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935話 異世界人は終わらせる・前編 【レナ視点】

『小娘、左だ』


「了解!」


 メイナードが短く指示を出し、それに従って左側へと動く。

 すると、あたしの移動に合わせるかのように、メイナードの攻撃を受けた偽のあたしが逃げ込んできた。


「はああああああああっ!!」


 その背中を強く蹴り飛ばし、反対側のメイナードがさらに弾き返し、再びあたしが殴り飛ばす。

 一対一ではかなりの苦戦を強いてきていた偽のあたしは、今やキャッチボールの球のように扱われていた。


 それでもまだまだ、気を抜くことができなくて。


『ガアアッ!!!』


「いっ……たいじゃないの!!」


 ダメージを回復に転換させようと、無理やりな攻撃をしてくる偽のあたしは、さらに暴走を加速させていた。

 理性なんてほとんどない、本能剥き出しの戦い方だから、読みやすいと言えば読みやすいんだけど、不意に変な動きをしてくるせいでそれなりに戦いにくい。


 ぶっちゃけてしまえば、メイナードがいなかったら手負いのあたしなんて瞬殺されててもおかしくない。

 はっきりとそう言えるくらいには、偽のあたしは危険だった。


『後ろに跳べ』


 今度は後ろね、了解。

 少し後ろに跳んだあたしに、偽のあたしを突き飛ばしてパスをしてくるメイナードは、まるでダンスのエスコートをしているかのようにも感じられる。

 これだけしっかり合わせてくれて、戦いやすく立ち回ってくれてるのを見ると、やっぱりコイツはあたしなんかよりもめちゃくちゃ強いんだって思わされる。


 普段どれだけ手加減されていたかを噛みしめながら偽のあたしに猛攻を仕掛け、メイナードと共に高速で駆けてかく乱していると、偽のあたしが咆哮を上げた。

 それに応じるように、周囲で舞い踊っていた黒い桜の花びらが渦を巻き、あたし達を本体に近づけさせないようにし始める。


「どうするのメイナード」


『どうも何も』


 メイナードはいつもの燐光を自分の下へと引き寄せると、ひときわ大きく翼を打った。

 その風圧はやがて暴風のように偽のあたしへと襲い掛かり、渦を巻いていた桜を全て吹き飛ばしていく。


『我にとっては、何の障害にもならん』


「……ホント無茶苦茶だわ、あんた」


『これが格の差と言う物だ。せいぜい精進するがいい』


「はいはい、分かりましたよっと!」


 防御する暇も与えないように、あたし達は再び攻勢に出る。

 ニ対一。さらに空と地上からの攻撃に挟まれている偽のあたしは、着実に動きを鈍らせている。

 あと少し。もう一押しで押し切れるはず。そう考えていると、偽のあたしがメイナードの攻撃に対して強引なカウンターを取った。

 鋭い爪を自分の腕に食い込ませながらも、メイナードの翼を掴んで地面に叩きつける。そのまま拳で追撃を仕掛けようとしたところを、あたしが割り込んでその手を蹴り弾く。


 体勢が崩れた胴を狙ってパンチを撃ち込み、大きく後退した隙に、あたし達は同じように距離を取った。


『……ひとつ、貸しができたな』


「あたしの貸しは高くつくわよ?」


『ふん、良いだろう』


 少し楽し気に目を細めたメイナードは、話は終わりだと言わんばかりに羽ばたき、突撃していく。

 あたしもそれに倣い、痛む左足を誤魔化しながら攻撃を仕掛ける。

 だけど、ちゃんとした治癒魔法ではなかったことによる影響は、すぐに出てきてしまった。


 偽のあたしの攻撃を躱して着地しようとした瞬間、あたしの左足が限界を迎えたらしく、ガクンと膝から崩れ落ちた。

 それを見逃してもらえるはずも無く、即座にあたしの顔を目掛けて回し蹴りが繰り出される。


「っぐぅ!!!」


 咄嗟に右腕でガードできたはいいけど、踏ん張りが効かなくなっていたあたしの体は、勢いよく壁まで吹き飛ばされた。

 激しく壁に叩きつけられ、血と共に咳き込みながら体を起こすと、メイナードがこっちに近づけさせないようにと、無理な立ち回りをしてくれているのが見えた。


 ホント、カッコつけてくれちゃって……。と苦笑しながら立ち上がるも、やっぱりあたしの左足はもう自力で立つことも難しいくらい、酷く腫れ上がっていた。さらに言えば、さっきの一撃で右腕もかなり痛い。もしかしたら、こっちも折れちゃってるのかも。


 そこへ、偽のあたしを吹き飛ばして距離を取ったメイナードが横に並びたち、小声で聞いてくる。


『まだ動けるか』


「ギリ、あとちょっとってところかな……。もう、さっきまでみたいな動きは出来なさそう」


『そうか。だが、向こうはまだまだやれるようだな』


 メイナードの言う通り、偽のあたしはよろよろとはしているけど、黒の桜が激しく舞い踊っているあたり、なんなら降り注げ、墨染の夜桜ナイトブロッサム・レインを打ってきそうな気配すらある。

 いつもならともかく、この状態で打たれたら間違いなく防ぎきれなくてやられるわ。


 どう戦おうか迷っていると、一人で何かを納得したかのように頷いたメイナードが口を開いた。


『小娘。お前のあの蹴りは打てそうか?』


「どうだろ……。右足が使えるから何とかなるかもしれないけど、最大火力は無理だし、溜める時間も無いから……」


『それで構わん。残ってる全ての力を使ってでも打て。その時間は我が稼いでやる』


 メイナードはそう言うと、いつもの燐光を何倍にも増加させて、部屋に充満させ始める。


『その代わり、だ。この先、我に何があろうとも攻撃の手を緩めるな。必ずアレを倒す、ただそれだけに全ての意識を集中させろ。いいな?』


「え、うん……。分かった」


 あたしが頷くと、メイナードは翼をはためかせて攻撃を仕掛けに行った。

 よく分からないけど、囮になってくれるってことでいいのよね。

 だったらあたしは、今できる全てを、次の一撃に込めて戦うだけ。


 残された魔力を高めて桜の花弁に変換しながら、ゆっくりと場所を変える。

 なるべく死角で、かつ一番火力が出やすい位置……。たぶんここだわ。


 程よく離れ、偽のあたしの背後を確実に取れる場所を陣取ったあたしは、いつでも行けるという合図を込めて、最後に魔力を爆発させた。

 あたしを中心に激しく渦巻きだす桜吹雪を感じ取った偽のあたしが、即座にこっちに向かって来た。


『シルヴィに……近づくナァ!!!』


 高く飛び上がり、必殺の蹴りの構えに入ったあたしに、一瞬理性が戻った偽のあたしが吠える。

 その右手に荒れ狂っていた黒い桜吹雪をまとめ上げ、大きく振りかぶったそれを、メイナードが割って入り止めてくれた。


 だけど、その止め方にあたしは目を剥き、一瞬魔力の集中を解きそうになった。



 だって、自分の体を貫かせて止めるだなんて、思いもしなかったから。

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