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930話 ご先祖様は制圧する 【シリア視点】

 例えば、【(とき)の女神】であるフローリア。

 あ奴の権能は、過去、未来、現在の時間全てに干渉することができる。

 遡ろうと思えば、世界の創生まで遡れる上に、時を越えようと思えば、この世が終わるその日まで飛ぶこともできる。


 ――そして、その力が一度(ひとたび)牙を剥けば、相対する者は指一本動かす間もなく地に臥すじゃろう。


 例えば、【空間の女神】であるコーレリア。

 空間そのものを司ると言う事は、世界の端から端までの空間を繋ぐこともできれば、異なる世界の空間をも繋ぐことができる。

 さらに言えば、空間そのものを消し去ることもできる。それが何を指し示すかと言うならば。


 ――あ奴がその気になれば、国どころか世界そのものを空間から排除することだって叶う。


 例えば、【運命の女神】であるスティア。

 運命を司ると言えば、もう何も言わずとも答えは出てこようと言う物じゃが、強いて言うならば、先の怒りが有頂天に達した妾を容易く組み伏せたように、その者の起こす未来を先読みして己の運命に落とし込むことができる。


 ――そして、運命とは不変のように見えて女神の気まぐれでもある。生かすも殺すも、奴の手の上と言う事じゃ。


 では、妾はどうかと問われると。


『【魔を司る女神】、か。大層な名ばかりと思いきや、とんでもない奥の手を隠しておったな』


 忌々しそうに睨みつける偽の妾に、あくどい笑みを浮かべてしまう。


 初級魔法のファイアーボールの威力を数十倍に引き上げることもできれば、火属性の極大魔法のひとつ……エスペラル・ニルヴァーナの威力を、デコピン以下にまで引き下げることもできる。

 その者の持つ魔力適性を引き上げることもできれば、一切の魔力適性を持たぬ赤子同様の存在にまで叩き落とすこともできる。


 ――そう。魔法にまつわる一切の支配権が、この手の中にある。


 これが神々という別格の存在であり、世界のバランスを容易く壊せる逸脱した力じゃ。

 故に、妾達はこの力を振るうことと、人前に姿を晒すことを原則禁じられておる。


「うむうむ。これほどまでに強力な力を前に、抗うことなぞ許されようも無い。これが神である妾と、まだ人である貴様との差じゃ。これほどまでに圧倒的な差を見せつけられ、常人であれば尻尾を巻いて逃げ出すところじゃが……」


 ゆっくりと印を刻みながら、妾はわざとらしく問いかける。


「シルヴィを守らねばならない手前、貴様にその選択肢を取ることは許されまい?」


『無論じゃ。して、勝手に敗北を決め付けられるのもまた、妾は認めん!!』


 火が使えんと分かった途端、今度は雷で攻めてくるか。

 妾であれば得意分野の土か風で搦め手を狙うが、如何せん焦りで判断が鈍っておるな。


 荒れ狂う紫電の全てを見ずにかき消しながら、妾は悠々と散歩をするかのように印を刻み続ける。


「そう。妾は常に諦めが悪い。極度の負けず嫌いでもある。故に、如何なる状況下であろうとも勝機を探すじゃろうよ。じゃがな」


 雷光に紛れて接近し、電光石火の一撃を仕掛けて来たそれを、霧となって受け流す。


「神の本気を前に勝機を見出そうなぞ、時間の無駄じゃ。……ほれ、貴様がムキになっている間に、妾の準備は整ってしまったぞ?」


『はっ、無駄じゃ!』


 偽の妾は、杖の柄を床に強く突き、声高々に詠唱をした。


『如何に神じゃろうと、仕込みの終わった術を反転されればひとたまりも無かろう!! ――リフォルト・ゼアー!!』


 その詠唱完了と共に、妾が仕掛けていた印が黒紫色に輝きだす。

 リフォルト・ゼアーか。シルヴィの切り札である、この“万象を捕らえ(アーレスト・)る戒めの槍(ジ・オール)”への唯一の対抗策であり、妾が制定しているカウンター魔法に対する唯一無二のカウンター返しの魔法でもある。

 流石は妾。これがテストならば百点満点をくれてやるところじゃ。


 ――じゃが、それはあくまでも魔女同士の戦いにおける回答じゃ。


 妾が神力を発動させると、反転しようとしていた印が赤い輝きを見せ始める。


『なんじゃと……!? こんなはずは!?』


「言ったであろう。神の本気を前に勝機を見出そうなぞ、時間の無駄じゃと。――強制(コンパルス)発動(・スペル)万象を捕らえ(アーレスト・)る戒めの槍(ジ・オール)


 偽の妾が放った魔法による干渉を無効化し、妾が仕込んでいた万象を捕らえ(アーレスト・)る戒めの槍(ジ・オール)が発動させた。

 シルヴィのとは異なる赤い光の柱が四隅から立ち昇り、そこから無数の鎖が伸び、偽の妾の自由を奪い取る。


『ぐっ、うぅ……!! 馬鹿な、これが神の力とでも言うのか!? こんなもの、覆せるはずがない!!』


「そうじゃよ。これが、人が一生をかけて極めても辿り着けぬ領域であり、神のみに行使が許されている絶対的な力じゃ」


 我ながら卑怯極まりないと思わなくも無いが、事が事なだけに、この塔に足を踏み入れた瞬間から大神様の許可が下りていたことに礼を言わねばなるまい。

 純粋な魔力勝負だけでは、妾に勝ち目は無かったのじゃからな。


「さて、これに囚われた者が抜け出すには唯一の手段しかない訳じゃが、ここで最後の試練をくれてやろう」


 底意地悪く笑みを浮かべる妾に、偽の妾の顔が引きつる。

 すまんな。これもまた、戦なのじゃよ。


 せっかく隆起させていた力を霧散させられまいと急ぐ姿に、死の宣告にも等しい呪詛を贈る。


「――汝を魔に見放されし魔女と断じる」

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