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911話 幽閉の塔攻略戦・3 【シリア視点】

 何故、妾は地に伏しているのか。

 何故、ソラリアが妾を見下ろしているのか。

 ぼんやりとした頭で考えながら身を起こそうとすると、それはさせまいとソラリアが妾の背を踏みつけて来た。


「ダメじゃない、シリア様。虫は虫らしく、地面を這いつくばっていないと」


「ぐっ……貴様ぁ……!」


「あはっ、いい顔ねぇ。すやすやと気持ちよさそうに眠っていた時の顔も悪くはないけど、あんたの寝顔ってあの王女様とそっくりなのよ。あれはこの三カ月ですっかり見飽きてるから、そうやって顔を歪めてる方が新鮮味があっていいわ」


 徐々に覚醒していく思考で現状を整理する。

 妾達は先ほどまで、塔の攻略をしていたはずじゃが、それはソラリアの罠じゃった。

 まんまと罠に掛かったが、それが夢であることに気が付いた妾は、全員を殺すことで覚醒に至ったはずじゃ。

 じゃが、この体の痺れは何じゃ? ただ寝ていただけでは、こうはならんじゃろう。


 そう考えていた妾の背を一度強く踏みつけたかと思いきや、ソラリアは妾の背にどすっと腰を下ろす。

 膝を組み、自身の髪を弄びながら、ソラリアは言葉を続けた。


「あたしとしてはもう少し寝てくれてるかと思ったんだけど、そこは腐っても魔法のプロフェッショナルってところかしらね。頑張って用意しておいた罠を、こうも簡単に突破されちゃうと困るのよね~」


「……はっ。貴様如きが仕掛けた罠なぞ、取るに足らんわ」


「あら、そうかしら? その割には、随分と気持ちよさそうに眠っていたじゃない? 寝不足だったんじゃないの?」


「戯言を。いいから、どかんか!!」


 背の上のソラリアを指定し、紫電の槍で薙ぎ払う。

 じゃが、ソラリアはそれをふわりと飛ぶことで容易に避けて見せた。


「魔法にもキレが無いわよ、シリア様? そんなんであたしを倒せるとでも思ってるの?」


「無論じゃ。妾は必ず貴様を討つ。それに――」


「それにぃ?」


 負け惜しみかといやらしく笑うソラリアの顔面を狙った回し蹴りが、寸でのところで躱される。

 それは読んでいたというように、レナが速度を上げて追撃を行う。


「あんたを討つのは、シリアだけじゃないってことよ!!」


「……へぇ。あんた、こっちの世界に帰ってこられたんだ? てっきり向こうで、一人寂しく消滅していた物だと思ってたわ」


「ご愁傷様! あたしはしぶとくて諦めが悪いのよ!!」


 レナのみが動けると言う事は、やはりこれは麻痺毒の類いか。

 妾もある程度耐性はあったつもりじゃが、メイナードが放つ燐光に含まれる毒素を浴び続けていたレナには遠く及ばんようじゃな。


 レナが繰り出す高速の連撃を躱し続けていたソラリアは、やや隙のあった右のストレートを躱し、その腕を掴んで壁へと放り投げる。

 放り投げられたレナは空中で受け身を取り、壁を蹴って再び突撃していく。

 レナがあ奴の気を惹いている内に、妾は解毒をした方が良かろう。


 床に手を突き、妾を中心に魔法陣を展開させる。

 効能はシルヴィには及ばんが、それでもこの程度の麻痺毒ならば十分じゃろう。


「――浄化(クリアヒール)


 妾の魔法が発動すると同時に、全身を蝕んでいた痺れが取れ、気怠さも引いていく。

 全員が体を起こし始めるのを見たソラリアは、小さく舌打ちをしながら盛大に溜息を吐いた。


「あ~あ。もう少し時間を稼ぎたかったんだけど、ホントウザったいガキだわあんた。毒は効かない、神力にも対抗できるとか、どれだけ人間辞めてるのよ」


「あたしはどこまで行っても普通の人間よ。シルヴィやシリアみたいな天才には遠く及ばないし、エルフォニアみたいな超が付くほどの努力家でもない。ただ諦めが悪くて運動神経がいいだけの人間……よ!!」


「おっと。やっぱりあんたを消しておくって判断は間違って無かったわ。あんたはこいつらの中でもとびきりにウザい。今すぐにでも殺しておきたいけど、この体じゃ力不足なのよねっと」


 ソラリアはレナを強く弾き飛ばすと、ふわりと上空へと逃げる。

 そこへ追い打ちの魔法を放とうと思ったが、ふと妾は強烈な違和感を感じ取った。


「……貴様、この塔にはいないな!?」


 そう。ソラリアが放つ気色の悪い力が、いつの間にか感じ取れなくなっていた。

 微弱なそれは感じ取れるのじゃが、それは目の前のソラリアもどきが放っているもので、言い換えればあの死神兵のものとさほど変わらん。


 その推測が正しかったと言わんばかりに、ソラリアは盛大に拍手を送ってくる。


「だいせいか~い!! そう、あんた達がお探しのソラリア様は、もうこの塔にはいませ~ん!」


 塔にいないとなれば、残すは王城しかあり得ぬ。

 シルヴィに何かがあったか。はたまた、本体が出向かねばならん何かがあったか。

 どちらにせよ、ここに残る理由はもう欠片も無い。急いで王城へ向かわねば!


 そう全体へ指示を出そうとした瞬間、大気がビリビリと振動し始め、微弱に解けている魔素が火花を散らせ始めた。

 それと同時に、今まで感じたことの無いような強大な魔力の爆発を感じ取り、妾の顔から血の気が引いていく。


「――いかん!! 全員、妾の下に集合し身を低く構えよ!!」


 即座に高密度の防護陣を組み上げ、極大魔法程度であれば防げる強度に仕上げる。

 その外でソラリアが笑いながらこちらに手を振っているのが見えた次の瞬間。

 王城を中心としたとんでもない規模の魔力爆発が発生し、妾達がいた塔諸共を吹き飛ばしてきた!!


「ぐっ、おおおおおおおおおおおおおお!!!」


 極大魔法程度ならば防げる。そう(たか)(くく)っていたが、その威力は極大魔法なんぞ毛ほども比較にならん威力を誇っておった。

 最早、世界を吹き飛ばすのではないかと思える一撃。そしてその力は、あろうことかシルヴィの魔力に外ならなかった。


 地獄のような魔力の押し合いを耐え抜いた妾が、ゆっくりと目を見開くと――。


「何よ、あれ……」


「おいおい、王都が……!」


「さながら、神の顕現と言ったところですか」


 王都はそこに存在していなかったかの如く吹き飛び、地表剥き出しの大地へと変貌し。

 その中心には、先の戦いでエルフォニアが吹き飛ばした巨竜なぞ可愛く思えるほどの、巨大なソラリアが天を仰いでいた。

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