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864話 王女様は強く出る・後編

 内容としてはほとんどリンデ先生から伺っていたものがほとんどで、王都を守っている守護結界の範囲を拡大し、魔族軍からの侵攻を食い止めたいと言ったものでした。


 ただ、そのために必要となるのが、大きく分けて二つあるそうです。


 ひとつは、王家がソラリア様へ祈りを捧げるやり方をさらに変更し、今後は私一人で執り行わなくてはならないということ。

 もうひとつは、ソラリア様へ直接お願いし、守護結界を拡大していただかなくてはならないということです。


「私一人で祈祷を行う……と言うのは、恐らくできると思います。ですが、ソラリア様へ直接お願いをすると言うのは?」


「えぇ、そのことについてなのですが」


 教皇様が答えようとするよりも先に、お母様が答えます。


「王家は代々、〇〇〇〇様の血を継いでいるのは知っているわよね。その血筋の中でも、時々強い遺伝子を持った子が生まれることがあるそうなの」


「……もしかして、それが私と言う事ですか?」


「そう。シルヴィみたいに〇〇〇〇様と強い繋がりを持って生まれた子は、〇〇〇〇様と直接対話ができると、王家秘蔵の文献にも記されているわ」


「そう、だったんですね」


 今まで理由が明らかになっていなかった、私の左右で異なる瞳の色ですが、今の説明でようやく分かった気がします。

 そういう事であれば、尚更私がやらなくてはいけないことです。


「分かりました、お母様。私に務まるかは分かりませんが、ソラリア様へ守護結界を拡大していただけるようにお祈りしてきます」


「えぇ!? 別に今日じゃなくてもいいのよ? 体調だってまだ……」


「いえ、早ければ早いほど、兵の皆さんも傷つかずに済むと思いますので」


「だからって、そんな……」


 心配そうなお母様に安心してほしいと笑みを向ける私へ、教皇様が言います。


「ご協力に感謝いたします、姫様」


 そして、そのまま頭を下げるその姿に、私達は驚かされてしまいました。

 何を隠そう、彼が頭を下げているところなんて、今まで一度も見たことが無かったのです!


「ど、どうされたのですか教皇様!? 貴方らしくない!」


「いえ、先ほど姫様にお叱りを受けて、気づかされましてな。私は心のどこかで、王家も〇〇〇〇様を崇めるただの信徒だと思い、我々教団の指示には従っていただこうと思っていました。しかしそれは誤りで、我々は皆等しく、〇〇〇〇様を崇拝する仲間なのだと思い出したのです」


 教皇様はそう言うと、お母様にも深々と頭を下げました。


「どうか陛下、今までのご無礼をお許しいただけないでしょうか」


「えぇ……? それは、私達としても改善していただけるなら歓迎しますけど……」


「寛大なお心に感謝いたします」


 彼は頭を上げ、私にもう一度軽く頭を上げて部屋から出て行きました。

 そんな彼を呆然としながら見送った私達に、リンデ先生がふっと笑いながら感想を漏らします。


「随分と変わった方でいらっしゃいましたね」


「そう、ですね……。今までは、あんな風に頭を下げるところなんて見たことが無かったのですが」


「どうしちゃったのかしら。シルヴィが言った言葉で反省した、みたいなことを言っていたけれど」


「恐らくですが、シルヴィ王女が“自分達は対等である”ことを強く突きつけたからだと思いますよ。彼の最初の口ぶりは、王家をも下に見ていたもののように聞こえましたから」


「私、失礼なことを言っていませんでしたか!?」


 今さらになって自分の態度が悪かったのではないかと慌て始める私に、お母様達はくすくすと笑いました。


「大丈夫よシルヴィ。貴女に怒られたおかげで、これからはきっと無理を吹っかけてこなくなるに違いないわ」


「えぇ。シルヴィ王女は正しいことを口にしたと、私も思います」


「そうよねそうよね! うふふ! それにしても、いつの間にかシルヴィは強い子になっていたのね~! あんなにはっきりと物を言う貴女も、見たことが無かったからびっくりしちゃったわ!」


「すみませんお母様……。ですが、どうしてもあの時は言わなくてはいけないと思ってしまって」


 気恥ずかしさと申し訳なさで少し顔を伏せた私を、お母様はそっと抱きしめます。


「いいのよ~。最初からああやって、きっぱりと言っておけばよかっただけだもの。むしろ、私達だけで守ってあげられなくて、ごめんなさいね」


「お母様……」


 柔らかく香る花の香りに癒されながら、お母様を抱き返します。

 そんな私達を微笑ましく見守っていたリンデ先生は、ふと思い出したように私へ尋ねてきました。


「そう言えばシルヴィ王女。今まであのように強く物を言う機会は無かったと陛下が仰っていましたが、咄嗟にあのようなことを言えたというのは、どこかで教わったことがあったのですか?」


「えっ!? そうなのシルヴィ!? 誰!? 誰から聞いたの!?」


「えっ、えっと……」


 確かに、今までの私であればあんな物言いは出来るはずがありません。

 誰かに教わった気もするのですが……と、自分の記憶を掘り起こすように探してみますが、答えに辿り着きそうで辿り着かないモヤモヤだけがはっきりとするだけでした。


「すみません。誰かに教わったとは思うのですが、それがいつ、どこで誰からかと言うところまでは思い出せず……」


 曖昧な答えをしてしまう私でしたが、その答えを興味深そうに聞いたリンデ先生は、また柔らかく微笑みました。


「そうですか。いつか思い出せるといいですね。――では、私はそろそろ次の診察がありますので、これで失礼させていただきます。陛下もどうか、体調にはお気を付けください」


「いつもありがとう、リンデ先生。いつでも遊びに来ていいからね」


「ありがとうございます。それでは」


 リンデ先生に二人で小さく手を振り、その背中を見送ります。

 改めて二人きりとなった私達は、先ほど話に上がった、ソラリア様へ直接お願いする手段について話し合うのでした。

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