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890話 おばあちゃんは隠してた 【レナ視点】

 お昼ご飯を満喫し終えたあたし達は、縁側であたしの小さい頃のアルバムを見ながらゆったりとした時間を過ごしていた。


「あ、見てこれ! 恋奈(れな)ちっちゃ!! 扇持ってるの可愛い~!!」


「その頃は恋奈も、舞いの練習を頑張っていたからねぇ」


「へぇ~! あ、もしかしてこっちはおばあちゃん? すご、全然変わってない!」


「年寄りなんて、子どものそれに比べたら全く変化が無いもんだよ」


「でもおばあちゃん、この頃からめっちゃ美人じゃん! 変わらぬ美貌!」


「あっはっは! お世辞を言っても何にも出ないよ!」


 楽しそうに笑う二人の間で、あたしはどことなく気恥ずかしさを感じながらアルバムを捲る。

 それにしても、小さい頃のあたし可愛いなぁ。これなんて、おばあちゃんの膝の上でピースしながら柏餅食べてるし、こっちなんておばあちゃん家にいた犬を枕にして、お腹出して気持ちよさそうに寝てるし。


 こんな事もあったっけ……と懐かしんでると、次のページを捲った瞬間にあたしの手が止まった。


「ん? 恋奈どうしたの?」


「あ、いや……」


「ん~? あっ、これもしかして恋奈のお父さんとお母さん?」


 (あずさ)の指先に写っているのは、小さいあたしと同じ舞いの構えをしている両親の姿だった。

 相変わらず仏頂面で常に機嫌が悪そうな父親と、あたしと目元がそっくりで得意げな顔をしている母親。


 この頃はまだ、あたしに期待してくれてたのよね。

 この頃は、まだ……。


『恋奈! 何故こんなこともできない!?』

『どうしてあんたはそうなの!? 椿(つばき)はとっくにできるのよ!?』

『お前は花園(はなぞの)の恥晒しだ!』

『あんたなんて生まなければ良かった!!』

『お前はもう、舞わなくていい』

『花園の舞は椿にだけ教えるわ。あんたはもう、何もしないで』


「……っ」


 嫌な思い出が掘り返され、一気に気分が悪くなる。

 それをいち早く察したおばあちゃんが、あたしの背中を軽く叩きながら言った。


「恋奈。二階の私の書斎に、もう一冊アルバムがあるのを忘れてたから、それを取ってきてくれるかい? そっちの方が可愛い恋奈がいるからね」


「おばあちゃん……。うん、取ってくる」


「急いでないから、ゆっくり探してきな」


 また、気を使われちゃったな。

 おばあちゃんの優しさに感謝しつつ、あたしは二階へ向かうことにした。





 おばあちゃんの書斎で気持ちを落ち着かせて戻ってくると、まだ縁側でアルバムを見ていた梓があたしに気が付いた。


「あ、恋奈……。その、ごめんね。私、ちょっと無遠慮過ぎた」


「ううん、気にしないで。あたしがいつまでも引きずってるだけだから」


「そりゃあ、あんなことがあったら誰だって引きずるって」


 あんなこと、っていう事はおばあちゃんからも聞いたのね。

 なら隠さなくてもいいか、とあたしは観念した。


「この前も話した通り、あたしは花園本家から捨てられたも同然なのよ。だから、あの親の顔を見るとどうしても……ね」


「恋奈……ごめん」


「ほらほら、いつまでもそんな顔してると、せっかくの桜だって枯れるだろう? 私が見たかったのはそんな顔じゃなくて、笑ってる顔だよ」


 おばあちゃんはそう言うと、あたしからアルバムをひょいと取り上げ、パラパラとページを捲り。


「ほら、これとか可愛いから見ておくれ」


「「……えぇっ!?」」


 フローリアとあたしが顔を寄せ合いながら、満面の笑顔でピースをしてる写真を見せて来た!!


「えっ、待って待って!? 何で!? 何でおばあちゃんがこの写真を持ってんの!?」


「何でって、そりゃあフローリアから貰ったからに決まってるだろう?」


「いやいやいや! あり得ないから!! え、ホントにどういう事!? 恋奈、知ってた!?」


「知らないわよ!! 何でおばあちゃんがフローリアのこと知ってんの!?」


「あっはっは! やっぱりあの子の言う通りだねぇ! 揃いも揃っていい反応だよ!!」


 困惑するあたし達とは対照的に、一人だけ心底楽しそうに笑うおばあちゃん。

 一体全体、どうなってんの? ってかこのアルバム、よく見たらあたしだけじゃなくて、おばあちゃんとフローリアのツーショットもあるじゃない!!


「おばあちゃんどういう事!?」


「どうもこうも無いさね。私とフローリアは、ただの友達だよ。恋奈が異世界に行った後、こうして時々遊びに来ては、恋奈の話をしてくれてたのさ」


「えっ……。待って、ホントに分からないんだけど。おばあちゃん、どこまで知ってんの?」


「どこまでと言うなら、最初から全部かねぇ。恋奈が異世界に行った時から、急に帰って来た時まで」


 あたしが異世界に行った時から!?

 全く予期していなかった事実に衝撃を受けていると、おばあちゃんは桜の大樹を指で示しながら言葉を続ける。


「その桜の大樹も、フローリアが育ててくれたんだよ」


「嘘!? え、だってあたしが生まれた時には、既に立派な木だったってお父さん達が!」


「だから、恋奈が生まれる前からフローリアとは友達なのさ」


 さも当然のように答えるおばあちゃんのことが、全く分からなくなってきた……。

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