の女から逆側の角の席に座る。窓から入ってきた光が強くて間接照明を台無しにしていて「あ、席選びに失敗したな」と思ったけれどおっさんが水とおしぼりを運んできたから私は席を変えるタイミングを見失った。おっさんが「ご注文がお決まりでしたらそちらのベルでお呼びください」決まり文句を言ってカウンターへと引っ込んでいく。

 メニューを捲って適当にカフェオレでいーや、あと腹減ったからチーズケーキ食おうと思ってベルを鳴らしておっさんを呼びつけてその二つを注文する。おっさんが注文の内容を繰り返してカウンターに戻っていく。

 待ってる間、時間つぶしになんかかこー、と思って持ち歩いてる手帳とシャーペンで店内の様子を適当にスケッチする。私は美大行ったりはしてないが描き方の基本的なことは高校の美術部の顧問やってた教師が教えてくれた。あの頃はあの教師くそ嫌いで大嫌いで人の絵を教えたことが出来てない書き直せとかお前は俺の話を聞いてたのかヘタクソとか色の使い方がおかしいちゃんと表見て使えだとか筋肉の形はそうじゃねえって何回も言ってるだろうがおまえ記憶力ゼロか? とか言いたい放題言ってきて私はハゲデブ死ねと思っててたんだけどいま私が絵描いて食っていけるのはあいつのおかげだと思うとなんか複雑な気持ちになる。少なくとも私がpixivにあげてる絵を適当に褒めるだけの作家の横のつながりよりもよっぽど役に立った。認めたくねえ……

 横繋がりの作家連中は、横のつながり大事にした方がいい、とか、人の縁がなにより大事だ、とか言うんだけど、それはあくまで宣伝のためであって少なくとも私が絵を上手くなるためにあいつらは少しも役に立たなくてどうやったらバズるかばっかり言い合っている。上手いだけじゃ目立たないってのは私にもわかるのだがだったら上手いだけで目立つぐらいに神レベルになればいいじゃん。おまえらは一発バズった一発屋で終わっとけ私は強欲なんだ。神漫画連発して神の一人になってやる、伝説になってやる。

 私はわりとこんなふうに天上天下唯我独尊なところがあるんだけど私の頭の片隅にはあのハゲデブ美術教師がいて「唯我」とは思えず「独尊」というにはまだ未熟なのは散々怒られたから覚えている。けっ。あのハゲデブ、人のなけなしの自信を粉砕していきやがって。まあ頭かち割られたからいまの私がいるんだろうけど。

 さささーっと店の様子を描いてたら、カフェオレとチーズケーキが運ばれてくる。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」

 いえす。軽く頷くとおっさんが私の手元を見てにこっと微笑んで「ごゆっくりどうぞ」カウンターの方へ戻っていく。私はしゃしゃしゃしゃーっと簡単に店の様子を描きながらちらりと横を見る。髪長女と目があった。うん、まああたりかな? あいつだろ。ついでに橋の中央に置かれている柱時計を見る。二時一分。

 しばらくチーズケーキとカフェオレ(別に上手くも不味くもなかった)を食って飲みながらぼーっとして話しかけてくるのを待ってたが、その女はちらちらこっちを気にしつつも一向にアクションを起こす気配がない。手元の本を見てスマホを見て私を見る三角見を繰り返している。めんどくさくなって私はチーズケーキを完食したあと飲みかけのカフェオレ持って立ち上がって女の座ってる席の向かい側から「なにか?」と言う。

 女は私を見上げて視線を私の「下級国民」と印字されたTシャツを見て微妙な顔をして、それから今度は視線を下げて手元に移してもごもごと小声でなんか言ってる。慌てている。アホらしい。私は向かいの椅子を引く。「手紙出したのあんたですか」訊くのと同時に女の全身をさっと見る。歳のころは一つか二つ上に見える。兄の同級生だろうか? ゆとりのある水色のワンピース。半袖。乳はデカい方。机に隠れた下半身は見えないし猫背なので小さく見えるがおそらく身長は私より少し高い。(私が161㎝だから多分165㎝より上、70はない)

 髪が長くて目にかかってるせいで雰囲気が暗い。眼鏡の奥の目がデカくてぎょろっとしてる。口がデカい。肌が赤身ががかってるのは緊張してるせいか? 特別ブスでも美人でもない。

「は、はは、は、はい」

 とりあえず落ち着け。

 呼び出したのはおまえの方だろ。

「はじめまして、相塚瑞樹です」

「あ、はい」

 はい、じゃねーよ。

 おまえ誰だよ。

 女が体を引いた拍子にコップが倒れて水がこぼれた。女のあまりの要領の悪さに私はちょっといらつく。おっさんが倒れたコップを回収に来て女が「すみません」軽く頭をさげる。おっさんがコップを回収して去っていく。

 私は懐に手を伸ばす。ボイスレコーダー、ぽちっとな。

「お名前は?」

「青山由紀です」

「お話って?」

「あ、お兄さんのことです」

「あなたは、兄とは?」

「元恋人です」

 へえ。兄に彼女いたのか。全然知らんかった。

「じゃあ大変だったんじゃ? あのときの前後は」

「あ、いえ。付き合っての高校の頃だったんで。大学入ってからは接点ないです」

「は?」

 じゃあなにおまえ?、と思ったのが声に出た。由紀さんがびくっと身を竦ませる。

 いまのは私も悪かったけどそんなビビんな。

「あの、あの、えっと、ですね」

「はい」

「昂輝くん、あんなことやる人じゃないと思うんですよ」

「はぁ?」

「だから、その、やったのもしかしたら昂輝くんじゃないんじゃないかって」

 うわ、ばかばかし。私は露骨にため息を吐いてしまう。

 兄はサークルの部室で死体に囲まれて返り血塗れで座ってたところを逮捕されたのだ。現行犯逮捕だった。(現行犯逮捕とは犯行直後の犯人を捕まえる場合も含む) 逃げも隠れもしなかったし犯行を完全に認めた。犯行の詳細を語り、計画を語り、そのすべてが完全に立証された。兄が犯行に使った道具を買ったホームセンターの監視カメラには兄の姿がばっちり映っていて、自宅のパソコンからは計画書の下書きが発見された。兄が話さなかったのは動機だけだ。そんなやつのやったことのどこに疑いの余地があるっていうんだ。

「もしかして新聞とか週刊誌とかニュースとか全然見てません?」

「見ました。でも私が知ってるのと違う昂輝くんの話ばっかりしてるから、信じてないです」

 由紀さんの目は熱っぽく、まだ兄に思いを残しているように見えた。

 なにこの厄介な人。

 あれか、都市伝説とか陰謀論とか信じちゃう人ってこんな感じなのかな。思い込んだら一直線で自分に都合のいいことしか信用しない。どんなに裏付けがあっても関係ない。だってその情報は自分に不利益だから、見えない、聞こえない。あーあー。

「あの、もし事件のあったときのこと知ってるなら、教えてほしいです。あの、いろいろ、調べてみたくて」

 由紀さんの熱っぽい目と言葉は私を苛立たせる。

 もうほっといてくれよ、外野共め。特定班とのいたちごっこはまだ続いてるけど嫌がらせの数々はようやっと多少ましにはなってきて。干されてた仕事も二年経ってようやく戻ってきた。いまさらなにを調べるってんだ、このくそ女。

「報道で言われてる通りですよ。兄は大学の教室で金属バットでサークル仲間を五人殴り殺したんです。咄嗟に逃げられないようにこっそり内鍵を瞬間接着剤で動かないようにして。一本とか二本は壊れても問題ないように刃物と金属バットを合計で六本も用意して。それでサークル仲間の頭とか内臓とかを叩き潰したんですよ」

 苛立ちを叩きつけるような早口で私は言う。

「じゃあなんでそんなことしたんですか」

 まけじと、さっきまでのおどおどが嘘だったみたいな強い目で由紀さんが私を見る。

 そして、そう言われたら私は黙ってしまう。

 “なんでそんなことをしたのか?”

 それが私にもわからないから。兄がなんかむしゃくしゃしてたのは間違いないんだろう。でもなんでむしゃくしゃしてたのかは全然わからない。知らない。面会いっても兄は教えてくれなかった。ネットの情報にも転がってなかった。ニュースも週刊誌もなにも言っていなかった。

 サークル仲間五人ぶっ殺すほどなにを溜め込んでたのか。少なくとも20人以上いた兄のとこの野球サークルでどうしてその五人だったのか。

 私達は二人とも黙る。

 柱時計がカチカチするのがうるさい。そんなにデカい音じゃないんだけど、妙に気になる。

「どうしていまなんですか」

 私はようやっと声を絞り出す。

「その、私、あんなに優しかった昂輝くんがあんなことしてから、人間が笑ってたらみんな裏で昂輝くんみたいなこと考えてるんじゃないかなって思っちゃって、誰も信じられなくなって、人間こわくて、引きこもってたんです。でもこのままじゃいけないと思って、こわいんだったらこわさの根本と向き合わないといけないと思って。で、だったら昂輝くんあんなにやさしかったのになんであんなことしたんだろうと思って。だけど調べてもわかんなくて。だったら知らない誰かがめちゃくちゃ言ってるのより優しかった昂輝くん信じてみようと思って……」

 やめとけよ。と言いかけて私は何も言えなくなる。

 あんなやつ信じても裏切れるだけだ。でも私の中にも優しかった兄の記憶は残っていて海で雨降ってめっちゃ寒かったときに一本しかない傘を私に使わせてくれたし小学校の体育祭で脱水症状で倒れそうだった私に一番早く気づいたのは兄だった。ファミレスいったら必ず自分のハンバーグ一口くれて、カップヌードルの私が好きなカレー味は兄だって好きだったのに手をつけなかった。ふつうのいいやつだった。いい兄だった。少なくとも私にとっては。

 けどそんなの人間には二面性があるよってだけで、表向き親切で優しくていいやつでも腹の中では何考えてるかわかんなくて突発的にキレてサークル仲間五人ぐらいぶっ殺すこともそりゃあるかもしれないじゃん。って話でしかないんだ。

 あれ? 兄は昔みたいに突発的にキレたんじゃなくて、計画たてて五人殺すつもりでタイミングを選んで接着剤で鍵固めたんだよね? それって家で暴れたときとはちょっと違くね。

 少しだけ心が揺れてしまう。

 兄がやったのは間違いない。

 でもなんでやったのか。私らを付け回す火炎瓶とか誹謗中傷とかの原点になにがあったのか。そんなこと知っても仕方ないじゃん?、と思うのと、それくらい知る権利は妹の私にはあるじゃん?、が交差する。

「あ、あの、えっと、あなたが知らないのはわかりました。知ってる人に心当たりはありませんか?」

 動機を知ってそうなやつ。

 兄のサークル仲間とは私も会ったことあるやついるから、電話番号変わってなければまだ連絡つくやついるかもしれない。いや向こうは会いたくないだろ。仲間五人ぶっ殺したやつの関係者だぞ。そもそものところもし話す気があったら報道陣が詰めかけたときに洗いざらい喋ってるはずだ。そのときなんも言わなかったってことは話す気がないんだろう。

「わかりません」

 私は言う。

「そうですか」

 由紀さんが俯いてコーヒーカップを口元に持っていったがとっくにカップの中は空だった。カップを置く。「連絡先、交換しませんか」由紀さんに言われて、私は少し考えたあとで電話番号とGoogleで用意できるすぐに捨てれるメールアドレスを由紀さんに提示する。「わ、あれ。ちょっと待ってください」由紀さんは文字列としばらく格闘したあとに空メールを一通送ってきた。

 Yukiaoyama1016@×××.jp 080-××××—××××

 うん、よくわかった。この人はアホだ。アドレスに堂々と本名いれてんじゃねーよ。後ろの数字は、なんだ? 誕生日か?

「じゃ、じゃあ、なにかわかったら教えてください。こっちからもなにかわかったら連絡します」

「あぁ、はい、わかりました」

 由紀さんは伝票持って立ち上がって、金払って出て行く。

 私はしばらく脱力して背もたれに全体重かけてた。


 椅子が浮いて、コケかけた。


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