901話 王都制圧戦・1 【レオノーラ視点】
……シリアから合図が出ましたわね。
ここからは一手たりともミスが許されない場面。気合いを入れて参りますわよ!!
「先遣部隊、疑似神創兵器を起動なさい!!」
「「はっ!!」」
私の指示に従い、シリアから預かっていた疑似神創兵器が結界に取り付けられます。
一瞬だけ、防護結界にノイズが走ったかと思った次の瞬間、取り付けられた箇所から大規模な爆発と共に、防護結界にヒビが入っていきました。
ヒビが入った結界は徐々に崩落し、ガラスが割れるようなけたたましい音を奏でながら砕けていきます。
その割れた結界が金色の光の粒子となりながら消えていく様は、思わず見とれてしまいそうになるほどですわ。
「結界の崩壊を確認! 魔王様、ご指示を!!」
「えぇ。全軍、突撃ッ!! 私に続きなさい!!!」
闇魔法で作り出した槍を弄び、王たる私が先陣を切ります。
それに続き、全軍が雄叫びを上げながら進軍を開始しました。
まずは大通り。一番数が多くて、かつ見通しのいい場所を制圧しますわよ!
「はあああああああああっ!!!」
人間に擬態している死神兵達に肉薄し、喉元を一突き。
引き抜きざまに右に大きく払い、胴ががら空きだった兵達を薙ぎ払います。
そのまま槍を地面に突き立て、高く飛び上がると同時に、私がいた場所に剣が振り下ろされました。
「ふふっ、その程度の攻撃が当たると思われては困りますわよ!」
その雑魚の処理は部下に任せ、屋根の上で魔法を構えていた兵目掛けて槍を放ちます。
寸分違わず眉間を貫いた槍を即座に手元に出現させ、体の前で円を描くように回転させると、こちらへ飛来していた多数の矢がそれに阻まれて落ちて行きました。
屋根上は、ざっと二百くらいですわね。
範囲魔法で殲滅するのも悪くはありませんけれども、地上にいる味方へ誤爆してしまうのだけは避けなければなりません。
であれば、力の出し惜しみなんてしてられる状況ではありませんわ!
追撃で飛来してくる炎弾を影に姿を溶かすことで躱し、それを放って来た兵の影に転移します。
こちらを振り向いた時には上半身と下半身がお別れしておりますが、その奥にいる兵にも同じ手法を取らせていただきましょうか。
秒間で五人ずつ仕留めて回っていると、第三部隊からの掩護射撃ならぬ、援護魔法が飛来してきました。
良い判断ですわね。流石は高給取り達ですわ!
「ミナ! ミオ! そちらは任せますわよ!!」
「お任せください、魔王様!」
「はいは~い、魔王様はもっと奥へどうぞ~!」
大きく跳躍して距離を稼ぐと、前方から大きな魔力の反応を感じ取りました。
なるほど。兵力が有限になったのであれば、ひとつにまとめてより強固なものにすると言うことですわね。
全長、およそ十メートルほどと言ったところでしょうか。何ともまぁ、禍々しく嫌な魔力ですこと。
ですが――!
「私達の敵ではございませんわ!」「うちらの敵と違うな!」
やや強化した槍で顔面を貫くと、追いついたシュタールが目にも止まらぬ剣技で巨大化した死神を斬り刻みました。
さながら玩具のダルマ落としのように崩れて行くその巨体を尻目に、シュタールと駆け続けます。
「シュタール、あとどれほどでして?」
「まだ三十秒しか経ってへんで。心配せんと、前だけ見とき!」
「それもそうですわ――ねっ!!」
クルリと体を回して矛先を躱し、返しの一撃に全体重を乗せて叩きつけます。
そのまま近くにいた兵を二体貫きながら前方を確認するも、先が見えないくらいに押し寄せていることしか分かりません。
この密度なら、シュタールに任せた方が早いかもしれませんわね。
「シュタール、五十メートル前方に飛びなさい!!」
「あいよ!!」
「降り注げ、フォーリング・シャドウ!!」
天空に向かって槍を投げ、指定した場所に複製した槍を落下させます。
その衝撃で若干空いた地面にシュタールが着地し、居合の構えを取り。
「マガミ流、奥義――百花繚乱!!」
下から大きく振り抜いた次の瞬間、無数の剣閃が周囲の兵達を斬り裂きました。
その剣閃は蕾が花開くかのように大きく広がっていき、瞬く間に押し寄せていた兵達を斬り捨てます。
魔法が使えないが故に、血が滲む努力でのし上がって来たその実力は、やはる目を見張るものがありますわね。時代が時代なら、一国の王として君臨してもおかしくない剣捌きですわ。
まぁ、この私がいる限りは、そのような時代は訪れないのですけれども!
「流石はシュタールですわ。続けて参りますわよ!!」
「はぁ~、いけずやわぁレオノーラ。もっと褒めてくれてもええやないの」
「では、この戦いが終わったら褒賞金を出しますわ。まずは一か月分でよろしくて?」
「おっはぁ~!! 上がって来たぁ!! どんどん見せたるさかい、よう見ときや!!」
喜び勇んで敵陣へ突っ込んでいくシュタール。
少々振舞いすぎかもしれないですわねと小さく笑い、私も後に続きます。
……しかし、もう少し手こずるかと思っておりましたけど、案外雑兵しかおりませんのね。
やはり王城と塔に兵力を回していたのでしょうか。などと思案していると、遠くから薄っすらと悲鳴が上がったのが聞こえてきました。
「あっちの方角……確か勇者達がいるはずですわね」
「ほな、ここはうちが押さえたる! あんたは急いで駆け付けたって!」
「えぇ、任せましたわ!!」
近くにいた兵の顔に回し蹴りをお見舞いし、前線を離脱します。
仮にもシリアから手ほどきを受けていたはずの勇者が悲鳴を上げるなど情けない……と、開口一番で苦言のひとつでも言おうかと考えておりましたが、そこにいた人物を見た瞬間、そんな考えはどこかへと吹き飛んでいきました。
「ま、魔王!! 助かった!!」
「まさか、単騎でこんなところに出てくるとは思いませんでしたわよ……ソラリア」
既にボロボロの状態になっている勇者一行の前には、悠然と構えているソラリアの姿があったのですから。




