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927話 異世界人は自分を貫く 【レナ視点】

「……で、いよいよあたしの番って訳ね」


 メイナードのいたフロアと同じ、何も無い石造りの空間で待ち受けていたのは、腕組みをして仁王立ちをしているあたしの偽物だった。


『人の心の中に土足で踏み入るなんて、失礼だとは思わない?』


「それはあんたも同じでしょ」


『あたしはシルヴィに求められてここにいるからいいのよ。何もできないくせに友達だ家族だとか言い張って、居候続けてるあんたよりはね』


 ……随分と痛いとこ突いてくるじゃない。流石はあたしね。


「シリア。エミリ達を連れて先に行って」


「うむ、それは構わんが……挑発に乗るで無いぞ」


「分かってる。アイツぶっ飛ばして、すぐに追いつくから」


「……行くぞエミリ、ティファニー。もう少しでシルヴィの下のはずじゃ」


「うん」


「レナ様、頑張ってくださいね」


「ありがと。でも大丈夫、絶対負けないから」


 心配してくれるティファニー達に強気に笑って見せ、みんなが階段の奥へと姿を消したのを見送ってから、改めてあたしの偽物と対峙する。


「やっぱり自分以外は狙わないのね。シルヴィに近づけたくないって言う割には、特定の一人しか相手にしないっぽいし……。何が目的なの?」


『目的? そうね……。強いて言うなら、あんた自身に気づかせたいってとこかしら』


「気づかせる? 何を?」


 あたしの偽物は、わざとらしく溜息を吐いて言葉を続ける。


『分からないふりは相変わらずお得意よね。でも、自分自身であるあたしには無駄よ』


「なら、もったいぶってないでさっさと言いなさいよ。こっちも時間が無いのよ」


『本当に分からないの? ――あんたがいることで、シルヴィの重荷になってるってことが』


 あたしが、シルヴィの重荷になってる?

 全く予想もしていなかったその言葉に困惑していると、あたしの偽物はやれやれと首を振って見せた。


『あーあ。本当に分かってなかったんだ、あんた。そりゃあ拒絶されて当然よ。自業自得だわ』


「勝手に話を進めるんじゃないわよ。あたしの何が、シルヴィの重荷になってたって訳?」


『じゃあ逆に聞くけど、あんたがシルヴィにもたらしてたメリットって何よ』


「あたしは、シルヴィの魔法の練習に付き合ったり、話をして息抜きさせたり、診療所の手伝いをしたり――」


『それ、あんたじゃなくてもできるわよね? 何なら、エミリやティファニーだってできるわよ』


 あたしの言葉を遮るように、あたしの偽物が言葉を被せてくる。


『元々、シルヴィの診療所はエミリと二人で回せてた。そこにあんたが入ることで、エミリの遊ぶ時間が増えたってだけ。別にあんたはいてもいなくても変わんないのよ』


「そんなこと」


『ない、なんて言えないわよね? 事実、シルヴィとあんたが料理屋をやってた時だって、診療所はティファニーだけでも回せてたんだもの。あんたが獣人族の狩りの手伝いに行ってた時も、シルヴィ達は普通に診療所を回せてた。こんな環境なのに、あんたがいなきゃいけない理由なんてある?』


 そう言われると、あたしがいていい理由は無くなる。

 だってアイツの言う通り、あたしは戦闘面以外ではエミリ達とやることが被ることが多いから。


 だからって、はいそうですかって引き下がる理由にもならないのよ。

 あたしはもう、自分のワガママを貫くって決めたんだから!


「理由なんて、たった一つだけよ」


『何?』


 あたしは臨戦態勢を取り、偽物に向かってはっきりと言ってやる。


「あたしがシルヴィと一緒にいたい。ただそれだけよ!!」


『……それがシルヴィにとって重荷になるって分かってても?』


「分かってても。あの子が本当に辛いと思ってるなら、改善できるところを探すために話を聞きたいし、協力することで負担を減らせるならいくらでも協力する。何もできないなりに、やれることは沢山あるのよ」


『随分とワガママになってるじゃない。あんた、ホントにあたし? 今まで他人に自分を押し付けようなんて、考えすらしなかったじゃない』


「そう。今までは考えすらしなかったし、その場に合わせて邪魔にならないようにしようと思ってた。だけど、それは違ったのよ。あたしはあたしの人生を生きていい。あたしのやりたいことを好きなだけやっていい。そうやって生きていくことを望んでくれている人がいたから、あたしは変われたの」


『……訳わかんない。そんな身勝手でシルヴィの負担になられたら、たまったもんじゃないわ』


 あたしの偽物が、全身に魔力を纏わせて全く同じ構えを取る。

 話し合いはここまで。あとは、どっちが自分の意思を貫けるかの勝負よ!


『あたしは絶対に、あんたをシルヴィには近づけさせない!!』

「あたしは絶対に、あんたをぶっ飛ばしてシルヴィを連れ戻す!!」


 お互いの言葉が重なると同時に、あたし達は地面を蹴っていた。

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