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12話 ご先祖様は慌てる(前編) 【レナ視点】

今日と明日はレナ視点でお届けします!

魔族と相対することになってしまったシルヴィとは別行動を取っていたシリア一行は、彼女の帰りが遅いことをかなり気にしているようです……。

『遅い……。一体何をもたついておるのじゃ、あ奴は』


 さっきから、シリアがテーブルの上でうろうろしながら、シルヴィが帰ってこないことに苛立っている。

 あたしは詳しいことは分からないけど、ざっくり聞いた話ではペルラが過労で倒れた代わりに、シルヴィがサポートに向かったらしい。


 で、夕飯までには帰ってくるって約束だったみたいなんだけど、もう夕飯の時間をとっくに過ぎていて、かれこれ二時間くらいご飯抜きの状態だった。


 時間内に戻らないからって苛立つシリアはちょっと過敏すぎる気はする。どうせシルヴィの事だし、何かお節介焼いてるんじゃない? ってあたしは楽観的に考えちゃうけど、それじゃ納得しないみたい。


 そして、シリアとは別方向で我慢の限界に来たうちのダメ女神が音を上げた。


「ねぇシリア~。もうエルフォニアちゃんに作ってもらわない? 私そろそろお腹すきすぎて死んじゃう……」


 早く帰ってほしいけど、シルヴィに今週の分の授業が出来てないからって、エルフォニアはずっと居座ってる。しかもさりげなく料理ができるアピールをしてくれたもんだから、フローリアが見事に釣られてしまっていた。


「別に私が作ってもいいけれど、シリア様がやけにこだわってるのよね」


『決まり事は粗末にするでない! そうした気の緩みから、日々が疎かになるのじゃぞ!』


「えぇ~……。じゃあシルヴィちゃんお迎えに行こうよ~。忙しくて帰れないなら、私が手伝えば絶対早く終わると思うの」


『貴様が手を貸せば余計悪化するじゃろうが!』


「うぅ……。レナちゃぁん、シリアが冗談通じないくらい怒ってるんだけど……」


「なんであたしに振るのよ……。でもシリア、シルヴィが約束を守れないって相当忙しくしてるか、何か事情があるんじゃない? 信じて待ってあげたらいいじゃん」


『阿呆! 信じておるからこそ苛立っているのじゃろうが!』


 なんか滅茶苦茶なキレ方された。すごい理不尽感。

 もう何言っても落ち着かないんだろうなぁと思って溜め息を吐くと、影を弄んでいたエルフォニアが不思議そうな声で言った。


「……いつもならシルヴィの影くらいすぐ捕まえられるけど、今日は何故か捕まえられないのよね。何かに遮られてるって言えばいいのかしら」


『それは妾の魔具の効果じゃろう。魔力を一時的に遮断し、兎人族の能力値に合わせるようにしてあるからな』


「それは分かるけど、それとは別に何か感じるのよ。シルヴィの影を探そうとすると、壁……みたいな何かにぶつかるのよね」


『じゃから、それは妾の魔法の効果じゃと……! ん? エルフォニアよ。お主今、何と言った?』


「シルヴィの影を探そうとすると壁にぶつかるのよね」


 エルフォニアの返答に、シリアは今度は何かを考えこみ始めた。何回も見てるけど、猫のくせに座って腕組みをするっていうのはすごくシュールに見える。猫じゃないんだけど。


 しばらく考えに耽っていたシリアが、ふと疑問を口にする。


『エルフォニアよ。例えばじゃが、お主が転移しようと影を捕らえている時に、外界遮断の結界なり壁なりに遮られた場合はどうなる?』


「そうね……。そうなると、影そのものを追えなくなるから、ちょうど今みたいな状態になるかしら」


『そういうことか……! 妾としたことが、裏目に出るとは思わんかった! シルヴィが危険じゃ!!』


 シリアはいきなり慌てだし、テーブルから飛び降りて外へ向かおうとした。


「ちょ、ちょっとシリア!? 私全然分からないんだけど~!」


『説明は後じゃ! 急いで酒場へ向かうぞ!!』


 よく分からないけど、急いだほうがいいと言うことだけは分かった。

 あたし達はシリアの後を追うように家を飛び出して、暗くなった森の中を走って酒場に向かった。





『やはりか……!!』


 酒場の近くに着くなり、シリアが悔しそうに呻いた。

 シリアが悔しそうにしている正体は、酒場を中心にドーム状に展開されている淡く光る赤い結界のようなものだった。これがあるせいで、あたし達はこれ以上酒場に近寄れなくなってしまっているみたい。


『迂闊じゃった……。兎人族の話を良く聞いておけば、このような可能性なぞいくらでも考慮できたものを……!』


「ねぇシリア、ちょっと落ち着いて? あたし達今の状況がよく分かってないんだけど」


『あぁ、すまぬ……。これは魔族の結界魔法でな、中の者を逃がさず、外の者を拒む厄介なものじゃ。そしてこれを行使した者は、兎人族が戦火に巻き込まれぬようにと逃げ出した街の魔族じゃろう。そこそこ強力なようじゃし、その街の領主といったところか』


「え、じゃあシルヴィと兎人族の子達が中で捕まってるってこと!? なんで!?」


『分からぬ。可能性で見るのならば、逃げ出した者らを捕らえに来た。といったところかの。して、兎人族に扮して居合わせたシルヴィも、恐らく妾の魔法で魔力を封じられておるが故に、何もできずに捕まっているやも知れぬ』


 あたし達はようやく、事態の深刻さに気が付いた。これって、もしシルヴィが魔族に襲われたら何もできずに殺されるってことじゃない!?


「早く助けないと! この程度の結界、あたしが叩き割ってやるわ!!」


『やめんか阿呆!! もし無理に割ろうとして中の魔族に感知されようものなら、逆にシルヴィが人質として使われるのじゃぞ!?』


「じゃ、じゃあどうしたらいいのよ!?」


『これは妾とエルフォニアで解析し、認識を阻害しながら割って入る。したらば、後はお主が暴れればよい。よいな?』


 シリアの言葉に頷くと、エルフォニアと一緒に結界の構成について入念に調べ始めた。悔しいけど、魔法の基礎が分かってないあたしには出来ることがなさそう。


「シルヴィ……」


「大丈夫よレナちゃん。シルヴィちゃんはしっかりしてる子だもの、きっとどうにかしようって中で頑張ってるはずだわ」


「うん……そうだよね。シルヴィは大丈夫、絶対……」


 中でシルヴィがどうなってるかが分からなくて気が気じゃないけど、今は無事を祈るしかなかった。

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