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14話 魔女様は叱られる

視点は再びシルヴィに戻ります!

一体彼女に何があったのでしょうか……

「本当に、申し訳ありません……」


『申し訳ないで済まされると思うたか、このたわけ!!』


 鬼の形相で怒鳴りつけられ、ただでさえ正座させられて小さくなっている体が、さらに委縮してしまいます。

 私の体の揺れに合わせて、首から下げられた『反省中』と書かれた看板が揺れました。


『時間は守れぬ! ウィズナビには出ない! 使いも連絡もよこさん! その上、自分は遊んでいたじゃと!? 何様のつもりじゃ!!』


「ま、まぁまぁ。シルヴィちゃんだって好きで遊んでた訳じゃなかったんだし……」


『貴様は引っ込んでおれ!! 余計な口を挟むな!!』


「はいぃ!!」


 私を庇おうとしてくださったフローリア様に矛先が向けられ、あのフローリア様が敬語で返事をしながらレナさんの背へと逃げ帰っていきました。すみません、私を庇おうとして頂いたばっかりに……。


 そこへ、隣で同じように正座させられている男性――ゲイルさんがおずおずと発言します。


「あのー、この件は俺が全面的に悪いんで、あまりシルヴィを叱らないでやっていただけると……」


『どの口が偉そうに言うか!! 貴様が妾に口を利く権利なぞ無いわ! 一生そこで黙っていろ!!』


「ひぇっ……」


 シリア様の怒りは収まることを知らず、今回の原因であったゲイルさんにも怒鳴り始めました。


『何を他人事のような顔をしておるシルヴィ! お主がしでかしたことじゃぞ!? 分かっておるのか!?』


「は、はい……。それはもちろん、理解しています……」


『ならば、どのような経緯で事が起こり、自分はどうすべきであったか改めて申してみよ!』


 私はシリア様へ、事の顛末を改めて説明し直すことにします。

 あれは、レイラさんが捕まって敵対するかと思われたところからでした……。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 ゲームをしようと言った魔族の男性は、近くの席に改めて座り直し、対面に座るように促してきます。

 彼の指示に従わなくてはいけないのがやや不快ですが、変に刺激してレイラさんを傷付けられたくは無いので大人しく席に着くと、彼は両手を顔の前で組みながら笑いかけてきました。


「そう警戒しなくても、お前が俺とゲームをしている間は手は出さねぇよ」


 その証拠にと言わんばかりに、突然レイラさんを解放しました。当の本人は何故解放されたのか分からない顔をしながらも、その場を離れて後方で見守っていた皆さんの元へと逃げ込みました。


 これで、一番の懸念点は消えたことになります。ですが、正直なところ彼が何を考えているのか全く分かりません。私がこのタイミングを見計らって逃げ出したり、チョーカーを外そうとすることは考えなかったのでしょうか。


「別にお前が何か動くとは思ってねぇよ。お前、考えてること顔に出過ぎだろ」


 彼の言葉に、思わず顔を隠そうと両手で覆うと、「冗談だ」と笑われてしまいました。


「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はゲイル。あいつらが働いていた街の領主で、魔族だ」


 なんとなく予想は出来ていましたが、やはりこの人が街の領主だったようです。

 しかし、ペルラさん達の話では「優しくてちょっとお兄さんみたいな人」と慕っている感じでしたが、これまでの立ち振る舞いや言動から、とても皆さんを庇護するような人には思えない気がしてなりません。


 疑問がどんどんと膨らんでいきますが、それ以上にゲイルさんが取り出したものが私には理解が出来ませんでした。


「さて、それじゃ始めるとするか。ゲームの内容はこれだ」


「チェス……ですか?」


「あぁ。ルールは分かるよな?」


「え、えぇ。一応は」


 塔の中にもありましたし、魔法の研究で疲れた時に一人で二役をしながら遊んだこともあります。

 ですが、てっきり危ない何かを持ち出されると思っていたので、少し拍子抜けしてしまった感じが否めません。


「なんだ? お前、チェス嫌いなのか?」


「いえ、別に好きでも嫌いでもありません」


「そうか。俺はチェスが大好きでなぁ、こういう勝負事には必ず使うんだ」


「そうですか……」


「おら、お前もぼんやりしてねぇでさっさと並べろ。先行はくれてやる」


 彼の言葉に頷き、駒を並べ終えた私の手番からゲームが始まります。例えチェスであっても、これは私達の体がベットされている賭け事。集中して取り組まないと……。





「クイーンをここへ置いて、チェックメイトです」


「んなっ……!?」


 結論から言うと、ゲイルさんは少し……いえ、かなり弱い人でした。

 ポーンを始め、ルークやナイトの扱いが非常に雑で、初めはわざと囮として使っているのかと警戒していましたが、どうも深く考えていらっしゃらなかったようで、こちらの被害があまり出ないままチェックメイトとなっています。


 とりあえず、無事にゲームに勝つことが出来てほっと一息吐くと、私を指さしながらゲイルさんが言い放ちました。


「あ、あり得ねぇ! 今のはナシだ、次で決めるぞ!!」


「えっ!? それはお話と違います!」


「うるせぇ! 今のは俺も酒が入ってたから調子が出なかっただけだ! ……おいレイラ! 水を持ってこい!」


 無茶苦茶な! と言いたくなりましたが、確かにお酒を飲んだ後は正しい思考ができなくなると本で読んだことを思い出し、仕方なくもう一戦やり直すことにします。

 レイラさんから水を受け取ったゲイルさんはぐいっと飲み干し、再び駒を再配置し始めました。


「いいか? 何事も模擬戦っていうのが重要なんだ。今のでお前の手の内は読めた。わりぃがお前はもう勝てねぇよ」


「は、はぁ……。では、今度はゲイルさんから先行でどうぞ」


「ほーう? 随分と余裕じゃねぇかよ。いいぜ、その判断を後で泣いても知らねぇからな!」


 …………。


「ナイトをここへ。チェックメイトです」


「なっ、な、な、な、なぁ!?」


 結果は全く変わりませんでした。勇ましく始めたまでは良かったのですが、やはり突撃しかしてこないので搦め手に弱く、あっという間にゲイルさんのキングが私の駒に包囲されています。


「今度こそ私の勝ちでいいですよね?」


「……はぁ!? んな訳ねぇだろ!!」


 彼は荒々しく言い捨てると、突然チェス盤を片付け始めました。そして今度はオセロ盤を取り出し、指を立てながら宣言します。


「チェスはあくまでお遊びだ。変に緊張されたままゲームに挑んで、調子が出なかったとか言われたくねぇからな!」


「調子が出ないと仰っていたのはご自身では……」


「うるせぇ! 本番はここからだ! コイツで俺に勝てたらお前ら全員見逃してやるよ!!」


 な、なんと横暴な方なのでしょう……! これはもしかしたら、ゲイルさんが勝つまでやらされるのかもしれません。ですが、彼が勝つということは私達が連れていかれると言うことになりますので、私は負けられない以上、終わりが見えない気がしてきました。


 深く溜息を吐きながら、壁に掛けてある時計に視線を送ると、まもなく夕飯時になろうとしています。

 あまり遅くなるとシリア様を怒らせてしまいかねませんし、今度こそ終わりにしていただきましょう。


「行くぜ、俺の先行だ!!」


 …………。


「白が五十五、黒が九。私の勝ちです」


「…………。ま、まだ負けてねぇ!! チェスでも言っただろうが! 今のは模擬戦だ!」


「あの、申し訳ないのですがそろそろ帰らないと……」


「あぁ!? 逃げんのかよ!? いいぜ、お前が逃げるってんなら不戦勝でお前ら全員連れ帰るけどな!」


 やはりそうなりますよね。なんだか、ひどく疲れた気分になってきます………。


「分かりました。ではゲイルさんの気が済むまでゲームを続けましょう。ですが、先に連絡だけしてきてもいいでしょうか」


「何言ってんだお前? 勝負中に席を立つとか許されるわけがねぇだろうが」


「そうですか……」


「おら、さっさと次の勝負を始めっぞ!」


 盤面を片付け始めた彼を見ながら、シリア様へ申し訳なさでいっぱいになります。

 私はいつになったら解放していただけるのでしょう……。





 その後も彼は負け続け、負ける度に別のゲームを取り出して勝負を継続させようとしてきました。


 ある時は棒状の積み木を、一本ずつ抜いていくゲームだったり。


「へっ、これを抜けば次のお前の番で――あっ、待ってくれ、嘘だろ待て待て待て、あーー!!」


 またある時は陣取りゲームだったり。


「おい! もう俺が取れる土地ねぇじゃねぇかよ!! くそ、次だ次!!」


 色々と付き合わされ、最終的にすごろくになり。


「ゲイルさん、それはずるいです! そんなことされたら困ります!」


「困らせるためにやってんだよ! おら、さっさと四百万払いやがれ! さもねぇと借金手形押し付けんぞ!」


「分かりました、払います……。うぅ……」


 しばらく私が不利な状況が続き、内心焦り始めた私がはしたなく声を上げてしまったりしました。


「よーし、これでお前の会社を全部買い取って、借金まみれにしてやるぜ……!」


「あぁ!? やめてください! それだけは、それだけは!!」


「へっへっへ……! そら、たんまり受け取りな!!」


「嫌です! 嫌ぁ!!」


「いい気味だぜ。おら、サボってねぇで動け!」


「酷いです……こんなのって、あんまりです…………。ぐすん」


 しかし、運の女神様は私を見捨てないでくださり、ゴール付近であるマスに止まると。


「『全てのプレイヤーは、資産を全て右隣のプレイヤーと入れ替える』。あ、では私の借金全部お譲りしますね」


「はああああ!? それはねぇよ! ふざけんな! あとちょっとで俺の勝ちだったのによおおおお!!」


 絶叫するゲイルさんから資産を奪い取ることに成功し、ゴールに向けてサイコロを振ろうとした時、突然入口のドアが蹴破られ、レナさんが現れたのでした。

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[一言] なんだこの優しい世界は……好き♪
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