10話 魔女様はお店の手伝いをする
開店サービスで魔女様が兎人族の格好してくれてるぞ! という話があっという間に森を駆け巡り、私見たさで客席が埋まってしまうほどの大混雑でしたが、なんとか午前中を乗り越えた私は、もうやることは無いだろうと思っていました。
しかしその考えは甘く、災難と言うのはいついかなる時でも襲ってくるものだと痛感したのは、それから四日後のお昼過ぎの出来事でした。
「お姉ちゃん、うさぎさん達が来たよ!」
エミリに呼ばれて待合室へと向かうと、仲間に支えられながらぐったりとしているペルラさんの姿がありました。彼女は非常に顔色が悪く、汗の量も凄いことになっています。
「ど、どうしたのですかペルラさん!?」
「分かんないの! 朝は元気だったんだけど、途中で倒れちゃって……!」
「体も熱いし、ずっと苦しそうなの!」
ペルラさんの体を預かって奥のベッドへと運び、熱を診ようと額に触れると、お風呂の湯を触ったのかと思うくらい熱くなっていました。
急いで服を脱がして、何が原因か魔法を通して確認していくことにします。しかし、全身を確認したはずですがこれと言った異常が見当たりません。
魔獣による毒素が原因ではないとなると、あとは何でしょう……。
辛そうなペルラさんの顔を見ると、大玉の汗が通る目元のすぐ下に、黒い染みのようなものが出来ていることに気が付きました。
私はひとつの可能性を確かめるべく、付き添いの子に確認を取ります。
「あの、皆さんに聞きたいことがあるのですが、ペルラさんと同室の方はいますか?」
「私が一緒だよ」
「ペルラさん、夜はしっかり寝ていましたか?」
「うーん、私いつもペルラちゃんより先に寝ちゃうから分からないけど……。あ、でも朝起きると机に向かって寝てることは多かったかも!」
やはり、ペルラさんは夜遅くまで何かをしていたのでしょう。でなければ、こんなに大きなクマは出来ません。
続けて、日頃のペルラさんの行動について聞くことにします。
「では次ですが、ペルラさんはお店が開いている間、何を担当していましたか?」
「えっと、配膳とお酌とお話と、歌とダンス、あとお会計もやってたっけ?」
「うんうん、あと時々厨房の方も手伝ってくれてた!」
「普段は皆さんもそれくらい担当されるのですか?」
「ううん。配膳する人はお酌とお話もやるけど、ラヴィムーンとして動く人とは別だよ。いっぱいやろうとすると頭ぐちゃぐちゃになっちゃうから」
そこまでのお話を頭の中で整理し、ペルラさんの症状について特定ができました。
彼女は間違いなく、過労です。リーダーだからと一人で背負い込もうとした結果、体が無理を訴えて倒れてしまったのでしょう。
私はエミリが持ってきてくれた濡れタオルでペルラさんの顔を拭き、額の上で少しでも冷やせるように置いてあげます。
「分かりました。これは私の治癒魔法ではどうにもならないので、今日はペルラさんはここでお休みさせてあげてください」
「シルヴィちゃんの魔法じゃ治らないって、ペルラちゃん死んじゃうの!?」
「いえいえ、そういう意味ではありません。私が治せるのは体が負った傷や状態異常なのですが、肉体に蓄積した疲れによる発熱は治せないのです。こういった症状というのは、体がこれ以上は無理ですと泣いているサインなので、魔法で無理やり直そうとすると余計に悪化してしまうのです」
そこで一度言葉を区切り、ペルラさんの頭を撫でながら二人へお願いをします。
「ペルラさんは少し頑張りすぎてしまったみたいなので、今日はゆっくり休ませてあげてください。一晩ぐっすりと眠ればだいぶ落ち着きますから。この後はちょっと大変かもしれませんが、ペルラさん抜きで営業を続けられますか?」
私からのお願いに、二人は顔を見合わせて悩み始めます。やはりペルラさんに負担が集中してしまっていた分、彼女が抜けることによって回らなくなってしまうのでしょう。
そこへ、お酒の仕込みを終えたらしいシリア様とフローリア様が姿を見せました。話も大まかには聞こえていたようで、シリア様が私に提案します。
『ならばシルヴィよ、ちと手伝ってやってはどうじゃ』
「それは構いませんが、また診療所を空けてしまうことに……」
『なに、簡単な治癒程度ならば猫の姿でもできる。ポーションで誤魔化せるならば、この花畑頭でも売ること程度はできよう』
「まっかせなさい! 確かポーションを森の人に売る時は、半額で良かったのよね?」
「はい、合っています。……では、少しだけお願いしても良いでしょうか?」
『構わんよ。ついでにこ奴らに、役割分担の重要性も説いて来い。あ、じゃが夕飯までには戻ってくるのじゃぞ?』
「ふふ。分かりました、それでは行ってきますね。シリア様、フローリア様。ペルラさんをお願いします」
「頑張ってね、シルヴィちゃん!」
お二人に後を任せ、この前頂いた着替えを亜空間から取り出した私は、兎人族の子達と一緒に酒場の方へと向かうことにしました。
 




