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932話 異世界人は前を向く 【レナ視点】

今回から数話、フローリアが駆けつけるちょっと前のお話になります。

 容赦なく顔面を狙って来る右ストレートを、上半身を逸らすことで躱す。

 数本の髪と桜が舞い散る中、体勢を立て直したあたしは、同じように顔面を狙って攻撃を仕掛ける。


『だんだん狙いが雑になって来てるじゃない。もうスタミナ切れ?』


「……まさか! そんな訳ないでしょ!」


 その挑発に乗るかのように、速度を上げて連撃を仕掛けてみるけど、どの攻撃もしっかりと弾かれてしまう。

 その上、防御に回ったと思わせてカウンターを狙って来るあたり、やりにくいことこの上ない。


 ……あたしって、こんなに戦いづらい戦い方してたんだ。


 改めて自分を見つめ直させられると同時に、これを無傷で防ぎ続けていたシルヴィを感心せざるを得ない。

 まぁシルヴィの場合は避けるじゃなくて防ぐだから、またちょっと違うのかもだけど。


「おっと」


 そんなことを考えていると、カウンターで足元を狙われた。

 鋭く繰り出された足払いを跳んで避け、一旦距離を置く。

 小さく息を入れて構えなおすあたしに、偽のあたしは言葉を投げかけて来た。


『なんかあんた、今までと動きが違うわ。あたしが知らない動きをしてる』


「へぇ、良く気づいたわね」


『自分のことだもの。で、何なのその動き』


「当ててみなさい。あんたがあたしなら、この正体が分かるはずよ」


 あたしの言葉でイラついたのか、偽のあたしから黒いモヤが出始めた。

 そろそろ切り替えタイミングってとこかしらね。

 次第に偽のあたしの全身を覆っていきながら、黒い桜を舞い散らせ始めるのに合わせ、あたし自身も魔力を反転させていく。


『いいわ。どのみち、あんたを通さないのがあたしの役目なんだし、ぶっ飛ばして吐かせてあげる』


「上等よ。やれるものならやってみなさいよ」


「「憎悪に舞え、墨染ノ桜!!」」


 部屋全体に黒い桜吹雪が広がっていき、それが落ち着いた頃には、あたし達の姿は黒い神衣に変わっていた。

 あたし達は同時に床を蹴り、再び交戦を始める。

 拳同士、膝同士、ほぼ同じ動きでお互いの攻撃を防ぎ合い、攻め続けるあたし達の速度はどんどん早くなっていく。


『もっと、もっと早く!! 強く!!』


 偽のあたしがそう吠え、憎悪の深度をさらに深める。

 最初から全力で来るつもり!? と驚きつつも、それに合わせてあたしも深度を深める。


 それは次第に加速していき、何度も殴り合っては膠着し、再び深度を深めて殴り合っていく。

 だけど偽のあたしも、流石に深度五はマズイと理解しているのか、深度四からは深めようとはしてこなかった。


『あたしはシルヴィに救われた!! 居場所が無かったあたしに、居場所をくれたシルヴィに恩返しをしなきゃいけないの!!』


「そんなの分かってる!! だけど、シルヴィがあたし達を遠ざけたいって思ったから引き下がるだなんて、そんなの恩返しじゃないでしょ!?」


『シルヴィがそうしたいって思ったんだから、尊重してあげるのが友達でしょうが!!!』


 鋭い左フックを繰り出され、防げないと判断したあたしは、周囲の風の動きに合わせて体を動かす。

 必中の角度からの攻撃を躱された偽のあたしが驚き、一瞬動きが鈍ったところへ、鳩尾に膝蹴りを叩きこんだ。


『ごっ……!!』


 床の上を数回跳ねながら転がっていく姿を見ながら、あたしは言葉を返す。


「その考えが間違ってるとは言わない。あたし自身も、つい最近まではそうするべきだと思ってた。だけど、それじゃあ本当の友達だなんて言えないのよ!」


『げっほ、げほ……。じゃあ、あんたが思う友達って、何なのよ』


 その問いかけに、あたしは地球でおばあちゃんに言われたことを、自分なりの解釈で落とし込んだ答えで返した。


「自分がやりたいと思ったことを、はっきりと言える相手。それが間違っているのなら、正面から訂正してあげられる関係。そして、そのやりたいと思う気持ちを最大限応援してあげられる……それが、本当の友達と言う物よ」


『は……? 何言ってんのあんた。そんなの、あたしがやってることと何一つ変わらないじゃない』


「違うわ。あんたがやってることは、シルヴィの意見を尊重したと見せかけて、距離を置いて逃げてるだけよ」


『違う! あたしはシルヴィを思ってこうなることを選んだ!』


「じゃあ、その結果でシルヴィと二度と会えなくなってもいいって言う訳!? 違うでしょ!?」


 あたしの反論に、偽のあたしは苦しそうに顔を歪める。

 本心では分かってる。でも、それを認めてシルヴィに思いをぶつけた末に、拒絶されたくないからこうせざるを得なかった。

 あたしならそうしかねないから、その気持ちは手に取るようにわかる。実際、おばあちゃんたちに背中を押してもらえなかったら、あたしだってそうしてたと思う。


 だけど、今は違う。

 あたしはあたしのやりたいように、あたしのために生きていていいって分かったから!


「シルヴィと一緒に生きていきたいなら、あの子と向き合いなさいよ! 嫌われることを恐れて逃げるんじゃないわよ!! そんなこともできないで、何が友達よ! 何が家族よ!! ふざけんな!!」


『あたしだって、あたしだって!! うあああああああああああっ!!!』


 偽のあたしが感情を爆発させ、遂に憎悪の深度が五に到達する。

 それに合わせて、あたしも深度を五まで深める。


 ここから先は、時間との闘い。

 たった十五秒の間に、決着をつけるのよ!!

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