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899話 ご先祖様は鼓舞する 【シリア視点】

 あれから遅れて起きて来た我が家の面々や、エルフォニアを始めとした朝の弱い組も朝食を食べ終え、各自の準備を整えた妾達は、魔導連合の正門前に集合していた。

 魔導連合に所属している魔女に加え、先の決戦で妾達に協力を申し出て来た魔術師の総数は数千に上る。


 戦とは、時に数が物を言う。

 一個人の力は非力ながらも、これほどの数が揃えばかなりの脅威となろう。

 ましてや、この戦は魔女と魔術師のみに留まらない。

 シルヴィを慕う魔王が率いる、魔族の軍勢。

 勇者に祀り上げられていた冒険者らが率いる、人間の軍勢。

 ラティスが率いる、イースベリカの精鋭騎士。

 一万を優に超えるそれらがいっぺんに王都を襲撃するともなれば、いくらシルヴィの守護があろうとも容易く崩せよう。


 風属性の拡声魔法を用いて、妾は集まっている面々、そしてマジックウィンドウ越しにこれを見ている他の連中に点呼を行う。


「総員、良く聞け! これより行う戦は、世界の運命を決める最終決戦じゃ! 各部隊が失態を犯せば、それは他の部隊の足を引っ張り、戦線の崩壊を招く! 数が多いからと気を緩めるな! 貴様ら全員の双肩に、この世界の行く末が委ねられていると思え!!」


「「はい!!!」」


「では改めて、本作戦の最終確認を行う!! 総員、心して聞け!!」


 そこで一度言葉を切り、妾の背後に巨大なマジックウィンドウを表示させた。

 そこでこれからの動きを映し出しながら、妾は確認を進める。


「まずは魔王軍からじゃ! 既に最前線に配置されている者共の合図を皮切りに、王都を守護するシルヴィの守護結界を一時的に封じ込める! その結界が焼失したと同時に、全軍で王都の防衛にあたる死神兵共を殲滅せよ!!」


『はっ!!』


「魔王軍の進軍が始まったら、次は人間軍じゃ! これまでに確認を進めた地下水路で待機し、進軍と同時に死神兵共を奇襲せよ! 奇襲に成功した次は、魔王軍と共に王城までのルートを確保じゃ!! このフェーズまでの制限時間は、当然頭に入っておろうな!?」


 妾の問いかけに、マジックウィンドウ越しにセイジが手を挙げて答える。


『五分です!!』


「そうじゃ! ワガママな魔王がシルヴィを傷付けたくないからと無茶な作戦を立案した結果、貴様らに与えられた時間はたったの五分じゃ!! じゃが、貴様らはその五分で最大の効率を叩きだしながらルートを確保せねばならない! それが先鋒たる貴様らの役割じゃ! 分かったら返事!!」


『『はっ!!!』』


「うむ! では続けるぞ! 王城までのルートが確保できたら、次は魔術軍と亜人軍の手番じゃ! 王城内は特に守りが厚く、容易くシルヴィに近づけさせぬようにと死神兵の中でも腕の立つ者が配置されているはずじゃ! それを打ち砕くのが貴様らの役割じゃ! 各員、気合いを入れて臨め!!」


「「はいっ!!」」


「じゃが、くれぐれも建物の崩壊は引き起こすでないぞ!! 王城の崩落は進軍に大きく影響する! やや手狭な環境での戦闘となるが、必ず自分が有利に立てる状況で戦闘を運べ! 良いな!?」


「「はいっ!!」」


「して、魔導連合の第二部隊は、確保したルートを奪われんよう立ち回れ! 中に入ったが最後、出るところを数で叩かれては本末転倒じゃ!! 必ず仲間の撤退ルートを死守せよ!!」


「「はいっ!!!」」


 王城攻略の手順は、概ねこの手筈じゃ。

 あとはここに、ネフェリやリィンを始めとした強力な魔女を送り込み、シルヴィ奪還を狙う。

 して、もう一つ最大の障害がある訳じゃが。


「最後に、塔の攻略じゃ! 恐らく、王城以上に守りが硬いじゃろう。これは魔導連合の本軍とイースベリカ騎士軍で掃討にあたる! 塔の目標はただ一つ!! 世界を歪ませた元凶であり、この世界に終焉を招かんとしているソラリアの討伐じゃ!! これには妾を始め、中核を担う魔女も投入する!! 何としてでもかの悪神を討て!!」


「「はっ!!」」


 塔に引きこもっているであろうソラリアの討伐じゃが、シルヴィを奪われんために王城へ移動してくる可能性も高い。

 故に、すぐに駆け付けられるようにと転移魔法の魔道具も準備済みじゃ。


 固有結界に隔離された場合。亜空間トラップが仕掛けられていた場合。

 ありとあらゆるリスクに対応できるように組んだ布陣を、そう易々とは崩せまい。


 締めの言葉を口にしようとして、妾は大切なことを命じるのを忘れていたことに気が付いた。

 これまでの士気を上げるための口調から一変させ、静かに、それでいて力強いものへと変える。


「最後に、貴様ら全員に命ずる」


 口調と雰囲気を変えた妾に、全員の視線が集まる。

 シンとした静けさの中、妾は言葉を続けた。


「貴様ら全員が作戦を遂行することが最優先ではあるが、そのために命を投げ打つことは許さん。死を称えることはできるが、死者と酒を交わすことは出来んからな」


 妾はそこで言葉を切り、亜空間収納を大きく開いてみせる。

 その中に格納されている大量の酒樽を見せつけながら、声高々に言う。


「今宵のために、城一つ買えるほどの酒を用意してやった!! 無論、安酒などではなく全て妾の特製品じゃ!! これを口にせずに死ぬなぞ勿体ないぞ!? そうじゃろう!?」


 一瞬の間を置き、ありとあらゆる方向から大気を震わせるほどの歓声が上がった。

 調子のいい奴が「シリア! シリア!」と名を呼び始め、次第にそれが全員へと伝播していく。

 くふふ! 良い良い、これぞ最高の士気の上げ方と言う物じゃ!!


「ひと瓶で白金貨二枚は下らん最高級の酒じゃ!! 浴びるほど飲みたければ、必ず生きて帰ってこい!! 良いな!?」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」


 大歓声の中、大衆に手を振りながら壇上を降りる妾に、ラティスが溜息を吐きながら言った。


「あなたと言う人は、こんな物を用意するためにクマを作って命を削っていたのですか?」


「なに、これは片手間で出来る余興のような物じゃよ。お主の分もたんまりと用意してあるからな」


「……あれほど豪語するのですから、味には自信があるのでしょうね?」


「無論じゃ。美味すぎて涙を流しても構わんぞ?」


 ラティスは小さく笑うと、強気の笑みを浮かべた。


「こう見えて私、お酒にはかなりうるさいのです。期待していますよ?」


「くはは! うむ、酒豪のお主を必ず唸らせてみせようぞ!」


 妾に頷き、ラティスは氷の転移門を召喚して姿を消した。

 ……全く、何が命を削ってじゃ。上手く化粧で隠してはいるが、お主こそ泣き腫らした目をしているではないか。

 じゃが、あの様子ならもう立ち直っていそうじゃな。


 リョウスケを(うしな)ったショックから立ち直り、一国の王として騎士を率いようとする姿に、妾はマジックウィンドウ越しに優しく微笑むのだった。

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