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924話 ご先祖様は力を語る 【レナ視点】

「何を言い出すかと思えば、そんなことか」


『シリア?』


 シリアは目の前のメイナードを軽く撫でながら、言葉を続ける。


「妾達魔女という存在は、常々人間や魔族に恐れられ続けていた。それは何故か? 奴らが持つ力とは比べ物にならぬほどの力を持ち、時には魔女一人が天災に例えられるほどの力を持っていたからじゃ。故に、妾達魔女は恐れられて当然の存在であり、逆を返すのであれば、対等に見られてはならぬ存在なのじゃ」


『でもそれは、魔女を目指したかった人がなるものでしょ? シルヴィちゃんは、あなたのように魔女になりたくてなった訳じゃ――』


「成り行きではあったやも知れぬ。じゃが、それでもあ奴は道半ばで魔女を辞めることは無く、魔女であり続けることを選んだのじゃ。それは他ならぬ、あ奴自身の選択じゃ。ならば、あ奴の中で魔女であろうと言う覚悟があったはずではないか?」


 シリアの問いかけに、フローリア(?)が黙り込む。

 これ見よがしにと、シリアはさらに追い打ちをかけた。


「あ奴が妾の先祖返りであり、妾のピークをも上回る魔力を持ち、ソラリアの力さえも己が物とした今、あ奴の右に出る者はおらんじゃろう。それは世界の脅威となり得ると同時に、魔女としての高みへ上り詰めた証でもある。それが恐れられずして、どう在れと言うのじゃ? 尊敬と畏怖、それらがあってこそ初めて強者じゃ。違うか、メイナードよ」


『仰る通りです。我らの世界でも、力を持つ者は常に恐れられると同時に、群れを率いる絶対的な君主がいることに安心を覚える者もいます。主はそこへ辿り着くまでの道が短すぎたが故に、現状を受け止められなかったのでしょう』


「うむ。故に、妾とメイナードから言えることはただ一つだけじゃ」


 シリアはフローリア(?)をまっすぐ見据え、有無を言わせない力強さで言い切った。


「他者に怖がられることに臆しているのであれば、まだまだ三流じゃ。力を持つことの意味を、今一度見直すのじゃな」


 これはきっと、力を求め続けて来たシリアとメイナードじゃないと分からないものなんだと思う。

 だけど、だからこそ。力を求めた先にある景色を知っているからこそ。シリア達はシルヴィが甘えてるだけだと言い切れるんだわ。


 あたし個人としてはシルヴィと一緒って訳じゃないけど、似たような感じで力を貰っちゃったから気持ちは分からなくもない。

 でも、だからってあたし達家族にすら怖がられたくないって言うのは、ちょっと違うんじゃないかなっても思えた。


『シリア達は強いからそう言うことが言えるの。でも、シルヴィちゃんはそうじゃない。あの子は普通の女の子になりたかっただけの子なのよ?』


「だから何じゃ。凡才の女子(おなご)じゃろうと、剣を握り、それを人に向ければ多少なりとも恐れられるじゃろう? それと同じじゃよ。剣を常に鞘に納め続け、ここぞという時のみに抜くのであれば頼られよう。それを容易く抜き、ただ振り回すだけならば暴漢として恐れられよう。力とは常に、振るう者によってその在り方を変える。ただそれだけの話じゃ」


『主に求められているのは、その力を制御すること、ただその一点のみだ。幸い、その力の御し方に長けているシリア様がいらっしゃるのに、何を恐れる必要がある?』


 メイナードがフローリア(?)を通し、シルヴィ自身に問いかけるように言葉を向ける。

 それに対し、しばらく反応が無かったフローリア(?)だけど、やがて残念そうに息を吐いた。


『はぁ~……。あなたって昔からそうよね、シリア。自分は強くて、他の人を引っ張るのが当然で、その人達に尊敬されるのが当たり前だって考えてる』


「無論じゃ。それが力を持った者の責任じゃからな」


『それは大切なことかもしれない。だけど、それを背負わされちゃった人はそれは当てはまらないとは思わない? たまたま強い力を持って生まれちゃって、たまたまその力が覚醒しちゃって……。そんな力を急に持たされて、自分のことも怖いって思わないのかしら?』


「それは違うわね」


 その質問に答えたのは、エルフォニアだった。


「偶然に偶然が重なって力を持ったのだとしても、その力と向き合う場面は必ず出てくる。スティア様の言葉を借りる言いかたをするのであれば、それが力を持った者の運命だと言う事よ。自分の運命に負けて力に溺れるか、運命に抗い、その力を制御下に置くか。それを決めるのは他ならぬ、あの子自身だもの。自分が怖いんじゃない、自分に負けてるのよ」


 自分に負けてる。

 その言葉で、あたしはようやく腑に落ちた気がした。


 そっか。シルヴィはあたし達を傷付けたくないと思うと同時に、覚醒した力が強大過ぎて使い方が分からないから、こうして閉じこもることで暴走させないようにしたんだ。

 何ともシルヴィらしいと言える対応方法だけど、そうと分かった途端、頼ってくれなかったことの悔しさの方が上回って来た。


「フローリア、シルヴィに伝えてくれる? ――心配なんて、余計なお世話だって」


『レナちゃん……?』


「確かにシルヴィは、あたし達なんかじゃ手が届かないくらいに強くなっちゃったのかもしれない。だけど、あたし達だってただ守られるだけの存在じゃないのよ。シルヴィが力の使い方を本気で覚えたいって言うなら、いくらでも練習相手にだってなる。もちろん、それで死ぬかもしれない可能性があるんだから、怖くないとは言えないわ」


『なら』


「でもね、これだけは言わせて」


 あたしははっきりと、言い切って見せた。


「その力が怖いからって、あたし達はシルヴィから逃げない。だってあたし達は、シルヴィの家族なんだから。家族なら、誰よりもシルヴィの近くで応援してあげたいと思うのはおかしいことじゃないわよね?」


「……くふふ! その通りじゃ。よくぞ言い切ったな、レナ」


 シリアは笑いながら席を立ち、フローリア(?)に告げた。


「そう言う訳じゃ。シルヴィがいくら妾達を遠ざけて安全を確保しようとも、妾達は危険を冒してでもシルヴィの下へ戻る。それが家族と言う物じゃ」


「わたしも、お姉ちゃんの練習に付き合うよ!」


「ティファニーも、ささやかですがお手伝いしたいです!」


「うむうむ。あ奴もきっと喜ぶじゃろうよ」


 同じようにエミリ達も席を立ち、シリアの隣に並ぶ。

 エルフォニアも立ち上がり、その少し後ろに立ち並びながら言う。


「私は家族ではないけれど、あの子の力には興味があるの。練習台になりながら研究ができるのに、恐怖を感じる必要なんてどこにあるのかしら」


 何ともエルフォニアらしいその言い草に、あたしは苦笑しながら立ち上がる。


「そう言う事だから、悪いけどあたし達は逃げないし、シルヴィを逃がさないわ」


「うふふ! それじゃ、お話はここまでね~」


 最後にフローリアが立ち上がり、自分と瓜二つの姿をしている彼女に告げた。


「私達は何があっても、シルヴィちゃんを諦めないわ。だから、このまま迎えに行くわね」

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