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怠惰な奥様 シリーズ

御都合主義の怠惰な奥様は、永遠に夢の中。

作者: 夕綾るか
掲載日:2022/02/02



つまらない毎日だ。何の刺激もない。

昔は、夢や希望なんてものがあった様に思うけど。


そんなの数十年経つと、現実を知る。

成功者は、一握りだ。

今の自分の現状に満足しているのも少数派だろう。

何かしら、不満を抱いているはずだ。


上を見たらキリがないからね。

下も、同じかもしれないけど。


大学卒業し、仕事して、人並みに結婚して、子どもが出来て、また仕事して。


落ち着いて振り返ったら、何にも残ってなかった。

私って、何だろう?何のために、生きていた?

夫のため?子どものため?はたまた、社会のため?


――――『自分のため』は、どこいった?


元々、好きじゃないんだよ。

外に出て歩くのも、仕事をするのも、誰かと関係を持つのも。煩わしいの、全部。


元々、好きだったんだよ。

本を読むこと。映画を観ること。一人の時間。

美味しいものを食べること。

それと、年に2~3回の旅行。


大きな病気をした。一人の時間が出来たの。

そうしたら、まるで、今までのが嘘みたいに、心が楽になった。


私は、何にもしないをしたかったんだ。


身体はもちろん、痛くて、辛くて、苦しいよ?

でも、心は、自由になった。


二週間、入院して、手術して、退院した。

また、つまらない日々が、始まった。


一度、知ってしまった怠惰な私を、変えることは、出来なくなってしまった。


夫は、責めたよ。家事もそれなりにやってるけど。

足りないって。外で仕事が出来なくなって、夫からお金を貰っていたけど、それは夫婦のお金だよね?


確かに、稼いできたのは、夫だよ。でも、私、家の事してるよね?今まで、外で働いていたから、家にいるとやること少なくなってる上に、収入も減ってるって、そう言いたいの?


でも、病気で、身体が前みたいに動かないんだよ。

それを分かってる?

何もしてなくても、痛いの。辛いの。

貴方に分かる?

それなりに、私なりに、一生懸命頑張ってるよ。

それでも、足りないって言うんでしょ?


それなら私は、本当の怠惰になろう。


毎日、ダラダラと寝て過ごして。

時に、夫に病院代を吹っ掛けて。

誰もいない時間に、読書に耽り。

あり得ない物語に思いを馳せる。


こんな世界、あり得ない。

主人公の周りには、イケメン揃い。

性格も良い人が多い。

格好良くて、人格者なんて、この世の中、そうそういるもんじゃない。

しかも、皆、主人公に惹かれるなんて、物語。


だから、異世界ファンタジーなんだ。

あり得ないから、そう分かっているから、夢をみるのだ。現実には、すれ違ったら、振り返ってしまう様な美男美女なんてそういないし、お目にかかれてテレビの中だ。自分の周りにいるかい?そんな人。


ドラマや小説の物語の様に、ファンクラブが出来る程の人物にお目にかかったこともなければ、そんな噂の的になるような人物に出会ったこともない。


そう。

これも、一握り。選ばれた人だけの特権だ。

中心になる、美男美女も。

それを取り巻ける人達でさえも。

現実は、その取り巻きにさえ、なることはない。



本当に、そんな世界があるのなら…

次こそは、選ばれてみたいものだ。

物語になるような物語の主人公に。



そして、今日も、御都合主義の怠惰な奥様は、

物語の途中で寝落ちする。




◇◇◇◇◇




「……起きられよ!……起きられよ!」


身体を揺すられる。


「ん…何?もう朝?朝ご飯はいつも適当にって…」


薄目を開けると、日射しがやけに眩しすぎる。

まるで、直接浴びている様だ。

そんなはずはない。

だって、部屋の中にいるのだから。


そう思ったのだが、耳にはそよそよと、心地のよい葉の擦れる音。鳥のさえずり。

目の前には、覗き込むイケメンのアップ…


はい?


目の前には、覗き込むイケメンのアップ…


「だっ…誰?!」

「いや…こちらが、聞きたいのだが」


飛び起きて、辺りを見回すと、森の中?

目の前には、覗き込んでいたイケメン?

私は…そのまま?…って、え?そのまま?

こういうのって、美少女になっちゃったって、ヤツじゃないの?


四十…ううん歳のまま?はぁ?嘘でしょ?

そこは、御都合主義でいきましょうよ!?

現実、転生もそんなに甘くないってこと?

ということは、私は、あちらで死んだの?

悪化しちゃったか…こき使われたもんね。


あれ?でも、私のままってことは、こういうのは、転移っていうのかしら?それとも、ここは夢の中?


まぁ、いいわ。

…幾つか心残りはあるけど、仕方がない。

幸い、言葉も通じるし、文字も何故か読める様だ。

身体も痛くないし、辛くない。動ける!


怠惰な奥様は、この世界で、生きていこう。

夢なら夢で、醒めるまで思い切り楽しもう。




私を覗き込んでいたイケメンさん。

彼の名前は、アリオン・クリフォード様。

近くのお城でお勤めしているらしい。

行く当てもなく、身寄りもない私を、憐れに思ったのか、自分のお屋敷に連れていってくれるそうだ。

侍女でも、厨房のお手伝いでも、何でもいいので、何かお仕事をさせていただけるとありがたいのだけれど。ここで生活していかなければならないし。


今の私は、一文無しだ。


彼のお屋敷に着くと、その大きさに気を失いそうになった。


何これ。どんな貴族様なのかしら?

このお屋敷なら、使用人の寮とかもありそうね。

そこに、住み込みでって、お願いしてみよう。

屋敷の中に入ると、ホテルのスイートルームかって程の部屋に通される。

いや、テレビとかでしか、見たことはないよ?


「そこに掛けて」

「はい…」


促されるまま、ソファに腰掛ける。

その座り心地の良さに、跳びはねそうになった。


「あ、あの…契約書とか作っていただけたりしますでしょうか?」

「え?」

「ここで、働く上で、色々、条件と言いますか…」


クリフォード様は、目をパチパチとさせている。

その様子に、私は首を傾げた。


あれ?私を雇ってくれる訳ではない?


「雇っていただける訳ではない…のでしょうか?」

「雇う?私が…貴女を?」

「ええ。…でも、もしそういうつもりではなかったのなら、申し訳ないのですが…私は、先程もお話ししました通り、身寄りもありませんし、行く当てもありません。ですから、こちらで雇っていただきたいのですが、お願い出来ないでしょうか?」


クリフォード様は、顎に手を置き、言った。


「私にそのつもりはない」

「えっと…それは、私を雇うつもりはないという事でしょうか?」

「ええ。そうです」


じゃあ、何故、私はここに連れてこられたの?


怪訝な顔をしてしまったのだろう。

クリフォード様は、私の顔を見ると目を丸くした。


「私は貴女を客人として考えております」

「え?」


この身寄りのない、みすぼらしい姿のおばさんを?

どう考えたら、客人になるのか?


「この部屋を自由にお使いください」

「…え?」


いやいや。おかしいでしょ?色々と。

急に拾ったおばさんに、スイートルーム提供って。

一体、どんな物語よ?御都合主義な夢だわ。


「あ、あの…私はお金も着替えも何一つ持っていなくて…だから、仕事を探して、暮らしていくために生活の基盤を作らないといけないのですが…ここでのお仕事がないのなら、何かご紹介していただけないでしょうか?」


クリフォード様は、考え込んだ。

当てを探してくれているのだろうか?

確かに、ここまで来るのに、たくさんの使用人の方がいた。しかも、皆、揃いも揃って、スタイル良く見目麗しいのだ。この世界には、整っていない人間などいないのではないか?

だから、こんなちびっこくて、平凡なおばさんは、雇えないのだろう。自分のところでさえも雇えない程の人材を、他の人に紹介するというのもしづらいに違いない。

何だか、申し訳なくなった。


「暫く、時間をいただいても?」

「ええ!もちろんです!宜しくお願いいたします」


ソファからガバッと立ち上がって、お辞儀をする。

クリフォード様は、少しだけ驚いた顔をしていた。


ごめんなさい。勢い良すぎました…反省。

お淑やかにします…なるべく。


「あの…クリフォード様」

「アリオン、と」

「へ?」

「アリオンと呼んでください」

「アリオン…様?」


彼は、満足そうに微笑むと、私を見た。


「貴女のお名前を伺っておりませんでした」

「あ!はい。私は、『ユイ』と申します」

「ユイ」

「はい。クリ……アリオン様」


返事をしたのと、同時に、ぐぅと、私のお腹が音を立てる。…夢でもお腹が減るの?


私は顔を真っ赤にさせ、彼は笑いを堪えるように、口元を手で覆った。


「…失礼。すぐに、軽食を用意させよう。その後、湯浴みの用意も」

「あ、ありがとうございます」

「良ければ、晩餐を一緒にいかがですか」

「宜しいのですか?」

「もちろんです」


はぁ~イケメンが、性格良いはずないなんて考えてすみませんでした…いるのね、そういう人も。

まぁ御都合主義の夢の中だからかもしれないけど。


アリオン様は、晩餐の約束を取り付けると、部屋を出ていった。


暫くして、運ばれてきたサンドイッチを頬張ると、侍女と思わしき方々に、湯船に連れていかれる。


ひぃ。誰かにごしごしされるなんて、初めてだよ!

一人で入れるから!と、言ったけど、聞いて貰えなかった。髪は、美容室の様にしゃかしゃかされて…これ気持ちが良いんだよね…夢なのに?


あれよ、あれよと、ピカピカに磨き上げられた。

結婚式の前日の様だったな…

そういえば、あれ以来、エステなんて行ってない。

自分にかけてる時間も、お金も、なかったな…

今さらだけど。


やっぱり、夢の中なのかな?

それとも…私は死んだのか?

神様は、死ぬ前に、ご褒美をくれたのかしら?

そのまま死んだんじゃ、未練タラタラで、成仏出来ない不穏な魂になってしまうのでは…とでも思ったのかな?


(いず)れにしても、普通では出来ない経験と自由な機会をいただいたのだから、後悔のないように、生きてみよう。夢ならどうか、醒めないで。


それにしても…制服、スーツ、礼服以外でスカートなんて履いたことのない私が、ここでは、スカートを履いているのですよ。

足は出ておらず、床スレスレ丈で長いのだけれど。

着なれていなくて、戸惑うばかり…


晩餐の時間になり、アリオン様と顔を合わせたら、驚いたような顔をされた。やっぱり、スカートは、似合わないわよね…気まずい。


「あ、アリオン様。色々、ご用意いただいて本当にありがとうございます」


そういうと、彼は小さく首を振った。


「大したことではありません。何か、ご不便はありませんか?」


私は、大きく首を振った。

これ以上、望むものなど、ありません!

至れり尽くせりですよ…


「それは、良かった」


にっこり微笑む彼は、今まで見たこともないほどの美しい顔をしている。人間って、本当に美しいものを見ると緊張するんだね。知らなかった。


戸惑う私に、怪訝な顔に変わった彼は様子を伺う。


「どうかなさいましたか?お口に合いませんか?」


彼は、心配そうに聞く。私は、ぶんぶん首を振る。


「とても美味しいです…あの、アリオン様」

「何でしょう?」

「何故、見ず知らずの私に、こんなに、親切にしてくださるのですか?」


彼は一瞬、目を見開いて、驚いたような顔をした。

次の瞬間、顔をみるみる赤くしていく。


え?何それ?

勘違いとか、自惚れとかじゃなければ…

そういう顔、知ってるよ?


「えっと…アリオン様は、おいくつなのですか?」


話を変えてみよう。

追及するのは、お互いに良くない。


「32になります」

「え?あの…もっとお若く見えますね!」


おお、25~6だと思ってた。イケメンだからね~。


「では、ご結婚されていらっしゃいますよね?奥様とか、お子様は、お屋敷にいらっしゃらないのですか?」


周囲に、キーンと冷えた空気が漂う。

おっと…聞いてはいけないことだったのかな。

…マズイ。


「結婚していません」

「そ…そうなのですね。素敵な方なのに」

「…そう、思われますか?」

「ええ。とてもご親切でお優しいですし。何よりもイケメ…いえ、見目麗しいではないですか」

「ユイ。貴女も、そう思っているのですか?」

「えっ?ええ、もちろん」


何で、そんなこと聞くんだろう?

そう言われるのが、嫌なのかな?


「さぞかし、引く手あまたなのでは?…それとも、良いご縁に恵まれないのでしょうか?」


この世界は、綺麗な人が多いから、選びきれないのかな?家格に釣り合うお相手がいないとか?

この世界の事は、分からん。


「良い縁に恵まれて来なかったのは確かですね」

「そうなのですね。ご縁があると、良いですね」


彼は、眉間に皺を寄せた。

あれ?また私、やらかしたかな?

気に触ることを言ってしまっただろうか?


何だか、こういう腹の探り合いみたいなの、本当、久しぶりすぎて…こんなに難しかったっけ?

もし、これが夢なら寝て起きれば、また現実世界に戻るのだから…ま、いっか。




~・~・~・~




夢じゃなかった…


翌朝、気持ち良く目覚めると、昨日、眠りについたふっかふかのベッドの上だった。


侍女さんが、起こしに来て、着替えをさせて、髪を整えて、薄くお化粧して。まるでお人形の様だ。


整え終わると、鏡越しに微笑んで『こちらです』と促されるまま、部屋を出る。

昨夜とは違う部屋から良い香りがする。

その部屋に入ると、豪華な朝食が並べられていた。

向かいには、アリオン様が、微笑んで座っている。


「おはよう、ユイ。よく眠れましたか?」

「おはようございます。アリオン様。お陰様で快適に眠ることが出来ました。本当に何とお礼をすれば良いか…」

「それならば、私から一つ、お願いをしても?」

「それは、もちろんです!私に出来る事であれば、何なりと!」


ご恩をお返し出来るなら、是非とも!

少し前のめりになっていたかもしれない。

その様子に、アリオン様は、クスリと笑った。


年甲斐もなく、落ち着きを失くした事に赤面した。


「では。ここでの食事は、出来る限り、私と一緒にとっていただけますか?」

「え?」


そんなことでいいの?


「嫌でしょうか…?」

「いえいえ!そんな事で宜しいのですか?」

「はい」


キラキラ輝く笑顔を向ける。


「もちろん、それは、喜んで…」


何か、お願いというお願いじゃないよね…

むしろ、ご飯タダで食べさせて貰ってる。

美味しい話には、裏があるって言うけど…


はっ!毒味係か?それなら、あり得る!


一人で納得していると、目の前のアリオン様の顔が暗く曇っている。


え?また私、何かした?


「あの?アリオン様?いかがなさいましたか?」

「無理に頷かせてしまいましたか?」

「え?」

「全ての食事を一緒に…なんて、嫌でしょう?」

「いえ!そんな事はありません。毒味役ですよね!大丈夫です!お受けします!」


私が勢い良く言い過ぎた事に、また吃驚したのか、ぽかんと口を開けている。

そんな姿さえも、様になる。

イケメンって、凄いね!


「ユイ」


低い声で呼ばれ、私の方が驚いた。

視線を上げて、彼と目が合うと、その瞳の中に怒りを感じた。


怒ってる…何で?


「私は、貴女に毒味をして欲しい訳でははい」

「え…」

「ただ、貴女とこうして、食事をとりたかっただけなのです」


ふぅと、一息吐くと、顔を緩めた。


「ずっと、一人だったのです」

「え?」

「ここで。ずっと一人で食事をしていました」


こんな広い空間で、一人?…ずっと?


「自分の立てる食器の音。食事の音。この部屋にはそれしか響きません」


あ…そうか。彼は、一人なんだ。


「昨日、貴女とした食事は、とても美味しかった。そして、楽しかった。誰かとする食事が、こんなに美味しいものだということを、初めて、知ることが出来ました」


だから、家族の話をした時、凍りついたんだ。

私は…何て酷いことをしてしまったのだろう。

自分が当たり前だと思っていた事が、彼にとっては当たり前ではなかったんだ。

私が、煩わしく思っていたものは、彼にとっては、手に入れたくても、そう簡単には手に入らないものだったんだ。


「ごめんなさい。私でよろしかったら、是非、一緒にお食事をさせてください」

「でも…嫌なのでは?」

「いいえ。嫌だった訳ではなくて…無償で、食事を一緒になんて、私にとって良いだけのお願いだったので…ですから、是非、何か、私にお仕事をさせてください!…見つけてくださるのですよね?」


そう言うと、アリオン様は、目を泳がせた。


あれ?探してくれる訳ではないの?


「厚かましいお願いで大変、申し訳ないのですが…何もせずに置いていただく訳には参りませんので。そんなに、この辺りでは、職に就くことは、難しいのでしょうか?それとも…やはり、私自身の問題でしょうか?」


年齢制限とか、容姿とか?

この世界では、アウトなのかもしれない。

心優しいアリオン様だから、私に直接、そんな事を言うのは躊躇いがあるのだろう。

本当に申し訳ない。


「では…この屋敷の手伝いをしていただいても?」

「え!本当ですか!?ありがとうございます!」


よし!就職が決まった!!


でも、アリオン様は、難しい顔をしている。

やっぱり、無理矢理過ぎたのかな…我が儘言って、困らせてしまった。…幾つだよ?私。





それから、私は、せっせと働いた。

何故か主に、アリオン様の執務室での仕事が多いのだけれど。それも、あまり大した仕事ではない。

お給金に見合っていない気がする。

ちょっと、貰いすぎでは?

この国の貨幣価値がイマイチ分からないけど。


買い物も、アリオン様が一緒に来るし。

ほとんど払っちゃうし。

カフェとかに入っても、やっぱり付いてくるし。

払っちゃうし。私、お金使ってないんだよね?

貨幣価値が分かる訳がない。


「あの…アリオン様」

「何ですか?ユイ」

「今日は一人で出掛けたいのですが」

「一人では危ないよ?侍女達だって、護衛をつけるのに」

「では、護衛をつけてください」

「私が護衛ですよ」

「えーっと…そうですか」


ニコニコ笑っている眉目秀麗な顔が眩しい。

これは…なかなか手強い。


今度、出掛ける時は、アリオン様が王城にお仕事に行っている時にしよう。

アリオン様は一日置きくらいで王城に行っている。

以前は、ほぼ毎日行っていたらしいが、最近はそうしなくても良くなったそうだ。


しかも、昼食には、必ず帰ってくる。

一緒に食事をするために。約束は守る男だ。

だから、出掛けるのは、お昼前か、後か。

時間を気にせずに行くなら、断然、午後!


でも、おかしいんだよね?

アリオン様が、王城に行く日に、私がお休みになる日はないのだ。どういうことかな?たまたま?


今度のお休みは、直前でお願いしてみよう。

アリオン様がいない時に、執事のハリソンさんに、許可を得て。



アリオン様が王城でのお勤めの日。

お昼休みで帰ってきたアリオン様と、中庭で昼食をとる。綺麗に咲き誇る花から良い香りが風に乗り、吹き抜ける。とても気持ちがいい。


「私、この季節が一番好きかもしれません」

「花は、心を穏やかにしてくれますからね」


にっこりと微笑むアリオン様は、今日も優雅だ。

食後にカモミールティーが出てくると、つい、顔が綻んでしまう。


「ユイはカモミールティーがお気に入りですか?」

「はい。お茶なら基本的に何でも好きですが、香りの強いアールグレイやカモミールは特に好きです」

「そうですか…覚えておきますね」

「?」


私の好みを覚えても何にも使えないと思うけど…

アリオン様は『時間か…』と呟くと、名残惜しそうに王城へと戻っていった。




私は、ハリソンさんを探した。


「ハリソンさん」

「ユイ様。お呼びでしょうか?」

「あの…午後、お休みを貰っても良いですか?」

「どうかなさいましたか?御体調でも悪くされたのでしょうか?」


慌てて心配するハリソンさんに、申し訳なくなる。


「違うんです。アリオン様には内緒で、出掛けたいのです。いつもアリオン様が一緒なので…たまには一人で、ゆっくり見て回りたいのです。…最近は、何処に何があるかも分かる様になりましたし」


ハリソンさんが、驚いた顔をした。

私、そんなに驚く様なこと、言ったかな?

普通の事だよね?…あ、治安の問題とか?

護衛つけなきゃいけないからかな?

私ごときに、屋敷の護衛を、勝手につける訳には、いかないよね?


「護衛なら、大丈夫です!私なんかにつける必要はありませんから!」


にっこり笑って、ハリソンさんに『では、お願いしますね』と言って、出掛ける準備に取り掛かった。


屋敷の門を出ると、アリオン様がいた。

その顔は、怒っている様に見える。


「アリオン様…何でここに?」

「ユイ。何故、一人で出掛けようとするのです?」

「え…あの、そんなに悪いことですか?」

「一人では、危険だと言ったでしょう?」

「それは聞きましたけど…今まで、特に危険な事はなかったですよね?」

「私が貴女の側にいたからですよ!」


うっわぁ…すっごく怒ってる…

怖いよ、アリオン様。


ビクリとする私に気が付き、アリオン様は、ハッと息を吸った。


「すまない…でも、ユイに何かあったらと思うと…恐ろしくて…」

「そんな…心配しすぎです。私、いい歳ですし」

「関係ない。失いたくないんですよ」

「え?」


そんな大袈裟な…って、これは…まさか。


「一目見た時から、ずっと。貴女を愛しています」


おっと。

さらりと言いましたね…さすが、イケメン。

断られた事なんて、きっと、ないんだろうな。

でも、結婚はしてないんだよね…

あ、今は結婚していないけど、過去にはあるとか?

それなら、納得だな。


「えっと…お断りしても…?」

「え…?何故?分かるように教えてください!」

「あの…どうして、私の事をそんなに簡単に愛せるのです?私の事、全然、知らないのに」

「あの森の中で、一目惚れしたのです」

「それこそ、何で?この国の方々は、皆さん、見目麗しくて、いらっしゃるのに。私なんか、足元にも及ばない…」

「何を言っているのです?貴女の、その髪の色も、瞳の色も、小さな身体も、そのすべてが初めてで。とても可愛らしい。他の誰にも渡したくない。他の誰かの目に映す事さえも躊躇う程に」

「重っ…」

「えっ!あ、いや…そのくらい愛おしいって事で」


私は、はぁとため息を吐くと、項垂れるアリオン様に向かって言った。


「私の事を全てお話しします。それを聞いても気持ちが変わらないのであれば、私も真剣に考えます」


アリオン様は、力強く頷いた。


「始めに…私は、この世界の者ではありません」

「その髪の色、瞳の色、顔立ち、体つきで、異国の方だとは分かっていましたが、世界まで違っていたとは…思いませんでした」

「そして、年齢は、42歳です」

「えっ!私は、年下だとばかり…」

「私の世界の種族の中で、私の人種は幼くみられる傾向がある様です。だから、無理もありません」


私はその中でも、特にそういう家系だろう。

パート先の学生に、タメ口で話しかけられた時は、さすがに引いたけど。


「ですが、ここからが重要です」


アリオン様は、息をのむ。


「元の世界に、夫と子どもがいます。だから、純潔ではないし、既婚者です」


アリオン様は、目を伏せた。


ここまで言えば、分かってくれるだろう。

年増で他人の妻など、望まないだろうし。

よしよし。

今までここで、稼がせて貰ったお金を使って、

スローライフっていうのを、経験出来るかな?


「話は、それで終わりですか?」

「え?あ、はい…」

「構いません」

「へ?」


今、何て?


「構わないと言いました」

「あの?」

「貴女がこの世界にいる限り、この世界では、未婚だし、夫も、子どもも、存在していません」


うん。まぁ、確かに。


「でも、年齢的にも問題では?こんな大きな家柄であれば、跡継ぎとか必要でしょうし」

「ありません」

「え?」

「必要ありません。私に必要なのは貴女だけです」

「何故?」

「愛しているからです」

「いや…愛は冷めますよ?一時の感情に流されてはいけません」


そんなにキッパリ言い切るな!

愛なんて幻想だよ!

若いからそんなこと言えるんだ。

そんなもの、消えてなくなってしまう。

私は、経験した!


「そんなこと、絶対にないです」

「私は経験したので、間違いないです」

「では、ユイは夫と上手くいっていなかったの?」

「……まぁ…そうですね。既にお互い、愛は冷めていたと思います」


正直、関係もなくなってたし。


アリオン様の口元が緩む。


「では、こうしましょう。もしも、私が貴女を愛さなくなった時は、莫大な慰謝料をお支払し、離縁に応じます。それは、もちろん、貴女が私からの愛を感じなくなったらで構いません」

「そんなの、私に有利でしかありませんが…」

「構いませんよ」


にっこり笑うと、今度は顔を赤らめて、気まずそうに言った。


「あの…先程の話で…純潔ではないと言っていましたが…その…どのくらい経験がおありですか?」

「え?ええっと…関係を持ったのは夫だけですが」

「そうですか…」


何故かホッとしているアリオン様。


「それならば、なお、問題ないですね」


何故?


私が首を傾げていると、微笑んだ。


「未亡人や後妻みたいなものではないですか」

「!!」


ほぅ。そういう見方が出来るのか!

おっと。折角、怠惰な生活から足を洗おうと思っていたのに。アリオン様の元にいたら、抜け出せなくなるではないか!私に怠け者になれと?


その後は、もう、気持ちが露呈して、たがが外れたアリオン様からの猛攻撃を受けまくり、溺愛され、甘やかされ、絆され、怠惰生活まっしぐら。


半年後には、奥様となりました。


アリオンは、宣言通り、一途に愛してくれました。

毎日愛を囁き、触れ合い、大切にしてくれました。


驚くことに、すぐに懐妊し、43歳にして男の子が。

そして、45歳で女の子が誕生しました。

人手がある子育ては、驚くほど快適で、奥様の怠惰な生活には拍車がかかりました。


二人は、子どもが誕生しても仲睦まじく、それは、孫が生まれても変わらず、お互いが、永遠の眠りにつくまで、愛し、愛され続けました。




御都合主義の怠惰な奥様は、永遠に愛する夢の中。





ご覧いただき、ありがとうございます!

ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。


アリオン視点の短編が出来ました!

『溺愛思考に目醒めた孤独な貴族様は、異世界の奥様を怠惰に堕とす。』


☆宜しくお願いいたします☆

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