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938話 ご先祖様は覚悟を決める 【シリア視点】

 偽の妾との戦闘を終え、消耗した神力を回復するのも兼ねて少し休息していたが、誰かが上がって来る気配は無かった。

 これはちと、他の階の様子を見に行くべきか? と、階下への扉を押し開くと。


「あぁ~!? いたいた、探したわよシリア!!」


「フローリアか。他の者はどうした」


 壁に手を当て、やけに疲れ切っている阿呆の姿を見つけた。

 今の今まで、シルヴィや他の者を前に神の権能を見せておらん妾達が、あ奴の認識の妾達に苦戦するはずもないのじゃが……と小首を捻り、階下へと降りていくと、フローリアはその場にずるりとへたり込み始めた。


「はぁ~! もう無理、疲れた! シリア、あれ頂戴あれ!」


「それは構わんが、何をそんなに疲弊しておる? 羽目でも外し過ぎたのか?」


 栄養ドリンクをくれてやると、フローリアは嬉々としてその蓋を開け、一気に喉に流し込んでいく。


「……ぷはぁ!! あぁ~、沁みるぅ! あのね、私って一番最初に戦うことになってたじゃない? あの後、大神様に許可してもらってた権能を使ってサクッと倒したはいいんだけど、ちょ~っと久しぶり過ぎて力の配分間違えちゃった☆」


「何をしておるのじゃ、この阿呆は……。ほれ、背中を見せよ」


 フローリアの背を手のひらでなぞり、核を調べる。

 すると、フローリアの言う通り、力加減を誤ったせいで出力口に傷が入っていることがすぐに分かった。


「ほんに情けの無い奴じゃのぅ。人から神になった妾ならともかく、お主はハナから神じゃろうが」


「あぁ~、気持ちいい~……。それはそうなんだけど、レナちゃん達がやばいかも~って思ったら焦っちゃって。あ、そうだわシリア! レナちゃんで思い出した!」


「今度は何じゃ」


「レナちゃんとメイナードくんが死んじゃいそうなの!!」


「……何じゃと?」


 先を促すと、フローリアは下の階で起きていたことを話し始めた。

 まず、レナとメイナード、そしてエルフォニアが重体であること。

 エミリとティファニーもそれなりに負傷し、目を覚ましていないこと。

 だが、全員が己の偽物に打ち勝ってはいたこと。

 その全員を塔の外へと連れ出し、今はセリを始めとした支援部隊に診てもらっていること。


 どれも、その可能性を危惧はしていたが、何とも最悪のパターンを踏んだと思わざるを得んものであった。


「――ってことがあって、今戦えるのは私達だけなの」


「そうか……。特に腹を貫かれたメイナードの安否が気になるところじゃが、後はセリらに任せるとしよう。大神様も、妾には先に進めと仰っていたのじゃろう?」


「うん。戦える者だけで進みなさいって。もうあんまり時間は無いみたい」


「ならば行くしかあるまい。レナ達の力が欠けている今、妾達も力の出し惜しみなぞしてはいられんからな」


「そうね~。一番は戦わなくて済むことなんだけど、たぶんそうは言ってられないもんね」


「シルヴィがどれだけ、妾達を本気で拒んでいようとも、妾達はあ奴を連れ戻すだけじゃ。あ奴には孤独は似合わんからな。……ほれ、終わったぞ」


「ありがとうシリア! んん~……! よし、絶好調ね!!」


 フローリアは立ち上がると、ぐぐっと体を大きく伸ばした。

 それに倣って妾も立ち上がり、小さく息を吐く。


「……のぅ、フローリアよ」


「なぁに?」


 能天気に笑顔を向けて来る阿呆を見て、妾は口に出そうとしていたものを飲み込んだ。

 じゃが、奴はその様子から何かを悟ったらしく、苦笑気味に問いかけてくる。


「全部が終わった後、私達はどうなるのか。でしょ?」


「……うむ」


「そんなの、いなくなるに決まってるじゃない」


 さも当然のように答えるフローリアに、妾は押し黙る。


 そう。この歪められた世界を元に戻すには、大神様の権能が必須となる。

 じゃが、その権能を行使するには、世界を構築した全ての権能が必要となる。


 それ即ち、妾達に与えられた権能を全て回収しなけらばならないと言う事であり、神と言う存在を己の中に取り込むということでもある。


「お主は、躊躇いが無いのじゃな」


「それはそうよ~。だって私、神様だもん」


「レナと離れることが、辛くは無いのか?」


「辛いわよ? でも、世界が無くなっちゃったらレナちゃんもいなくなっちゃう。そうなるくらいなら、私達が大神様の中に帰るほうがいいに決まってるじゃない」


 さも当然のように答えるフローリアに、妾は思い知らされる。

 妾は人を辞め、神になったつもりでありながら、まだ人であることを捨てきれていなかったのだと。


 故に大神様は、妾には細かなことを教えようとしなかったのだと。


 簡単なことながら、妾がずっと気付けなかったことに、我ながら呆れてしまう。

 何が【魔の女神】じゃ。何が神祖じゃ。何が、グランディアを守護する神じゃ。

 子孫の生きる世界を守るために、存在すらも投げ打てず、世界の神なぞ名乗れようか。


「……すまんなフローリア。おかげで覚悟が決まった」


「ふふっ♪ 私も消えたくはないけど、いざって時に躊躇わないようにしておかないとね」


「うむ。では、行くとするかの」


「まずはシルヴィちゃんを助けること。それだけに集中しましょ」


 互いに頷きあい、階段を上がっていく。

 シルヴィの待つ、最上階へと――。

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