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907話 王城攻落戦・4 【エルフォニア視点】

 玉座の間を目指す道すがら、数度死神兵と交戦があったものの、特に目立った問題も無く辿り着くことができた。

 ここまでの道中で魔術師を一人も見なかったのは、恐らく全員、あのシルヴィの偽物に洗脳されたか、仲間割れを強いられているかでしょうね。


 下で派手に暴れてくれている分、こっちが手薄で助かったわ。

 ただ、手薄なのはここまででしょうけれども。


 影を伝って、玉座の間を守っていた兵の背後を取り、音も無く気絶させる。

 それを見たエミリちゃんとティファニーちゃんが、「おぉ……」と感嘆しながら手を叩いていた。


「エルフォニアさん、カッコイイ……!」


「まるでアサシンみたいです!」


「あなた達は真似してはダメよ」


「わたしはいい? わたし、人間の街では見習いシーフだし」


 そう言えばそんな設定もあったわね。

 確か師匠は盗賊を名乗っていたし、地域によってはシーフも盗賊も一緒くたにされるから問題はないのかもしれないわね。


「ならエミリちゃんには、落ち着いたら少しだけ教えてあげるわ。そのためにも、まずはここを乗り越えることに集中しなさい。いいわね?」


「やった! 頑張るよエルフォニアさん!」


「エミリばっかりズルいです……」


「あなたはシルヴィに倣って、光魔法を伸ばしなさい。それじゃあ、入るわよ」


 肩を落とすティファニーちゃんにを軽く宥め、玉座の間の扉を押し開ける。

 入室早々に斬りかかられることも想定していたけれども、その気配はない。

 部屋の中で待ち受けていたのは、玉座に腰を下ろしている白髪が混ざり始めている男性と、その傍で佇む銀髪の女性。そして、先ほど逃げ出した偽のシルヴィだけだった。


 玉座に腰掛けている男性は、玉座の間へ足を踏み入れた私達に声を掛けてくる。


「……ついにこの部屋にも、賊が土足で踏み荒らす日が来たか。お前達の目的は、この首か?」


 自身の首を斬る動作をしながら問いかけてくる男性。

 声に魔力は帯びていないように感じるけれども、さっきの偽シルヴィも似たような状況であったからこそ油断はできないわ。

 言葉など交わさずに、このまま殺した方が……と剣を生成しようとした矢先、エミリちゃん達が前に出て彼からの問いかけに応じた。


「首なんていらない。わたし達は、お姉ちゃんを取り返しに来たの」


「姉だと? お前のような獣人の姉など、我々は知らないな。それに、仮にシルヴィのことを姉だと思い込んでいるのならば、それは万に一つもあり得ない。シルヴィは生まれてからずっと、我々の愛娘として大切に育てて来たのだ。お前のような汚らわしい獣との接点はない」


「お姉ちゃんは……!!」


 エミリちゃんが声を荒げようとしたのをそっと堪えさせる。


「あの人達に何を言っても無駄よ。あのシルヴィはソラリアに作られた偽物。あなたがどう言ったところで、あの人達はあのシルヴィを自分達の娘だと言い張るでしょう」


 悔しそうに拳を握りしめるエミリちゃんに代わり、ティファニーちゃんが前に出る。


「……ティファニーの友達を、汚らわしい獣と呼んだことを撤回してください。とても不愉快です」


「何を言うか。この神聖なグランディア城に土足で踏み入られた我々の方が、遥かに不愉快だと言う事が分からないようだな」


「あの獣人の子の友達でしょうし、きっと育ちが悪いのね。親御さんの顔が見てみたいわ」


「……っ!!」


「やめなさいティファニー。気持ちは分かるけれども、倒すかどうかは次の質問次第よ」


「エルフォニア様……!」


 珍しく怒りを露わにしているティファニーちゃんを宥めつつ、口ぶりから恐らく、かつてのグランディア王家と思われる二人へ問いかける。


「無益な殺生をするつもりはないわ。私達はこれから、大聖堂に隠されている本当のシルヴィを連れ戻す。その邪魔をしないと言うのであれば、あなた達のことは見逃してあげてもいいわよ」


「何を言い出すかと思えば……。あの大聖堂は神聖な場所だ。○○○○様への祈りを捧げる場に、お前達のような賊を立ち入らせるわけにはいかないだろう」


 何かしら。一瞬、ソラリアの名前の発音に違和感があったわね。

 ソラリアから作られた偽物だから、主の名前を呼ぶことは許されないと言う事かしら。

 何でもいいけれど、邪魔をすると言うのであれば容赦は不要ね。


「そう。ならばここで死ぬ判断をしたことを、後悔しながら逝きなさい」


「随分とナメられたものだな。王とは、国を守り、民を率いる存在だ。ただ椅子に座っているだけが仕事ではないことを、身を以て知らせてやろう」


 これまで座っていたグランディア王が、ゆっくりと立ち上がる。

 その両手には、魔術師共が使う忌々しい魔法陣が出現していた。


「魔術程度で、私を殺せると思っているのかしら」


「そこらの魔術師と比べてくれるなよ? 王家の魔術は、先祖代々受け継がれている伝統的な魔術だ。それを侮るとどうなるか……」


 彼の手がゆらりと持ち上がり、何かの魔術が仕掛けられようとしている。

 ……いえ、違うわ。対象が私じゃない!


 即座にエミリちゃんとティファニーちゃんを庇い、影の中へと姿を消す。

 その直後、エミリちゃんが立っていた場所が爆ぜ、玉座の間に爆砕音が響き渡った。


 少し離れたところで身を現し、私は剣を構えた。


「あの王と王妃は私がやるわ。エミリちゃんとティファニーちゃんは、メイナードと共に偽のシルヴィをやりなさい。外見が似ているからって、手加減は不要よ。できるわね?」


「うん、お姉ちゃんの偽物は絶対に許さないよ」


「できる限り、お母様のように戦って見せます」


「えぇ、頼んだわ。メイナード、あとは任せるわよ」


『いいだろう』


 二人をメイナードに託し、地面を強く蹴る。

 あの魔術の精度は、恐らくプラーナと同等レベル。良く考えなくても、ソラリアはプラーナの傍で力を蓄え続けていたのだから、魔術の扱いにも長けているわよね。


 足元で何度も爆発する魔術を掻い潜りながら、私は剣を大きく振るった。

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