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895話 異世界人は帰還する・後編 【レナ視点】

 相変わらず薄暗い道だけど、今回は同じ土地の空間を繋いでいるだけじゃないせいか、何か宇宙を歩いているような錯覚を覚える光景が広がっている。

 足元に地面は無くて、無限に広がる星空がどこまでも落ちて行っているけど、その上を普通に歩けるのが不思議で仕方がない。


 あたしの持ってる常識では説明ができない不思議な力。それが魔法。

 あたしがこれから生きていく世界は、そういう力が常識の世界なんだ。


 出口に近づくにつれて、徐々に出口の光が強くなっていく。

 向こうではきっと、フローリアが今か今かと待ち侘びてそうだわ。

 エミリやティファニーも、遊び相手が減ったから寂しがってたかもしれない。

 そういう意味なら、メイナードももしかしたら寂しがってるのかな?

 ……いや、アイツに限ってそんなことは無いわよね。帰ったら帰ったで、『ふん、ようやく帰って来たか小娘』とか言いそう。うわ、何か想像しただけでイラッて来た。


 あとは、やっぱりシリアかな。

 何だかんだかなり面倒見てくれてるし、あたしのことも気にかけてくれてたから、心配かけてそう。

 そう考えると、このお土産はシリアに多めに渡すべきよね。フローリアはいつだって遊びに行けるんだから、少なくてもいいでしょ。


 そして、シルヴィ。

 あの子にも絶対に食べてもらいたいし、久しぶりの故郷の話もしたい。

 何よりも、当初の計画通りならソラリアに捕まってるはずだから、あたし以上にキツイはず。

 早くシルヴィを助けて、元の生活を取り戻さないとね。


 そんなことを考えながら出口の光を抜けると、そこは夕焼けに染まった空の下で、花々が綺麗に咲き誇っている場所だった。

 ここはどこだろう……と思った瞬間。


「レナちゃ~~~~~~~ん!!!」


「うわぁっ!?」


 凄まじい勢いで、誰かに飛びつかれた!

 花畑の上をゴロゴロと転がり、飛びついてきた正体を確認するべく目を開けると、そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしているフローリアの姿があった。


「レナちゃんレナちゃんレナちゃん!! レナちゃああああん!! うわあああああん、やっと会えたああああああ!!!」


「ちょ、ちょっとフローリア! 苦しい! 苦しいって!!」


「もう会えないかと思っちゃったああああ!! 寂しかったわあああああ!!」


 ぼろぼろと涙を零し、何なら鼻水まで垂らしているあたしの女神様は、よっぽどあたしに会えたのが嬉しかったのか、あたしの頬に自分の頬を擦り付けながら絶対に離れようとしない。

 これはもう気が済むまでやらせるしかないかなぁと苦笑していると、あたし達を覗き込むように懐かしい顔が見下ろしてきた。


「くふふ! 久しぶりの再会は随分と情熱的じゃのう、そうは思わんかレナよ」


「全くよ。もっとデリケートに迎えて欲しかったわ」


「じゃが、満更でも無さそうな顔じゃぞ? お主も寂しかったのではないか?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるシリアに何て返してやろうと考えていると、フローリアの上に誰かが乗っかったような重さを二人分感じた。


「うっ!!」


「レナちゃああああん!! やっと帰って来たああああああ!!」


「レナ様レナ様!! おかえりなさいませーーー!!」


「お、重いって二人とも!! あたし今、体強化してないんだから潰れる……!!」


「「レナちゃあああああん!!」」「レナ様ああああああ!!」


「あーもう、離れなさいよおおおおお!!」


 久しぶりの家族の温かさは、骨が軋むような愛の温もりだった。

 絶対に離れようとしない三人を無理やり引き剥がし、涙を浮かべるほど笑っていたシリアに尋ねる。


「シリア、騎士団長さんどこか知らない?」


「騎士団長……もしやラティスのことか? あ奴なら確か、リョウスケの研究室にいるはずじゃぞ」


「じゃあちょっと、あたしも行ってくるわ。相葉さんから伝言を頼まれてるの」


「いや、それならばあ奴をこちらに呼び寄せた方が良いやも知れぬ。ちと待っておれ」


 シリアは手早くウィズナビを操作し、騎士団長さんに電話を掛ける。

 二言、三言だけ告げて電話を切ってから十秒もしないうちに、騎士団長さんが冷気の渦の中から姿を見せた。


「おかえりなさい、レナさん。リョウスケから伝言を預かっていると聞きましたが」


「あ、うん。何か騎士団長さん用のお土産を探すのに手間取ってるから、帰るのが遅くなるって。あとこれ、借りっぱなしだったらしいロケットペンダントと、お詫びの手紙だって」


「これは……」


 あたしから受け取ったそれを見ながら、騎士団長さんが大きく目を見開いた。

 その反応から、結構大事な物だったりするのかな? それを三カ月も持ち出されてたって考えれば、まぁ分からなくも無い反応かも。


 そんなことを考えながら、お詫びの手紙を読み始めた騎士団長さんを見守っていると。


「……レナさん。貴女が最後に見たリョウスケは、何かに満足した顔をしていましたか?」


 よく分からない質問を投げかけて来た。


「満足してたかどうかは分からないけど、なんかやたらとあたしに感謝してたわ。あー、でも言われてみればちょっとスッキリしたような顔だったかも?」


「そう、ですか」


 騎士団長さんはあたしの答えを受け、何も言わずに魔導連合の中に戻っていく。

 え、何か答え方悪かったかな……? と不安になっていたあたしに、シリアが声を掛けて来た。


「レナよ、あ奴のことは気にするな。今日はちと機嫌が悪くてな」


「そうなの? だとしたら、もうちょっと言い方を変えるべきだったわよね」


「いや、内容が内容じゃ。どうしようもあるまいて。それよりも、お主の調子の確認を先に進めたいのじゃが、体と魔力に違和感は無いか?」


 シリアにそう尋ねられ、あたしは改めて自分の体の調子を確認する。

 地球にいた頃に比べて、やっぱりと言うか何と言うか、体が凄く軽い気がする。

 試しに魔力を練り上げてみると、それは期待通りにあたしの全身を駆け巡って温めてくれた。


「うん、大丈夫。心なしか、地球に戻る前より調子がいいかもしれないわ」


「そうか。あわや消える寸前であったが故に、魔力等に支障が出ている可能性を危惧していたが、その分ならば問題は無さそうじゃな」


「そうね。ホント梓とおばあちゃんには感謝しないと……。あ、そう言えばシリア。相葉さんって、実際あとどれくらいあっちに残れるの?」


 あたしがそう聞くと、何故かシリアは気まずそうな顔をしながら、あたしから顔を背けた。

 何その反応……と疑問を感じていると、それはシリアだけでは無かったらしく、フローリアもしゅんとした顔をしている。


「え、どういうこと? 何か問題でもあるの?」


「いや、何と言えばよいか……」


 珍しくシリアが言葉を探している。

 残された時間を聞いただけなのに、この反応をされるとちょっと不安になるじゃない。


 追加で二人の反応について聞いてみようとした矢先、フローリアが口を開いた。


「あのねレナちゃん。どうか落ち着いて聞いてほしいんだけどね?」


「うん」


「リョウスケくんは、レナちゃんをこっちに戻すために命を使ったの。だから、あの子はもういないのよ」


「……え?」


 フローリアが口にした言葉の意味が分からない。

 いや、分かっているけど脳が理解を拒もうとしている。


 あたしを帰すために、命を使った?

 命を使うって、まさか……え、違うわよね?


「ねぇ、フローリア」


 勝手に振るえる声で、否定してほしくて質問する。


「相葉さんがいないって、こっちにはいないってだけよね? だってあたし、相葉さんとまた話すって約束して――」


 だけど現実は、どこまでも厳しくて、残酷で。


「ううん。言葉通りの意味よ。相葉亮介くんは、自分の命と引き換えに、異世界を繋ぐ門に足りない魔力を補って消滅したの」


 あたしの頭を真っ白にするには、十分すぎるほどだった。

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