925話 女神様は本気を出す 【レナ視点】
『流石は私ね、諦めないって思ってたわ。私だって、同じことを言うと思うもの』
だからこそ。と付け足すと、フローリア(?)は周囲に激しい雷を走らせ始めた!
それに伴って、部屋の様子が徐々に変わっていき、ただただ広い石造りの空間に変化していく。
『はいどうぞ、ってこのまま通すわけにはいかないのよ。あなた達がどう思っていようと、シルヴィちゃんはもうみんなに会いたくないんだから』
バチバチと両手に紫の雷を弾けさせるフローリア(?)。
それはさっきの話じゃないけど、本能的に恐怖を感じかねない女神の本気の姿だった。
即座に臨戦態勢を取ろうとしたあたし達にフローリア本人が腕を伸ばして制してくる。
「ここは私に任せて、みんな」
「でも」
食い下がろうとするあたしに、フローリアは顔だけをこちらに振り向き、優しく微笑んだ。
「たぶんだけど、この先にも私以外のみんなの偽物がいると思うの。全員でそれを倒していくとなると、かなり消耗させられちゃうわ。だから、自分の動きを一番知ってる私が、ここを受け持ちたいの」
「……フローリアの言う通りじゃ。この先も同じような展開が待ち受けているとなれば、先を急ぐ必要がある点も踏まえて消耗することは避けたい。ここはこ奴に任せ、妾達は上を目指すぞ」
「うふふ! 流石はシリア、分かってるわねぇ」
「貴様とは二年年来の腐れ縁じゃからな。嫌でも分かると言う物じゃ」
「それじゃあシリア、みんなをよろしくね」
「うむ。遅れるでないぞ、フローリア」
シリアは手短に挨拶を済ませると、「行くぞ」と階段に向かって駆けだし始めた。
それをエミリ達が追い、あたしも向かおうかと思ったけど、どうしてもフローリアが気になってしまって立ち止まってしまう。
そんなあたしに、フローリアは困ったように笑って見せた。
「なになに~? レナちゃんってば、心配してくれてるの~?」
「そりゃ心配だってするわよ。……本当に一人で大丈夫なんでしょうね?」
「ふふっ、大丈夫よ。こんなこともあろうかと、とっておきは用意してあったからね」
フローリアはそう言うと、胸の前で両手でサンカクを作るようにして魔力を高め始める。
それはやがて、偽フローリアを遥かに上回るほどの雷へと変化していき、フローリア自身の姿にも変化が表れ始めた。
いつもの純白の神衣が、まるで夜空に暴れる雷のような色合いのドレスへと変わっていき、所々に時計模様が描かれている部分は、どういう原理かドレスの上でくるくると針を回転させている。
初めて見るその姿に呆然としていると、薄紫の羽衣の位置を調整していたフローリアは、あたしにウィンクを飛ばしてきた。
「これが私の本気モードってとこ☆ さ、レナちゃん。危ないから上に向かってちょうだい」
「う、うん……。気を付けてよね」
「ありがとレナちゃん、愛してるっ☆」
あたしはフローリアを信じ、螺旋階段からさらに上へと向かう。
あたしが完全にそのフロアから姿を消した次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような凄まじい轟音と共に、塔全体を揺らすような衝撃が伝わって来た!!
「うっ!?」
「大丈夫か、レナよ」
「うん……。今の、フローリアよね?」
「うむ。妾もあ奴の本気を見ることなど二度目じゃが、やはり凄まじいものじゃな」
「え、二千年で一回しかなかったの!?」
「あ奴は普段から遊び歩いているが故に、こうした真剣な場に姿を見せることが無かったからのぅ。前回力を振るったのは、確か神降ろしに応じてカイナの街を守った時じゃったか? あの時も凄まじかったが、今回もそれに劣らずと言ったところじゃな」
そんな希少なシーンなら、尚更近くで見ていたかった……。
別の意味で後ろ髪をひかれ始めるけど、あたし達は振り返らずに上を目指した。
そして次のフロアであたし達を待ち受けていたのは。
『ここは我の出番、ということだな』
カースド・イーグルとしてのサイズで待機している、メイナードの姿だった。
偽のメイナードはあたし達の姿を見るや否や、体の周囲に淡い燐光を纏わせ始める。
それはまるで、言葉を交わす必要などないとでも言いたげだった。
『クックック。流石は我だな。幾千の言葉よりも早く伝えられる方法を、よく分かっている』
メイナードはあたしの頭の上から飛び降りると、全身を燐光で包み込み、やがて同じようなサイズへと姿を変えていく。
二人が睨み合いを始める中、本物のメイナードが振り向かないままあたし達に言った。
『すぐに追いつく。決してシリア様から離れず、次の階を目指せ』
「うん」「分かりました」
『小娘』
「何よ」
メイナードは大きく翼を広げ、珍しく優しさを感じられる声色で続ける。
『先の言葉、悪くなかったぞ。手のかかる主の傍に駆け付け、もう一度直接言ってやれ』
その言葉を最後にメイナード達の姿が消え、次の瞬間には部屋の中央で翼の撃ち合いをしていた。
踏ん張らないと飛ばされそうな風圧に耐えながら螺旋階段を目指し、さっきのメイナードの言葉を頭の中で反芻する。
「……あんただって、シルヴィにとっては立派な家族の一人でしょうが」
「全くじゃ。ほんにオスと言う物は、こういうところで妙に恰好を付けたがる。謎の生き物じゃよ」
「あはは! 言えてる!」
だけど、あの背中はいつもより少しだけ大きく見えて、頼もしく感じたのよね。
これが背中で語るって奴なのかな、なんて思いながら、あたし達はさらに上を目指した。




