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ケーキ食べたい(ロマンシス?)

作者: 飛鳥井作太
掲載日:2021/08/15


 ダダダダダダッ ダダダダッ ダダダッ ダッ

 定期的に続いていたミシン音が止んだと思ったら。

「ものぐさな人間でもケーキって作れんもんだろか」

 ぽつりと聞こえたそんな言葉。

「突然何を言い出すかと思ったら」

 美琴は、ビジューを縫い付けていた手を止め、胡乱な目でそちらを見やった。

「納期は明日なんですよ。それより手を動かして下さい!」

「でもお腹空いたんだもーん。甘いものが食べたいんだもーん」

 だれーんと椅子にもたれかかり、彩夏さいかが甘えた声で言う。

「カ○リーメイトで我慢して下さい!」

「飽きたんだよ~。で、この仕事終わらせたところで、もうケーキ屋なんてやってないだろうし」

 二人の仕事は、鞄を始めとした小物づくりだ。

 馴染みの雑貨屋に納品することもあれば、今回の仕事のように、何処かの雑誌や番組とコラボしたものを作ることもある。

 こういう余所との仕事は、〆切も量もシビアなことが多いのだが、その分、良い宣伝にもなる。

 だから、キツくても基本的に引き受けているのだが。

「~~~~わかりましたよ」

 今回は相当厳しかったらしく、彩夏が品を作り終わるより先に我儘を言い出すようになった。

 やれ本格的なココアが飲みたいだの、コンビニやスーパーのじゃないざるそばが食べたいだの。

 挙句、ケーキと来たもんだ。

 うるさい、と黙らせることも出来るのだが、美琴にとって、彩夏は大事な仕事の相方でもあり、尊敬する先輩でもある。

 面倒くさいと思う反面、願いを叶えたい、とも思うのだ。

「ちょっとま、台所を使わせて貰いますね」

「マジで!? 出来るの!?」

「あなたはそのまま手を動かして下さい!!」

 買い置きしておいた菓子や冷蔵庫に残るあれそれから、一つ作れるスイーツを思い出した。

「レシピは、あとで教えますから」

「わーい!!」

 喜ぶ彩夏の顔を見て、納期前であるという焦りが一瞬だけ消え去った。


 十五分後。

「出来ました。あとは数時間、冷蔵庫で冷やすだけです」

「おおー!」

「じゃ、その数時間、がんばって仕上げちゃいますか!」

「ラストスパートですね!」


 *


「出来たー!!」

「はい、お疲れ様でした」

 数時間後。

 無事、頼まれた品がすべて完成した。

 二人でハイタッチをして、早速、お楽しみタイムを始める。

「……ケーキだ!?」

「はい。ハー○ストにクリームチーズをはさんだ、チーズミルフィーユもどきです」

 いそいそと美琴が台所から持って来たのは、先ほど作った簡単ケーキ。

 彩夏の目には、キラキラ輝く高級スイーツにも見えた。

「いっただっきまーす!」

 二人そろって、フォークを刺した。

 元の菓子からは考えられないくらい、すっくりとフォークが入る。

「ふわわ……しっとりしてて……でもサクサク感もちょっと残ってて、塩気と甘みがすっごく合ってる……んま……」

「もう少し冷やしたらもっとしっとりするらしいんですけど、私はこれくらいの方が好みです」

「確かに、私もこれがちょうどいいかも」

 口の中で、チーズの酸味と元の菓子の濃い甘さが程好くからまり、甘美なハーモニーを描く。

 生地は、しっとりとしているのに歯を立てると最後にサクサク感が残り、ミルフィーユのようでありながら、タルトの香ばしさをも楽しめた。

「えへへ……流石みっちゃんだね!」

 彩夏が、満足そうに息を吐いて言った。

「仕事も早いし、ケーキも作れる! 自慢のアシスタントだよ~」

 満面の笑みと、誇らしげな眼差し。

 心から、そう思ってくれている。

 それがわかって、美琴の頬は熱い。

「褒めたって、何も出ませんからね!」

「ふふふ。じゃあ今度、本当にケーキ食べに行こうねぇ」

 私が奢るからね、という彩夏に、絶対ですよと美琴が言った。

 二人でおでかけ。

 その約束が嬉しくて、美琴は笑みを堪えきれず、そっと口元を手で覆った。


 END.


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