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刺されそうになったの回


刺し傷とは鋭いものが刺さってできるキズです。 原因には先の尖った包丁、ナイフ、針、釘、アイスピック、箸、鉛筆、木の枝、竹などの鋭いものが刺さってできるキズです。 傷口は小さいですが、キズが深いことが特徴です。 キズができた時に、刺さったものの一部が折れると異物として体の中に残ります。


刺し傷・異物 - 日本創傷外科学会より



 尊敬できる上司が、昔話を聞かせてくれたことがあった。その人は×がついていて、今はすでに再婚をして子供もいた。


「実はさ、昔、刺されそうになったことがあってな」

「彼女がな。包丁を構えてな。こう、こんな風に。結構マジだったんじゃないかな?」

「お前そういう経験ある?」


「いえ、無いです」


「刺されそうになったら何を考えると思う?」


「まったく想像つかないです。怖いとか痛そう以外に思うことあるんですか?」


「俺らは朝早いじゃん?」

「アポが入ってたり、やることいっぱいだろ?」

「明日の仕事をどうしようかってしか考えてなかった」


 てな件があったわけ。そんな話を聞いて、そういう話を聞いたことすら忘れていたある時の話。私には彼女がいたんだ。5歳くらい年上の彼女が。私はまだ20代の前半でも、彼女は当然後半戦なわけで。こちらは将来を意識しなくても、あちらはしちゃう訳で。


 彼女は、傍目には色々と焦っている感じはしなかった。それでも、「30までには……」みたいな話を彼女がしてので「まあね、そう思う気持ちは良くわかるよ」と十分理解はしていた。私はちゃんと「この人と結婚とかもあるのかな?」と、付き合いたての頃は思っていたこともある。


 しかし、この彼女の性格は苛烈で、今だかつて、これほどまでに衝突というかケンカになった女性はいない。とにかく気が強い。嫉妬がすごい。かなり束縛気味。気持ちの波がすげえの。口癖のように「生理前だから」とは言ってた。今ならわかるよ、自分じゃどうしようもない気持ちの爆発なんだってね。本当にしょうがない、気持ちの荒ぶりなのかも知れない。ただ、当時の若い私にはちゃんと理解してあげることは、無理だった。


 例えば、キャバクラのお姉さんから営業メールなんかを頂くことってあるじゃないですか?「来てよ」みたいな。もう、そんなん見つかったら大変よ。携帯のメールをすべて閲覧。キャバ嬢との関係性を問い詰められた挙句に、そのキャバクラに乗り込むわけ。私を連れて。すごくね?


「2度と誘わないでください」

「ちょっかいかけないでください」


 てな感じ。でさ、ケンカや修羅場や気に入らないことがある時は、こっちが折れるまで、こっちが認めるまで寝かせてくれないのよ。まじで最悪。それが原因で徹夜したことは何度もあったね。それでもこちらが折れないと、パソコンを壊されたり、首を締められたりもした。一度言われた言葉で、忘れられないものがある


「この街にいられないようにしてやるからな」


 おいおい、ヤ〇ザかよ。もうね、こうもケンカばかりだと疲れるし、この人とは先は無いなと感じて、別れたくなるわけです。そして、こちらは別れるタイミングを図るターンに入る。なるべく理由をつくって会わないように。会えないように。


 たまたまだけど、その頃に彼女は転職をして、さらに、どんな気持ちの変化か、犬を飼い始めたんだよね。法律関係の仕事に就いて、コリーと戯れて、楽しそうにしていた。新しい仕事とペットの方にかなり意識が向き始め、彼女の方からも「忙しい、忙しい」と言って会う頻度が減った。そして、連絡も毎日しなくなっていた。「このまま自然消滅しないかな」と学生みたいなノリで思ってもいた。


 ああ、なんて自由なんだ。古いけど、とあるお笑い芸人を真似たくなった。


「自由だーっ!!」


 そんな時に、後輩から頼まれた事があった。


「僕の部屋に、いま、彼女がいるんですけど家まで送ってあげてくれません?」


 はっ?だよね。今思い出しても意味不明なお願いではあるが、思い返すと、確か二股してたのか、別れた元彼女に突撃されたのか、そんな、女絡みのかなり複雑な事情か何かがあって、しぶしぶ了承したことは覚えている。しかも、本人は何か用事があって、この街には今いないとか抜かしやがるし……後日、いじるネタの為に先輩がしゃあなしで動きますよっと。


「どうせ暇だったし、まあいっか」


 そんなノリで後輩の彼女を迎えに行く。無事に合流し、車に乗せて、その子の家まで向かう途中、


「ご飯食べません?」


「ん? いいんだけどさ。後輩のこととか……色々と大丈夫なの?」


「大丈夫です。お腹すいちゃって」


 そんな感じで、有名なラーメン屋に行き奢ってあげた。なんでこんなことになっているのかも、もはや不明だが、そんなこんなで、当初の予定よりも長く後輩の彼女と過ごしていると、私の彼女から着信がきた。


 ねえ、なんなの?最近は連絡を取りあうことも減ってきたのに、このタイミングで電話くるとか……エスパーなの?鬼なの?魔物なの?とりあえず出ない。聞こえないふり。鳴りやまない。寝てるふり。やっと鳴り止んだ。で、メール来た。『なぜ家にいない?』ふう、怖い。まじで怖い。


 色々とあったが、後輩の彼女を降ろして帰宅。自宅アパートに帰り、玄関を開けると、彼女が仁王立ちですよ。


「何してた?」


 この質問に、この時になんて返答したのかが覚えていない。正直にあったことを伝えたのか、ごまかしたのかすら覚えていない。ただ、案の定、信じたのか信じてもらえなかったのか記憶にはないが揉めたんだよね。大揉めですよ。そうなると思ってた。そのころには、もう別れるつもりでいたので、このタイミングで言ってしまった。


「もう別れよう」


 そしたらさ、そしたら、急に玄関に走っていったと思ったら、包丁を持ってくるんだ。声が出ねえ。私に、両手で持った包丁を向けるんだ。声が出ねえ。「あなたを刺して、自分も死ぬ」声が出ねえ。頭の中は意外と冷静だった


「明日、仕事に行けるかな?」


 この命の危機をどうやって切り抜けたのかは記憶にない。ただ、彼女があの後に言ったセリフは覚えてる。


「冗談だったのに……本気だと思った?」


 嘘つけ。


 その彼女とは、その後、数ヶ月は続いたけど、彼女が仕事とペットに割く時間がさらに増えて、メールも電話も無い期間が1か月ほど続いたタイミングで、


「この状況で、付き合っているのはおかしくない?」

「俺たち、もう別れた方がいいよね?」


 と切り出したら、すんなりと別れが成立した。ガッツポーズがでたね。無意識で。


 別れてしばらくしてから、この元彼女と空港ではち合わせしたり……この元彼女がアポ無しで家に突撃してきて、いきなり長々と昔話を始めたのは……また別のお話。


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