900話 ご先祖様は号令をかける 【シリア視点】
士気も十二分に高まったところで、各々が配置に着く。
やがて、各部隊の隊長からマジックウィンドウ越しに準備完了の連絡が届いた。
『こちら魔王軍。いつでも仕掛けられますわ』
レオノーラの背後には、奴の懐刀であるクローダスとシュタール、そしてゲイルが控えている。
剣を地面に突き刺しているコレットの横で、リィンが何かを口にしてコレットを赤面しておるが、まぁ問題ないじゃろう。
『人間軍、いつでも行けます!』
セイジを代表とする画面には、やや緊張した面持ちのサーヤとアンジュ、メノウが。
その隣で、何やらくだらん口喧嘩をしておるアーノルドとテオドラがいて、それを呆れながら見ているのがシュウとユニカじゃな。あ奴らはほんに緊張感と言う物に欠けるな。
まぁこっちには雑魚処理が得意なエリアンテを付けておる。何とかなるじゃろう。
『シリア様。亜人軍もいつでも行けるわ』
エルフォニアの報告に視線を移すと、直後にネフェリがエルフォニアの肩に腕を回してピースサインを作っておった。
その隣ではエミリとティファニーが大きく手を振っており、メイナードが静かに瞳を閉じて待機しておる。
さらに奥では獣人族が肉体美を披露し、それに手を叩いて笑っているハイエルフ共と、若干引いている植妖族の姿も見えた。
……ちと過剰戦力にも見えなくはないが、王城内で何が待ち受けているかが分からぬ以上、保険を掛けておくに越したことは無いじゃろう。
『イースベリカ騎士軍、あと五分もあれば目的地点に到着できます』
そう言いながら馬を走らせているラティスの背後には、数千の騎士が続いている。
これほどまでの大規模な進軍となれば国家戦争レベルじゃが、それを容易く御してみせるあ奴の手腕は流石と言えよう。
『魔導連合軍、ポイントに到着しました。いつでも行けます、先生』
『魔導連合軍補給部隊、準備が整いましたわ。ご指示をどうぞ』
本陣のトゥナに続き、補給部隊のセリが声を揃える。
こちらもトゥナの横で笑っておるヘルガがいたが、即座に脇腹を殴られて悶えておった。
その様子を後ろで笑っているフローリアの阿呆がおるが、レナの頭の上に己の頭を置くように抱いている貴様も大概じゃぞ?
『魔術師部隊、同じく現着です。開戦の合図を待ちます』
最後に、プラーナ率いる魔術師部隊が報告を寄こす。
魔法には最大火力こそ敵わないものの、あ奴らの最大の強みは継戦力にある。
魔力切れという概念を持たぬ魔術は、戦線を維持するという点においては魔法にも引けを取らん脅威になるじゃろう。
さらに、妾とユリアナで共同開発した錬金術の道具や、物理戦闘に特化しているライゼットなどもおるのじゃ。そうそう劣勢にはならんじゃろう。
いずれも、ソラリアがどこに出てこようとも万全に程度戦える戦力を有しておる。
あとは出たとこ勝負とはなるが、こ奴らを信頼できん妾でもない。
全てをぶつけ、この歪んだ世界を在るべき形へ戻す。ただそれだけじゃ。
そうこうしている内に、ラティスのイースベリカ騎士軍が指定の座標に到着した。
その連絡を受け、妾自身も転移でトゥナ達のいる魔導連合本陣へと移動する。
「まもなく開戦となる。皆の者、準備は良いな?」
妾の問いかけに、全員が静かに頷く。
手元のウィズナビで時間を確認し、最終確認のために時刻を読み上げる。
「現在の時刻は八時五七分。九時になった瞬間、総員行動を起こせ。一糸乱れぬ統率で、有象無象の死神兵共を手早く殲滅せよ。以上」
短く最終確認を終え、全員の精神統一の時間を設けてやる。
眼前で妾達を拒んでいる、シルヴィの守護結界を見上げながら、妾はこれまでのことを振り返る。
シルヴィが奪われてから最初の一か月は、とにかくもどかしかった。
あの結界を打ち破る術を持たぬ妾達は、陰に身を潜めながら潜入を続け、終始情報収集に徹さざるを得んかった。
魔道具の設計と開発を繰り返しては没とし、さらに改良を重ねる妾を恐れていた者がいたが、確かにあの時は鬼気迫るものがあったじゃろう。それほどまでに、シルヴィを奪われなくてはならなかったという事実に腹が立っていたな。
じゃが、二か月目に入ってからは、目に見えて進捗がある日々じゃった。
レナの安否確認が取れ、異世界の神シーラ様と連携を取りながら、少しずつレナに記憶を取り戻させていく傍らで、シルヴィとソラリアを繋ぐ重要な接点を知ることにも成功した。
そこからは流れ出した激流のように、全てが目まぐるしく動いていった。
クーデターを起こし、王城内部の兵の配置を確認し、おおよその戦力の目算をつけると同時に、ソラリアへ魔力供給を行っていた魔導石を奪い、シルヴィを一度目覚めさせることにも成功した。
あれ以来、王都を徘徊する死神兵の数は減り、王城内の反応も減少しておる。
こうして万全の状態で挑めると言うのも、あの時目覚めたシルヴィによる干渉で、兵力を補充できなくなったことが何よりも大きいじゃろう。
ほんにあ奴は、重要なところできっちりと仕事はこなす奴じゃよ。
先祖である妾も、鼻が高いと言う物じゃ。
その他にも、唯一の懸念事項であったエルフォニアの目覚めとレナの帰還という戦力補充も達成した妾達に、負ける要素なぞ一つも無い。
今ここで、貴様の復讐劇に終止符を打たせてもらうぞ、ソラリアよ。
妾自身の覚悟を決め直すと同時に、ウィズナビが小さく震えた。
「……作戦開始じゃ!! 行くぞ!!!」




