915話 夢幻の女神討伐戦・4 【レナ視点】
「たかが一日二日、あたしの手伝いをした程度で、知ったような口を利いてんじゃないわよ人間がぁ!!!」
ソラリアが吠え、またしても無数の鎖を伸ばしてくる。
だけどマガミさんとシューちゃんの目にも止まらない神速の剣技で、ことごとく斬り落とされていった。
「レナ殿、鎖は俺達が断ち切る! 貴殿はソラリア様を頼む!!」
「うちらは神様の力は斬れるけど、神様自身は斬れへんのや! せやからレナちゃん、うちらの分までどついたって!」
「ありがとう二人共!!」
強力過ぎる助っ人の登場で、鎖も怖くなくなった! 今ならいけるわ!!
大地を強く蹴り、ソラリアの顔面の高さまで跳躍したあたしは、拳を固く握りしめて振りかぶる。
「はあああああああああああっ!!!」
憎悪の力を纏わせた渾身の右ストレートを、シルヴィの防護結界が阻んでくる。
だけど本家のそれには劣る耐久力は、あたしの威力を殺すことなんて出来なかった。
ガラスが割れる音と共に結界を突き破り、ソラリアの左頬を思いっきりぶん殴る。
「まずは、一発!!」
「こ、の……ガキィ!!!」
ぐいんと振り向き、大鎌を振るってくる。
それを躱すと、今度はあの鎖が四方八方から伸びて来た。
咄嗟に逃げようとしたあたしの目の前に、マガミさんとシューちゃんが現れ、その鎖を即座に叩き切ってくれる。
「止まるなレナ殿!!」
「この程度で足を止めとったら、いつまで経ってもシルヴィちゃんを助けられへんで!!」
「うん、分かったわ!!」
二人を飛び越え、再びソラリアに接近する。
すると今度は、ソラリアの背後からメイナードサイズの死神が飛び出してきた!
「邪魔よ!!」
二体の攻撃を紙一重で躱し、お返しにとハイキックと回し蹴りを叩きこむ。
だけど流石にサイズアップしているだけあって、効いてる感じが全然しない。
そこへ、ソラリア自身の大鎌も振りかざされ、距離を取ろうと後ろへ飛び下がった瞬間、背後から殺意を感じ取った。
「まだ増えんの!?」
同じサイズの死神が二体、追加であたしを狙って来る。
これじゃ全然近づけないじゃない! と焦りそうになったけど、振り返った先の死神達が見覚えのある極太ビームに焼かれて消滅した。
「こちらは私達に任せて、あなたは突き進みなさい」
「プラーナ!?」
まさかの登場に驚きの声を上げると、今度は正面側にいた死神が短い断末魔を残して消滅した。
そちらに振り向くと、プラーナ同様にボロボロではあるものの、強気の笑みを浮かべているネフェリの姿があった。
「へへっ、露払いは任せろってことだ。行ってこい、レナ。すぐにエルフォニアも来るからさ」
「ネフェリも……ありがとう、助かるわ!」
プラーナ達の援護を受け、再度ソラリアの近くまで接近できたあたしは、風の勢いを乗せたドロップキックを眉間に突き刺す。
「でやああああああああああっ!!」
「ぐぅっ!!!」
巨体のバランスが大きく崩れ、後ろにふらつく。
そのまま追撃に向かおうとしたあたしを阻むように、ソラリアの全身から赤黒い魔力が吹き上がった。
「うっ……! 何!?」
その魔力は次第にソラリアの全身を覆っていき、内側にいるソラリアが殺意の籠った声で吠えた。
「調子に乗ってんじゃないわよ人間共が……! お前ら全員、皆殺しにしてやる!!」
「うあああああああああああ!?」
ソラリアを覆っていた魔力が弾け飛び、その勢いにあたしの体が吹き飛ばされる。
錐揉みになりながらもなんとか受け身を取ったあたしの視線の先には、先ほどまでとはまるで姿が変わっているソラリアがいた。
ややゴシック調のロングドレスから一変し、全身を赤黒い軽鎧で固めたソラリアは、まずはお前からだと言わんばかりにあたしを睨みつけて来た。
来る。そう判断して反射的に右に大きく避けたのはほとんど勘だったけど、その動きが無かったらあたしは一瞬で真っ二つにされてたと思う。
そう思わせるぐらい、攻撃速度が段違いに上がっていて。
「嘘でしょ……」
あたしが避けた攻撃は、ずっと先にある森までも斬り裂くほど、攻撃範囲もめちゃくちゃに広くなっていたのだから。
「行くわよクソガキ。楽に死ねると思わないことね」
呆然とする間もなく、ソラリアの攻撃が再びあたしに向けられる。
何事も大きくなれば動きが鈍重になる。そんな常識を破っているソラリアは、あの巨体で通常サイズと同等かそれ以上の速度で攻撃を仕掛けて来た。
「こんなの、絶対に近づけないじゃない!!」
「あっはははははは!! ほらほら! さっきまでの威勢はどこに行ったのかしらぁ!?」
一撃の速度は早く、リーチも長く、一撃で大地を斬り刻めるほどの威力を振り回してくるソラリアに、あたしは回避を強いられる。
縦横無尽に繰り出されるそれを躱しきれず、マガミさんのように攻撃の軌道を逸らそうと試みたけど、あっさりと押し負けて吹き飛ばされてしまった。
「ぐ、あああああああっ!!」
吹き飛ぶあたしへの追撃として、大鎌が数度振られ、その衝撃波があたしに向かって来る。
受け身を取らないと。回避しないと。そう頭では分かっていても、思った以上に一撃が重かったらしく、思うように体が動かない。
それでも歯を食いしばって宙返りをした瞬間、足場の予定地が想像してた硬さとは大きく異なっていた。
「え……うわっ!?」
そのまま高速で動く足場から落ちないようにとしゃがみ込むと、それは足場ではなく。
『振り落とされるなよ、小娘。あの攻撃では、我も最高速度で飛ばねばならん』
肌触りの良いメイナードの背中だということに気づくまでに、数秒掛かった。




