エルピーダメモリの回
転換社債型新株予約権付社債(CB)とは
「転換社債型新株予約権付社債」は、発行時に決められた値段(転換価額といいます)で株式に転換することができる債券です。債券の発行後に株式に転換するか、株式に転換せずに利金や償還金を受け取るかをお客さまご自身で選択できます。株式と債券の二つの特徴をあわせ持つ商品です。
魅力1 毎年決まった利息が受け取れます。(ゼロクーポンを除く)
魅力2 満期まで保有すれば額面金額が戻ってきます。
魅力3 CBの取得価格が額面以下の場合、満期には償還差益が得られます。
「株式に転換できる」魅力
ポイント1 CB発行の際に決められた価格(転換価額)で株式に転換することができます。そのため、株価が上昇すればCB自身の値上がりも期待できます。
ポイント2 株価が下落し始めるとCBの時価も下落する傾向にありますが、ある一定の水準で下がりにくくなります。これは満期に額面金額で償還される債券としての価値が下支えするからです。
大和証券HPより
株式投資をしていて、投資先の会社が破綻したらどうなると思う? そう。正解は「紙切れになる」だ。現在は、保管振替機構で電子化されて記録されているので、厳密な意味での紙切れにはならないが、昔は株券そのものが有価証券として流通しており、株券の裏に株主移動が記載されていた。本当に紙の株券が出回っていたんだ。投資先の会社が破綻……、すなわち倒産をすれば、その文字通りなんの価値もない紙切れになった。ちなみに、保管振替機構の略称は「ほふり」だ。
紙の株券が廃止され「株券電子化」に移行するタイミングは、証券会社としてはとんでもないイベントであった。「わざと」か「しょうがなく」かは分からないが、大量の株券を保有しているご家庭が実際に多くあったからだ。そのままでは株券電子化に伴い、株主としての権利は損なわないものの、特別口座では株式の売却・担保設定等の取引はできなくなる。そのため、自宅の金庫やタンスに仕舞われていた株券をお預かりさせていただく事で、証券会社としては口座開設をしていただき、預かり残高が増える。顧客としては、取引が可能になり、その後の煩雑な手続きからは解放される。まさにWIN-WINの一大イベントであった。実際に私も数千万円の時価がある株券を預かり、黒い鞄に詰め込んで震えながら車で持ち帰った記憶がある。その家は田舎も田舎で、片道2時間もかかる僻地であった。田舎だからこそ、都心部にある証券会社での手続きを面倒くさがって放置していたんだろうけどね。お金持ちだから、数千万円もの株を放置できんだね。私ならすぐに、めっちゃ遠くても手続きしに行っちゃうね。
話題がそれたので、話を進めると、会社に投資をする「株」だけでなく、会社にお金を貸してあげる「債券」も、その会社が破綻すれば紙切れになる。今回は債券の仲間である「転換社債」でやらかした話。
エルピーダメモリという企業をご存じだろうか。記憶保持動作が必要な随時読み出し書き込みメモリーであるDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)の開発・設計から製造・販売まで一貫して行う、国内唯一の専業メーカーであった。DRAM事業は韓国のサムスン電子、ハイニックス半導体に次ぎ、世界第3位のシェアを占めていた。当時は世界3位と日経新聞などにも大々的に記事が出ていたことを思い出す。ただ、エルピーダメモリは2009年に改正された産活法(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法)の適用を受け、日本政策投資銀行が300億円の増資を引き受けるなど公的資金の注入や、市中銀行など含め1000億円を上回る出資を受けて再建を図った。が、資金繰りの悪化から12年に経営破綻した。そう、破綻したんですよ。
エルピーダメモリが破綻する前、証券取引市場には、エルピーダメモリの転換社債の売買がされていた。あと1年後、1年半後に満期を迎える、エルピーダメモリの転換社債が、50円とか55円ほどで売買されていたんだ。ピンとこないかもしれないが、満期になれば100円で還ってくる。50円で買ったものが、100円で還ってくるんだ……、発行体さえ潰れていなければ。
当時の日本の株価は完全なる低迷期。2011年から2012年にかけての日経平均は9000円前後で推移していた。信じられる? 4桁の日経平均なんて、今の30000円の株価を見てしまった人からすれば、ありえないくらいの株価である。非常に厳しい時代だった。そんな、どうしようもない暗黒時代で、利益を揚げるには(この揚げるはね、証券会社の手数料は水揚げとも呼ばれていて、水商売とか、そういう風な刹那的な商売ともされていた時代もあった名残のある呼び方)なにか大きなチャンスを狙わないといけない。
そんな環境下で、目を付けたのが、ここまで説明をしているエルピーダメモリの転換社債である。
もちろん、私も世間一般の認識と同様に、エルピーダメモリの経営が芳しくないのは理解していた。経営不安や、業績不安、それこそ経営破綻リスクがあったからこそ、転換社債の価格が大きく下落しており、安いまま買える状況にあった。ただ、ほんの1年だけ頑張ってもらえれば、投資金額はほぼ倍になる。ほんの1年だけ粘っていただければ、投資成果はほぼ倍になる。その魅力の方が勝ってしまったんだ。
公的資金が投入されている世界第3位の会社が、まさか破綻すると思いますか? まあ……、破綻したんだけどさ。
今から思えば、2010年に日本航空(JAL)も破綻したんだ。大量の個人投資家を巻き込んで、上場廃止になったんだよね。このときも日航がそんな事にはならないとの漠然とした甘さがあった。日航が破綻……。これも、ちょっと驚きでしょ? 今、会社はあるもんね、JAL。だけど、一度破綻して、当時の株の価値は「紙切れ」になり、会社として会社更生計画なんかも提出し、やり直して、みんなが知っている今現在の姿に戻ったんだよね。企業に歴史あり。
エルピーダメモリの破綻が可能性がないわけではなかった。今から思えば、そう思える。詰めが甘かったでは済まない。大きなマイナスを計上してしまった。
投資先は慎重に決めましょう。お金を失くした後からでは遅いんだよね。
今回は、しみったれた反省回。