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906話 王城攻落戦・3 【エルフォニア視点】

「……うっし! あたしらの勝ちだ!!」


 ソラリアの姿を模した死神に剣を突き立て、塵となっていく様を見ながら、師匠が歓喜の声を上げる。

 少し時間を掛け過ぎたかしら。と息を吐く私の視界で、城内の壁が一瞬だけブレたような気がした。


「師匠」


「あぁ、幻惑が解けたな。早いとこあっちの援護に行こうぜ」


 師匠に頷き、剣を影に溶かして戻ろうとすると、私達がいるホールの中にエミリちゃん達が駆け込んできた。


「エルフォニアちゃん! 助けに来たよ!」


「怪我はございませんか!? ティファニーが治して差し上げます……って、あれ? 敵さんがいないような?」


「えぇ、こっちもちょうど終わったところよ」


「わぁ! あんなおっきいのを倒せちゃうなんて、エルフォニアさんすごーい!!」


「流石です、エルフォニア様!!」


「おいおいちびちゃん達、あたしにはねぇのかー?」


「カッコイイよネフェリさん!!」「カッコイイですネフェリ様!!」


「なっははは! 当たり前だ!!」


 自分より遥かに年下の子ども達におだてられて得意になっている師匠を無視して、エミリちゃん達の様子を観察する。

 二人共目立った外傷などはなく、大きく魔力が減っているという様子も無さそうね。手を抜いたと言うよりは、全力を出す必要が無かったと見るべきかしら。


 その答え合わせと言わんばかりに、少し遅れて入って来たカースド・イーグル――メイナードだったかしら。彼が何も言わずにこちらを見ていることから、恐らくは私が懸念していたことは起きなかったようね。


「メイナードだったかしら。もう制圧済みということでいいのね?」


『あぁ。今は亜人軍が手分けをして残党狩りをしつつ、主が隠されていないか確認を進めている』


「そう。なら先に進むわよ」


「よーしちびちゃん達、あたしに続けぇ!!」


「「わー!!」」


 ……師匠、意外と子どもの扱いに慣れてるのね。

 見たことがない側面に驚きつつ、その背中に続いていくと、廊下の向こう側から誰かが走ってくるのが見えた。


「あれは……」


「シルヴィか!?」


 師匠の言う通り、綺麗に飾られた王女の服を身に着けてはいるけれども、あの顔はシルヴィだった。

 だけど、何故こんなところに逃げてきているのかしら。と疑問を感じていると、彼女が走る背後から魔術による爆発が発生した。


「きゃあ!?」


 爆発に煽られて転倒するシルヴィが、私達とプラーナの間に挟まれる。

 するとシルヴィは、私達が助けに来たことを察したらしく、驚きと安堵の声を上げた。


「え、エルフォニアさん!? それにエミリ達も! 私を助けに来てくださったのですか!?」


「あぁ、そう――」


「その問いに応じてはなりません!!」


 奥の方からプラーナの鋭い指示が飛び、師匠がハッとした表情で言葉を中断するも、それは既に手遅れの様だった。

 突然師匠が頭を押さえ始め、まるで痛みをこらえるかのように呻き始めた。


「ネフェリさん……? どうしたのですか? エルフォニアさん、ネフェリさんは――きゃあ!?」


 このシルヴィは偽物。

 そう判断して牽制の攻撃を加えようとした私だったけれども、それよりも先に動いたのは、最もそれに縁遠い人物だった。


「やめて。お姉ちゃんの声で喋らないで」


「エミ、リ……? 一体、何を……きゃああああ!?」


 エミリちゃんが魔法で作り出した爪で、シルヴィの眼前を深く切り裂く。

 その隣に立ち並んだティファニーちゃんが、光属性の初級魔法――シャインブラストを、躊躇なくシルヴィに向かって撃ち込んだ。

 その攻撃が直撃したシルヴィは、苦しそうに顔を歪めながら二人を見上げると、今にも泣き出しそうな声で問いかける。


「どうしたのですか二人共……? 私のことが、分からないのですか……? 私です、シルヴィですよ?」


 その言葉に、エミリちゃんが小さく歯ぎしりをしたかと思うと、爪で床を切り裂いて彼女を宙に放り投げた。

 受け身も取れないまま落下し、咳き込むシルヴィに向かって、エミリちゃんは聞いたことの無いほどに冷たい声で言い放った。


「お姉ちゃんはそんなこと言わない。ただ逃げるだけなんてことは絶対にしないし、誰かに助けを求めることもしないの。お姉ちゃんは、強くて優しくて格好良くて、わたし達を護ってくれるお姉ちゃんなの」


「貴女からはお母様の魔力を感じません。それと、お母様が使っている香水は、ティファニーがプレゼントしたものなのです。お母様の真似をするのであれば、もっとお母様のことを知ってからにしてください」


 ついさっき、自分の匂いを嗅がれて恥じらっていた子の発言とは思えないわね。と小さく苦笑し、私自身も影の剣を創り出す。

 私達を騙すことができない。そう判断したシルヴィは悔しさに顔を歪めると、プラーナの方へと駆けだしていく。


「あ、逃げた!!」


「追いましょうエミリ!!」


「うん!」


「下がりなさい」


「え?」


 その姿を追おうとした二人の前に割って入り、剣を素早く構える。

 その直後、とても踏ん張れないほどの衝撃が私を襲い、エミリちゃん達共々吹き飛ばされてしまった。


 後ろの二人をメイナードが受け止めたのを尻目で見ながら受け身を取り、()()()()()()()()()()を睨みつける。


「……なるほど。さっきので洗脳に掛かった、という訳ね」


 師匠の目は虚ろで、魔力の制御が雑になっているわ。我が師匠ながら、情けの無いこと。

 溢れ出す師匠の魔力と圧にエミリちゃん達が怯えるのを感じつつ、剣を構えなおす。


「エミリちゃん、ティファニーちゃん。ここは私が引き受けるわ。メイナードと一緒に、あのシルヴィを追いかけなさい」


「うん、分かった」


「その必要はありません」


 遠くから聞こえて来たプラーナの声に顔を戻すと、ハールマナで放って来たあの光線を師匠に打ち込み始めていた。

 光線を刀で防ぎ続けている師匠越しに、プラーナが言葉を続ける。


「この場は私が引き受けます。彼女に掛けられた洗脳は、私の部下達に使われたものと同一です。それならば、対策ができている私の方が有利かと」


「……長年、この人の剣技を見続けていた私がやった方が早いとは思わないのかしら」


「それも一理あるでしょう。ですが、この作戦において私が為すべきことは、最終目標であるシルヴィの奪還ではなく、王城内の制圧です。奪還の任を託されているのは、あなた方でしょう?」


 あくまでも作戦通りに、ということね。

 この女の戦力で師匠を抑えられるかは分からないけれども、そこまで言うと言う事は確証でもあるに違いないわ。


 アイツを信用するようで(しゃく)だけれど、ここはアイツに任せることにする。


「行くわよエミリちゃん、ティファニーちゃん。私が先陣を切るから、絶対に影から出ないように追いかけて」


「う、うん!」「分かりました!」


「メイナード、後ろは任せるわよ」


『あぁ』


 私は羽のように影を伸ばし、エミリちゃん達を覆い隠しながら、交戦している横を駆け抜ける。

 途中、何度か師匠の剣閃や弾かれた光線が当たったけれども、直撃が無かったのは幸いと言ったところかしら。

 ……いえ、違うわね。アイツが戦いながら、私達がこの場から離れられるように誘導し続けていたんだわ。


 小さく舌打ちをし、何も言わずに横を通り抜けようとした私に、プラーナが静かに言う。


「恐らくシルヴィは、王城の中心部である玉座の間に逃げ込んだはずです。そちらには偽の王族も構えていると予測されます。ご武運を」


「……えぇ」


 そのまま駆け抜け、螺旋階段へと向かう。

 プラーナの言っていた予測が正しければ、シルヴィが囚われているとされている大聖堂に先に向かったとしても、帰り道でどうしてもそこを経由しなければならない。

 万全ではないシルヴィを連れたまま戦うのは得策ではない。となれば、先に潰しておく方が賢明なのかもしれないわ。


「先に玉座の間に向かうわ。戦闘になるはずだから、二人はメイナードから離れないようにしなさい」


「わかった!」「かしこまりました!」


『何なら、貴様も守ってやってもいいのだが?』


「冗談を言わないで頂戴。私はその子達やレナなんかよりも遥かに強いのよ?」


『ほぅ。ならば、お手並み拝見と行こう』


 ……高位種族は、どうしてこうも上から目線なのかしら。

 こんなのの相手をさせられているシルヴィには悪いけれども、私生活で関わり合いになりたくないわね。

 そんなくだらないことを考えながら、私達は玉座の間を目指して駆けあがっていった。

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