女は友情!異論は認める
「この間ね、スーウェル伯爵令嬢が“突然お呼びたてして申し訳ございません”って、告白してくれたんだよ」
ギルベルト殿下は、さらりと爆弾を連続投下なさった。かたまるわたしをよそに、さらさらぽいぽいドカドカどんどん、と。
『大切な友人に勇気を貰いました。あれほど、他人の為に頑張ろうとされる彼女を見たとき、今まで私は何も行動を起こさず、ただただ受け身でいるばかりだったと気づかされたのです』
チェーリアさまはそう笑って、素直にはっきりとギルベルト殿下へ想いを伝えていたという。
待って、待ってほしい。
…………その友人、イズ、どなたさま??
す、少なくともわたしじゃない。だって、チェーリアさまはわたしと違って他にもたくさんご友人いらっしゃるもの。
きっと、わたしじゃ頼りにならな過ぎて、他のしっかりしたご令嬢に相談したんだわ。そうよ、絶対そう。
って、呑気に考察している場合じゃない!
だってだって、今頃チェーリアさまは…!
「彼女には悪いがきちんと断った。私には好きな女性がいるから、と。彼女は納得してくれたよ。……そのとき、すぐに見抜かれてしまったけれど、私ってそんなにわかりやす……イザベラ?」
わたしが立ち上がったのを、不思議そうに見上げられるギルベルト殿下。わたしは彼の方へもう一度深く頭を下げる。
「無礼を重ね重ね申し訳ございません、殿下。わたくし、急用が出来ましたのでこれで失礼いたしま」
「待って!」
慌てられた様子のギルベルト殿下に手首を掴まれた。わたしは思わず振り返る。
このシーンだけでも乙女ゲームっぽい(というか何度もいうがこの世界乙女ゲーム!)が、わたしは乙女ゲームをしている場合ではないのだ。
「殿下っ、お離しくださいませ!」
「貴女こそ、いきなりどうしたんだ? 私を置いて何処へ?」
「もちろんチェーリアさまの元へです!」
わたしはつくづくばかな女だった。
最近、チェーリアさまがわたしと何やらお話をしたそうにしていたというのに、わたしはくそ坊ちゃんをどうやってわたしの婚約者にしてチェーリアさまから解放させるか、それにばっかりかかりきりで。
彼女は、ひとりで失恋の悲しみに耐えていたんだわ。はじめての恋にはじめての失恋。なにもかも、チェーリアさまにとっては、とてもとても大事なことなのに。わたしは、気付かず疎かにしてしまったのだ。
「大事な友人の失恋に駆けつけないなんて、そんなこと、わたくし自身が許せませんから!」
チェーリアさまに会いたい、彼女に迷惑がられてもいい。わたしが、彼女をちからいっぱい抱きしめたいのだ。
ギルベルト殿下の黒い瞳がひどく揺れていた。驚きなのか、王族のご自身ではなく、ただひとりの伯爵令嬢を選んだわたしに衝撃を受けていらっしゃるのか。
どちらにせよ、わたしは初めから無礼のオンパレードだったのだ。この程度、今更という話である。
絶対に離さないとばかりに掴まれた手が、ぱっと離れた。
「……ああ。私は、今度こそ正真正銘振られてしまったのか」
う、なんて悲しそうな顔をされるの! いやそうさせてるのはわたしなんですが!
ああああ、最推しが傷付くのはみたくないけれど、このままチェーリアさまのところに行かない自分が解釈違い過ぎて腹立つから無理!
「でんっ」
「構わない。行っておいで、イザベラ」
殿下は、悲しげでも優しく微笑まれた。わたしが何か声をかけるのは、失礼だ。
唇を噛み締めて深く深く礼をする。それからは、振り返らず部屋を出た。
何故か扉に張り付いていたお父様お母様ラルスミモザにかなり驚かれたが、それどころじゃない。
「ラルス、馬車! 超特急でチェーリアさまのところへ行くわ!」