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929話 ご先祖様は神の片鱗を見せる 【シリア視点】

「……随分とご挨拶ではないか。のぅ、妾よ」


 撃ち込まれた炎弾をかき消し、消えゆく炎の隙間から術者を睨みつける。

 陽炎に滲むその姿は、紛れも無い妾その者であった。


『ご挨拶じゃと? この程度で挨拶になるとは、片腹痛い』


「はっ。魔法の出来を語ったのではない、礼儀作法について語ったのじゃ。この阿呆め」


 身を滑らせるように室内へ入った妾へ、偽の妾は鼻で笑う。


『魔女同士の礼儀作法なぞ、言葉を交わすよりも先に魔法を撃ちあう……。それが先達の慣わしだったじゃろうに』


「あれは一部の狂った魔女共の作法じゃ。現世でこんな挨拶をしてみよ、一発で狂人扱いをされるぞ?」


『くふふ! よもや、魔女は狂人ではないとでも? 己が出自を捨ててまで魔の道を究めようとする者の、どこが狂ってないと言うのじゃ』


「やれやれ、流石は妾じゃな。その歯に衣着せぬ物言い、嫌いでは無いぞ」


 ――とは言う物の、ちと妾に分が悪い戦いになるな。

 何せ、向こうは妾の全盛期の姿じゃ。杖、魔力、身体能力。その全てが最高峰のものであるのに対し、今の妾と来たら、杖はゆっくり作り上げる時間が無かったために急造品。魔力はこの魔力体に保存されているもののみ。身体能力はまぁ……同等じゃろう。


 とにかく、全盛期の妾に比べたらなんとか弱いものか。

 じゃが、妾とて尻尾を巻いて逃げる訳にもいかぬ。それに、妾には奥の手もあるからの。


「貴様も妾達をシルヴィから遠ざけるために生み出された偽物であろう。ならば妾に問うてみよ。妾の何が、あ奴の負担になっていたと言うのじゃ」


 その問いかけに、偽の妾は杖を振るう構えをし始めた。

 なるほどな。ただ言葉を交わすだけではつまらんということか。


『何が負担になっていたじゃと? くだらんとぼけ方をするで無いわ』


「とぼけたつもりなぞ毛頭無いのじゃがのぅ」


『ならば答えてやろうぞ。貴様の屍の上でな!!』


 炎弾、雷槍、氷の矢。多数の魔法を同時に放ってくるその腕を見て、妾は想像通りの脅威性に思わず口角が上がる。


 それも当然じゃろう。他の者の偽物は、まだシルヴィが見て来た範囲でしか再現されないと仮定しても、妾の偽物だけは別格じゃ。

 あ奴は、妾の過去を通して妾が振るって来た魔法の全てを見ておる。故に種類、威力、それも然ることながら、妾が同時に扱える多重詠唱の数までをも再現してきておるのじゃからな。

 だからこそ、あの妾は今のこの姿ではなく、全盛期の妾のそれを模しているのじゃろう。


 まさしく、本体を守護する最大にして最強の守り手と言ったところか。


 速度の速い雷槍を打ち消し、氷の矢を飛んで避けた先で、炎弾が再び妾を襲う。

 さて、ここで妾が取るべき行動じゃが、今のところは二択じゃ。

 ひとつは、二千年前の妾に格の差を見せつけるべく、対となる魔法で対抗すること。

 そしてもうひとつは、格も何もかもを度外視し、最小の消耗で突破すること。


 前者は魔女の矜持に則った、純粋な立ち回りとなろう。

 相手の力量を力でねじ伏せ、己が力が如何に上かを見せつける伝統的な魔女の戦い方じゃ。

 じゃがそれは、連戦を考慮しない上でのみ取れる択じゃ。


 となれば、後者の択を取るべきなのじゃが……。

 これはちと、反則なような気もしてのぅ。


 そうこう考えている間に、炎弾が妾に着弾しようとしていた。

 やはりやむを得んか。と、杖先で炎弾に触れながら略式詠唱を開始する。


「ここに出でよ、滅槍アラドヴァル!!」


 妾の詠唱に応じて杖がどす黒い黒に染まっていき、炎弾をも喰らうかのように禍々しい魔力を滾らせ始める。

 やがて杖全体がその魔力に包まれた頃には、妾の手には一本の槍が収まっていた。


「全盛期の妾と現世の妾、どちらの腕が上回っているかを吟味したいところじゃが……先を急がせてもらうぞ。下手を打てば、世界が崩壊しかねんからのぅ」


 槍をくるくると弄び、矛先で偽の妾を捉えるように構えを取る。

 そして宙を跳ね、全身を使って回転し、威力を増した槍を叩きつけてやった。


『……ふん。随分と性急ではないか? 話し合いを望んだのは貴様じゃろう』


「おや、問答を放棄したのは貴様だったはずじゃが……妾の聞き間違いかのぅ?」


 容易に避けられることは想定済みじゃ。

 悟られぬように印を刻み、即座に追撃に切り替える。


 じゃが、流石は妾と言ったところか。

 上手いこと攻撃をいなしつつ、妾が刻んだ印を無効化しようとしてくる。


 それを妨害するべく、奴の足元に槍の先を突き立て、相反する炎と水の魔力をぶつけて魔力爆発を引き起こすと、偽の妾は忌々しそうに顔を歪めながら宙を舞った。


「良いぞ良いぞ。小手先の勝負も望むのであれば、いくらでも潰してやろう。貴様の集中力と妾の嫌がらせ、どちらが先に尽きるか根競べでもしてみるか?」


『……ほんに嫌な奴じゃ。己自身を相手取ると、これほどまでにやりにくいとはな』


「褒め言葉として受け取ってやろう。ほれ、どんどん行くぞ!」


 妾の連撃を上手いこと躱しつつ、偽の妾はあの手この手で魔法を連発し、距離を取ろうと試みてくる。

 じゃが、【魔の女神】を相手に魔法で戦おうと言うのは愚の骨頂じゃな。


「ここらで最初の試練と行こうかの」


『試練じゃと?』


 妾は神力を活性化させ、杖先に宿り始めている微かな魔力を読み取る。


「――汝を火に見放されし者と断じる」


 妾は【魔を司る女神】。

 魔法の制定や、新たに開発された魔法の承認だけが仕事では無い。

 必要であれば、その者から魔力を取り上げることも役割のひとつじゃ。


『なっ!? うぐっ!!!』


 霧散していく魔力に目を剥いていたところへ、鋭い回し蹴りをくれてやる。

 勢い良く落下していった偽の妾は、激しく咳き込みながらも上体を起こし、再び杖に魔力を込め始める。


『何故じゃ!? 何故力が抜けていく!?』


「くはは! それは当然と言う物よ。貴様、誰を相手にしていると思っておる?」


 ふわりと降り立った妾を、この上なく憎むような顔で見上げる偽の妾。

 くふふ、これでは妾が悪人のように見えてしまうな。


「良く聞くが良い。妾の名はシリア=グランディア。【始原の魔女】にして【神祖の大魔導士】であり――【魔の女神】じゃ」

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