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940話 ご先祖様は容赦しない 【シリア視点】

 魔女同士の戦いに限らんが、戦とは先に手の内を晒した方が敗れる。

 それはこの場においても同じことを言えるのじゃが、最強格のカウンター魔法を持っているシルヴィにおいては真逆じゃろう。

 さらに言うなれば、今のあ奴は【制約】も外れ、攻撃すらも可能となっておる。

 妾の魔法を見て学び、会得させる時間を与えれば与えるほど、こちらが不利になろうと言う物よ。


 故に、速攻を仕掛ける必要があるのじゃが――。


「ハイドロ・シェリング!!」


「ディヴァイン・シールド!!」


 妾が生み出した水の砲弾は、シルヴィの盾によって全て防がれた。

 そのお返しにと、シルヴィは全く同じものを妾に打ち込んでくる。


 これが、一番厄介なんじゃよなぁ。

 如何に高火力の魔法を叩きこもうとも、あ奴の盾の前では大半が無意味となる。

 攻撃を防ぎ、威力を確かめ、魔法を解析し、己が物とする。いつの間にそんな芸当を覚えたのかは分からんが、とにかくやりづらいことこの上ない。


 シルヴィから放たれたものを、杖を振るって霧散させ、次の一手を考える。

 あ奴が苦手としていたものの中のひとつとしては、レナのような速さがある。

 シルヴィ自身も悪くはない反射神経を持ってはいたが、それを上回られると必ずどこかで綻び、隙を見せていた。


 次点で、エルフォニアが好む絡め手か。

 死角、環境、その全てを用いて確実に仕留めに来るエルフォニアは、妾の知る中でも最上位と言ってもいいほどの精密な魔力操作の使い手じゃった。

 直前まで魔力反応を消し、時には己が身を削ってでも討とうとするあの戦い方に、シルヴィは苦戦しておったな。


 ふむ……。よし、まずは速度と手数で攻めるとするか。

 妾は魔法陣を展開し、ゴーレムを作り出すことにした。


「出でよ、我が僕! 旋風の刃、ツインエッジ・ガスト!!」


『……ニャ』


 魔法陣から現れた、短剣を逆手に二本構えた猫に、攻撃の指示を出す。

 冒険者で言うところのシーフを模したその猫は、瞬時に姿を消し、シルヴィの背後に回り込んでいた。


「早い!!」


 じゃが、流石はシルヴィと言ったところか。

 散々レナやエルフォニアに背後を取られ続けていたこともあってか、初手に背後を取ってくる相手への対策も完璧であった。


 さてさて、次はちと嫌な手を使うとするか。

 雷属性の魔力を励起し、十分に魔力が高まったところで杖先をシルヴィに向ける。


「ボルテック・アロー!!」


 妾の背後から、複数の雷の矢がシルヴィへと襲い掛かる。

 それに対し、素早く猫の攻撃を大きく弾き返した後に、正面に盾を向けて受けようとしていた。

 うむうむ、良い判断じゃ。妾が相手でなければの。


「――ファンタズム」


 妾の放つ魔法に、光の加護を付与する。

 それと同時に、新たに射出された雷の矢が射線上で姿を消した。


「えっ!? ――きゃああ!?」


「消えたと思ったか? 消えたのではない、目で捉えられなくしたのじゃ」


 守りを固める間もなく盾に攻撃を受けたシルヴィが、大きく体勢を崩した。

 すかさず、シーフを模した猫が追撃に入る。


 じゃが、シルヴィはその場に自分のみが収まる防護陣を敷くことで、その難を逃れて見せた。


「逃げて守るだけで良いのか? その程度では、到底妾を討つことなぞ敵わんぞ? ほれ、次じゃ」


 続けて、土属性の魔力を励起してシルヴィの足元に杖先を向ける。


「メルトアース」


 妾の詠唱に応じ、シルヴィの足元の床がドロドロと溶け始めていく。

 突然足場が沈み始めたことに焦りを覚えたシルヴィは、手元で何かを作り出すと、それを妾の方へと鋭く投擲してきた。


 ……ほぅ。あの戦いのことも記憶しているのか。


 瞬時に妾の傍へと転移してきたシルヴィは、至近距離で炎弾を撃ち込もうとして来た。

 それと同等の火力で炎弾を作り出し、意図的に魔力爆発を引き起こして距離を取る。


「悪くない判断じゃ。じゃが、些か攻め手に欠けすぎじゃな」


「ならば、これはどうでしょうか!? ――出でよ、勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


 シルヴィは床に杖の柄を強く突き、黄金色の魔法陣を展開させ始める。

 くふふ! 手数には手数をと言ったところか。愚策じゃな。


「土塊よ、瓦解せよ」


 召喚され始めていた猫達が、妾の一言で崩れ落ちていく。

 驚愕に目を剥くシルヴィに、妾はこの上なく底意地の悪い笑みを向けてやった。


「妾を誰だと思っておる? 土属性においては、妾を超える者なぞおらんぞ?」


「くっ……!!」


 魔力のみを消費させられ、悔しさに歯噛みするシルヴィへ、妾の猫が次は無いと言わんばかりに連撃を仕掛けていく。

 辛うじて防げているシルヴィじゃが、到底攻撃に回ることはできなさそうじゃった。


 どれ、ちと煽ってさらに力を引き出させてやるかの。


「はぁ~、くだらん……。この程度で苦戦するような小娘が、世界で一番強い魔女になったじゃと? 笑わせるで無い。まだソラリアが生み出した、偽の貴様の方が骨があったぞ? 今の貴様なぞ、茶菓子を食らいながらの片手間でも相手してやれるわ」


 妾の煽り文句に、シルヴィがキッと睨みつけてくる。

 よいよい、もっと怒るがいい。感情は時に、強大な力となる。

 理性的な戦い方では、妾に敵わぬと知れ。本能のままに戦え。妾へ殺意を抱け。


「この程度の実力で、妾を傷付けるなどとのたまったのじゃ。神を愚弄したことを悔いながら、この塔と共に沈むがよい……。やれ、ガスト」


 さながら悪役かの如く、意地の悪い顔を浮かべる。

 さらに速度を上げた妾の猫の攻撃を防ぎきれず、鋭い蹴りがシルヴィの腹を穿った。


「かはっ……!!」


 ゴロゴロと転がっていくシルヴィに、妾の猫がゆっくりと歩を進めて追い詰めていく。

 そして、シルヴィの首筋にその短剣を添えようとした瞬間――猫の姿が徐々に土色へと変化していき、砂となって崩れ落ちていった。


 ……くふふ! やはり追い詰められてからが本番と言うのは、妾と同じか! これぞ血じゃのぅ!


 シルヴィは荒い息を整えながら、杖を頼りに立ち上がる。

 苦し気な顔ではあるが、その目は煌々と紅く輝いておった。


「まだやろうと言うのか。貴様も存外、負けず嫌いじゃのぅ」


「はぁ、はぁ……。私が、シリア様を超える魔女だって、知っていただかなくては、いけませんので……!」


「妾を超える、か。口では何とでも言えよう。ならば、その覚悟をこの【魔の女神】シリア=グランディアに示してみよ!!」


 さぁて、二回戦の幕開けじゃ。

 あ奴がどのように神力を織り交ぜてくるかが、楽しみじゃのぅ!

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