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859話 ご先祖様は聖剣を振るう 【シリア視点】

 レオノーラに遠く及ばぬとも、魔族の中ではトップ層に君臨していたはずのシュタールが、こうも容易く破られるとは。

 改めてその強さに戦慄する妾に、瞳の輝きの無いメイナードは鋭く睨みを利かせる。

 その目はまるで、次はお前だと言わんばかりであった。


 ……面白いではないか。


「レオノーラ、メイナードは妾が引き受ける! 貴様はシルヴィを討て!!」


「承知いたしましたわ!!」


 レオノーラとほぼ同時に、互いの相手を強く弾き飛ばし、各個撃破の戦闘に持ち込む。

 メイナードはシルヴィと共に戦おうとするかと思いきや、そのまま妾へと攻撃を仕掛けて来た。


 あ奴の独特の燐光に紛れ、飛来してくる羽や竜巻を迎撃しながら、妾はこれまでのメイナードの戦闘パターンを洗い直す。

 シルヴィやレナとの鍛練の際、あ奴は常に燐光でかく乱させてから奇襲を仕掛けると言った戦法を好んでおった。

 その戦法はレナに正しく継承された訳じゃが、レナが苦手としておる遠距離攻撃も、あ奴は多用する。

 それが鷹という種族の習性かは分からんが、メイナード自身が接近してくるタイミングは、決まってシルヴィやレナが隙を見せた時じゃ。


 つまるところ、こちらから近接攻撃を仕掛け続けても、あ奴はいなし続け、確実に仕留められるタイミングを探り続けるじゃろう。


 とは言え、その隙を見せるまでイタズラに魔力を消費し続けると言うのも芸がない。

 それはメイナード自身も分かっておるが故に。


「――そこか!!」


 こうしてフェイントを仕掛け、妾の隙を誘発させようとするのじゃ。


 妾が放った炎弾が、燐光のみの空間を貫く。

 ふむ、今ので概ね位置の特定が済んだな。


 そのお返しと言わんばかりに、多量の羽が妾に差し向けられた。

 それらを銀狼の剣で叩き落とし、今もなお旋回を続けているメイナードの魔力を追う。

 あ奴の燐光は、多量に吸い込めば致死毒に至る。

 故に、二年前の技練祭でシルヴィが見せたように、浄化の魔法によって消すことも可能じゃ。


 妾は杖の全体に魔力を込め、一つの形を取らせる。

 それは魔王との戦いにおいて、名誉ある終わりを迎えた伝説の剣。

 悪しきを払い、勇者を勝利へと導き続けた唯一無二の相棒。


「我を勝利へと誘え、ミストルティンッ!!!」


 聖剣を疑似的に生成し、周囲を切り裂くように一回転する。

 その一閃で、メイナードが振りまき続けておった燐光は一瞬にして霧散した。

 燐光に潜み、機械を伺い続けていたメイナードは、よもや己が燐光が一太刀で消されるとは思っておらんかったのじゃろう。


 じゃが、その一瞬の怯みは命取りと知れ!


 妾は銀狼の背を蹴り、放たれた矢の如くメイナードへと突貫する。

 怯みから立ち直り、防御の構えを取ろうと試みておるが、その翼で聖剣を防げるなぞ思うてくれるなよ?


「せやああああああああああああっ!!!」


 妾が振り下ろした一撃を受け止めきれず、翼が裂け、その奥にある胴をも深々と切り裂いた。

 続けてメイナードの体を真下へと蹴り飛ばし、その身を地面へ縫い付けるかのように聖剣を投げて突き刺す。


 大地に墜ち、胴を貫かれ身動きが取れなくなったところへ、妾は上空からトドメの一撃を放った。


「失せよ、(まが)い物が! アニヒレーション・ノヴァ!!」


 光属性における、最上級魔法の名を冠する極大の光線がメイナードへと着弾し、天をも貫く光の柱を上らせた。

 本来ならば、対アンデットにおける切り札なのじゃが、まぁメイナードが放つ燐光も浄化で消せるのじゃから同じじゃろ。


 (まばゆ)い光が粒子となって霧散していき、妾がゆっくりと地上へ降り立った頃には、メイナードの幻体なぞ跡形もなく消し飛んでいた。

 ちとやりすぎたかのぅ、などと限りある魔力の無駄遣いをしたことを悔いながらも、急いでシュタールの下へと向かう。


 とても生きてはおられぬほどの出血をしているシュタールは、背中に深い一撃を貰ったのか、頭部から尾の付け根にかけて、抉るような傷跡を負っていた。

 光を失った瞳を覗き込み、その首に手を当ててみるも、最早とうに息絶えているのが分かるだけじゃった。


「シュタール……すまなかった」


 そっとシュタールの瞼を降ろし、せめてもの手向けとして祈りを捧げる。

 大神様は今は不在じゃが、この者の魂がせめて、安らかな眠りに就けることを願い――。


「いやいやいや! うち、死んでへんって! 勝手に殺さんと貰える!?」


「は?」


 突如、背後から聞こえて来たその声に振り向くと、そこには慌てた様子のシュタールがおった。

 何故か、全裸ではあるが。


「な、何じゃ貴様!? 何故服を着ておらぬ!? それよりも、何故生きておるのじゃ!?」


「わー! えらい酷いわぁシリア様! 何なんその言い方!?まるで死んどって欲しかったみたいで傷つくんやけど!!」


「この血を見れば死んだと思うじゃろうが!!」


「そらまぁ、否定しいひんのやけどな?」


 困惑する妾を無視し、シュタール? は己が死体から大剣を奪い取る。

 そのまま服も脱がそうとしたところで、妾は慌てて止めに入った。


「何をしておる!? やはり貴様、シュタールでは無いな!? 死者の遺物を漁るなぞ、この不届き物が!!」


「えぇ? 何言うてんのん? うちのモンをうちが回収して何が悪いん?」


 さも当然のように言うそ奴に混乱しながらも、シュタールに対して魔力視を行う。

 すると、そ奴の体内にはまごうこと無きシュタールの微弱な魔力が感じ取れた。


「どういう事じゃ……。貴様、本当にシュタール本人なのか? 何故生きておる」


「だからそうやって言うとるやないの。案外頭固いお師匠さんなんやなぁ」


 シュタールは自らの死体から服を剥ぎ取ると、それを躊躇いなく着始める。

 しかし、胴に大穴が空いていることを確認したこ奴は、あちゃーと溜息を吐いた。


「こらもう着られへんなぁ……。どないしよう、和服やのにへそ出しやらあり得へんしなぁ」


「あり得んのは貴様の頭じゃ。何がどうなっておるか、詳しく説明せよ」


 シュタールは妾をちらりと見ると、何故か顎先をつまんで考え始めよった。

 やがて何かを思いついたのか、「ほんなら」と屈託のない笑顔を浮かべ、両手を差し出してきた。


「説明する代わりに、服作ってくれへん? 確か作れるってシルヴィちゃんから聞いてるんやけど」

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