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872話 異世界人は絡まれる 【レナ視点】

「熱海ぃ……キターーーーーー!!!」


 駅から出て早々、(あずさ)が両腕を大きくバンザイさせながらそう言った。


「やだ、白井(しらい)さんはしゃぎ過ぎじゃない?」


「そんな楽しみにしてたんだー?」


「楽しみだったよー! 熱海って言えば温泉! 温泉って響きの前に抗える人間なんていない――あ、ほら見て見て!? 足湯があるよ! 駅前で足湯って凄くない!? え、ちょっと入っていいかな!?」


「ダメに決まってんでしょ。ほら、バス移動があるんだから行くわよ」


「え~ん! 私の足湯体験がぁ~!!」


 ずるずると梓を引っ張っていくあたしを、同僚の子達が笑う。

 梓のバカが騒ぐせいでかなり視線を集めてるけど、その視線の中でも、あたしを見ながら「あんな子いましたっけ?」と隣の人に聞いている人が視界の端に映った。


「あの人、何回か助けてあげたことあったんだけどな」


「え、何?」


「何でもない」


 また落ち込みそうになる気持ちを抑え込み、梓を連れてバスに乗り込む。

 やがて全員が乗り込んだバスが向かった先は、海が見えるホテルだった。

 二人一部屋という仕様上、そんなに広い訳では無いけど、梓の興味を惹くには十分すぎたみたい。


「海だー!! ってか寒っ!?」


「当たり前でしょ! 何月だと思ってんのよ!?」


「はいっ! 二月ナメてました!!」


 嬉々として窓を開けて叫んだ梓だったけど、二月の潮風による手荒い歓迎を受け、即座に窓を閉めて暖房をつける。


「あぁ~……やっぱ暖房っていいわぁ……。文明の利器、最強……」


「ホント、行動が子ども過ぎよ。何歳だと思ってんの」


「気持ちは永遠に十七歳のJKだけど?」


「そんな色っぽいJKがいてたまるかっての」


「でもほら、恋奈(れな)だって異世界だと十二歳だったらしいじゃん? それに比べればイケそうじゃない?」


「あたしをロリだって言いたい訳!?」


「わー!? ストップストップ! 嘘、嘘だってぇ!! 暴力はんたーい!!」


 ベッドに押し倒されてマウントポジションを取られた梓は、両手をわたわたとさせながらそう叫ぶ。

 それが外に聞こえたらしく、部長が怒鳴ってくる声が聞こえて来た。


『うるさいぞ白井(しらい)!! 花園(はなぞの)!!』


「「すいません!!」」


『ったく、旅先だからとはしゃぎ過ぎだ! 他の利用客もいるんだからなぁ!』


『まぁまぁ部長、今日くらいは大目に見てあげましょうよ。旅先で怒るよりも、美味い物を食べながら酒を飲んだ方が楽しいですよ?』


 誰かが一緒にいるみたいで、そんなことを言いながら部長を遠ざけてくれる。

 あたし達は同時に息を吐き、顔を見合わせながら苦笑いをするのだった。





「んん~~~~!! うまっ!!」


「分かる! めっちゃ美味い!!」


「「和牛ステーキ、最強~~!!」」


 梓と仲がいい子が、梓と口を揃えて感想を述べる。

 そんな二人を見ながら、あたしはこうはなるまいとステーキを口にするけど。


「んぅ!? うっま!?」


「でしょー!? やばくない!?」


 当然ながら、和牛の強さに敵うはずもなく、はしたなく声を上げてしまった。

 ワイワイと騒ぎながらステーキを食べていると、ワインを飲み過ぎたのか、顔を真っ赤にして酔っぱらっている部長と付き添いの社員の男性がこっちに向かってきているのが見えた。

 ツーブロックを入れている黒のショートヘアのイケメンだけど、今まで社内で見たことが無い顔だと思う。


「うぉおおい、どうだぁ、食ってるかぁ?」


「食ってまーす!」


「はっははは! そうかそうか、美味いだろう~? この店はなぁ、私が選んだんだぞぉ? ひっく! 前に接待で使ったことがあってなぁ~……」


「部長、彼女達困ってますから。ごめんね、食事の邪魔をしちゃって」


「あ、いえ。部長の介護、お疲れ様です」


「誰が介護だぁ!? 花園ぉ、もう一回言ってみろぉ!!」


「あー、部長。今彼女が言いたかったのは、いつも僕の失敗をカバーしてくれる部長が、僕の介護をしてくれてるって意味ですよ。ね、花園さん」


「そ、そうです」


 話を合わせて欲しいと目で訴えてくる彼に同意すると、それに気を良くしたらしい部長が彼の背中をバシバシ叩きながら笑う。


「そういうことか! わっはははは! 気にすることは無いぞ(にしき)ぃ! 部下を守るのは、部長である私の役目だからなぁ!!」


「いてて、はは。いつも助かってます、部長」


 この人、錦さんって言うんだ。

 他の部署の人だと思うけど、部長の扱いが上手いし、付き合いが長いのかな。

 そんなことを考えていると、梓が錦さんに向けてこっそりウィンクしながら「ありがと」と口パクしてるのが見えた。


 それに頷いた錦さんは、部長を連れて元の席に戻ろうとする。


「行きましょう部長。まだ先ほどの部長の話の続きが聞きたいです」


「おっ、そうかぁ? ならもっと話してやるぞぉ。えーと、あれはなぁ……」


 遠ざかっていく後ろ姿を見送っていると、梓の友達の子が黄色い声を上げ始めた。


「きゃぁ~! 錦くん、ホント顔が良い! 助けてもらっちゃった~!」


「わっかるぅ! 錦くんめっちゃいい人だし、気取らないイケメンで良いよね~!」


「「ね~!!」」


「あたし初めて見たんだけど、どこの部署の人?」


 あたしの疑問に、梓の友達の子がぎょっとした表情を見せた。


「え!? 花園さん知らないの!? 営業部に新しく入った錦くん! あの顔と人当たりの良さでバンバン契約取ってる超ホープよ!?」


「営業の錦、営業の錦……。あぁー、最近やたらと新規開拓が順調な人が彼なんだ」


「っそ。まぁあの顔の強さで営業来たら、もう即オッケー出しちゃうよね!」


「なんなら営業だけじゃなく、引き抜けないかって画策しちゃいそう~!」


「「ね~!!」」


 な、なんかめっちゃ意気投合してる……。

 あたしのタイプの男性ではないけど、とりあえず覚えておいた方が良さそうね。部長躱せるのはありがたいし。


 きゃあきゃあと恋バナを始める二人に苦笑していると、ふとあの“シルヴィ”って子がよくこんな顔をしてたことを思い出した。

 梓の話だとあの子は十七って聞いたけど、十七にしては落ち着きすぎてるような気がするのよね。

 あたしが十七の時なんて……と考えたところで、実家の嫌な記憶が蘇りそうになった。


 この事を考えるのはやめとこう。美味しいお肉が不味くなる。


 あたしは無理やり“シルヴィ”って子と自分の関係性について考えることにしながら、ステーキを一口頬張った。

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