858話 ご先祖様は目測を誤る 【シリア視点】
「行きますわよシルヴィ!! フォーリング・ジャベリン!!」
レオノーラが天に手を掲げ、シルヴィの上空に無数の槍を生み出す。
強い闇属性の力を帯びたそれらは、レオノーラが手を振り下ろすと同時にシルヴィへと降り注いで行った。
それに対し、シルヴィは横に走ることでそれを回避しようと試みる。
その行く手を遮るべく、妾はシルヴィの進行方向に巨大な岩壁を創り出した。
後を追って来る槍の雨から逃れるには、その岩壁を飛んで超えるか、崖の下へ飛び降りるかの二択じゃ。
飛ぶならば十中八九、フェアリーブーツを使わねばならんじゃろう。あ奴にレナのような身体強化やアクロバットな動きは教えとらんからな。
じゃが、降りるならば魔力の消費も抑えられる。幻体の判断基準が、魔力消費を抑えながら妾達を惹きつけ続けるのであれば、間違いなくこちらを選ぶじゃろう。
はてさて、幻体として生み出されたシルヴィはどちらに逃げるか……。
今後の動きを予測しつつ、シルヴィの動向を観察していると、案の定シルヴィは崖から飛び降りる選択をした。
うむうむ。幻体は貸与された魔力が尽きれば体を維持できなくなるからの。
判断基準としては、まぁ正常じゃろう。
――レオノーラという絡め手を好む者を前に、それが最善だと判断したならば愚かとしか言いようがないが。
「うっふふふ!! 一名様、ご案内ですわ! 開け、常闇の扉よ!! カースド・プリズンゲート!!」
崖から飛び降りたシルヴィを待ち受けていた漆黒の門が、大きく口を開いていく。
開かれた門からは、シルヴィを捕らえんとする無数の影の手が腕を伸ばし始めた。
さて、これでフェアリーブーツの使用は必須条件となった。
さぁシルヴィよ、空へと逃げるが良い。お主の逃げ道はそこしかないのじゃからな。
次なる一手のために召喚獣の用意をしていると、シルヴィが妾の方を見ながら杖を向けていることに気が付いた。
「いかん……っ!!」
身を捻り、直撃を避けようと回避に徹する。
一瞬の判断が遅れた妾のローブの端を、手のひらサイズにまで圧縮された光の槍――万象を捕らえる戒めの槍が貫いた。
その次の瞬間、先ほどまで漆黒の門に飲まれようとしていたはずのシルヴィが、妾の背後に回っておった!
「――刻印か!!」
即座にゼロ距離で拘束を試みようとするシルヴィを、風の防壁で阻みつつ大きく距離を取る。
そうか。ラティスから聞いてはおったが、あ奴は決戦の前に略式詠唱をモノにしておったな。して、その略式詠唱で放った万象を捕らえる戒めの槍に、着弾点に刻印を刻む魔法を込めておったと言ったところか。
あまりにも早く、正確すぎるその一連の流れに、妾は己の口角が吊り上がるのを感じた。
無詠唱で三つの効果を付与するか。流石の妾でも、あの一瞬ではできんぞ。
「何をしてますの!? 危うく貴女が捕まるところでしたのよ!?」
「すまぬ。妾はちと、シルヴィを過小評価していたようじゃ」
「何を言ってますの? 貴女が一番、あの子を近くで見て来たのでしょう?」
隣に立ち並んだレオノーラの言葉はその通りではあるのじゃが、この場においては致命的な過ちじゃ。
「シルヴィが勝つ条件は主に二パターンじゃ。一つ、万象を捕らえる戒めの槍や拘束魔法で敵の動きを封じること。一つ、勇猛なる猫騎士による攻撃で制圧すること」
「えぇ、それは知っていますわ」
「じゃがそれは、あくまでもシルヴィが【制約】の効果で己が攻撃できないことを前提とした勝利条件じゃ。攻撃しようものなら、それを上回るダメージが自身に跳ね返ってくるからの」
「何を今さら……」
妾の言葉に呆れたような物言いをしようとしたレオノーラじゃったが、妾がその先で何を言いたいのかを察したようじゃった。
「まさか、あの子が攻勢に出た時の力が未知数だと言う事ですの!?」
「そうじゃ。現に今、あの幻体は妾に万象を捕らえる戒めの槍を刺すつもりで放って来た。妾の体に槍を刺し、その上で背後を取って拘束しようとして来たのじゃ」
「と言う事は、あの幻体には【制約】が課せられていないんですわね……。厄介なことになりましたわ」
「そう考えていいじゃろう。故に、今のシルヴィは魔力量と技術力のみを見れば、最高峰の大魔女じゃ。ゆめゆめ、気を抜くでないぞ」
そう注意を促した直後、シルヴィから魔力の高まりを感じ取った。
この波長……。そうか、いきなり大技の撃ち合いを望むと言う事か。シルヴィらしくないのぅ。
そこは所詮、ソラリアによって生み出された幻体なのじゃなと納得し、隣に声を掛ける。
「レオノーラ」
「えぇ、任せてくださいまし。出でよ、影に飲まれし闇騎士!!」
シルヴィの背後に姿を現し始めた紫電の龍――天翔ける紫電の神龍を見据えながら、レオノーラが答える。
レオノーラの背後には、それを迎え撃たんと漆黒の騎士が大剣を構えておった。
双方が同時に空を掛け、騎士の剣に紫電の龍が食らいつく。
その激突で凄まじい衝撃波が生じるが、攻めるなら今が好機じゃ!
妾はシルヴィに杖を向け、同じようにゴーレムを放つ。
「出でよ! 我が忠実なる剣! セイバー・オブ・ウルフ!!」
妾が生み出した銀狼が天高く吠え、口に咥えた大剣を振りかざしながら飛び掛かる。
如何に多重詠唱ができようとも、大型召喚獣とゴーレム相手では精度も下がろうよ!
そう思っていた矢先、シルヴィと銀狼の間に夜闇のような燐光が立ち昇り、鈍い激突音と共に妾の攻撃が遮られた。
「……バカな!? シュタールはどうした!?」
突然現れたメイナードに目を剥きながらも、奴を抑えていたはずのシュタールの姿を探すと。
「シュタール!!!」
戦場の隅に大きなクレーターを作り、血だまりの上で倒れ伏しているシュタールがおった。




