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856話 ご先祖様は進軍の準備を進める 【シリア視点】

 異世界の神、シーラという人物と初めて知り合ってから、早一週間ほど。

 王城内のシルヴィを含めて目立った動きも無く、かと言って妾達から攻め入る隙も無く、手をこまねいていた時、大神様より再び招集をかけられた。


「しかしまぁ、何故このようなところに……」


 大神様に再び呼び出された妾は、今回の招集場所である建物の前でそう口にせざるを得んかった。

 何故ならば、今回は庶民達が日々通っている大衆食堂であったからな。


 喧騒が響く店内に足を踏み入れると、妾を目ざとく見つけた給仕の女が案内をしようと声を掛けて来た。


「いらっしゃいませー! って、シスターさんですか! この時間にいらっしゃるとは珍しいですね、お一人でしょうか?」


「いえ、待ち合わせに来ていまして。ヴィリスタジア様は、こちらにいらっしゃいますでしょうか」


「あぁー! あの貴族の方のお知り合い様でしたか! はい! お二階へどうぞ!」


 二階へと妾を案内するその後ろ姿を見ながら、妾はつい懐かしい感覚を覚えた。

 思い返せば妾も、あの頃はこうして給仕をしておったものじゃ。あの店では貴族と庶民で区別することなく座らせておったが、この店では貴族は貴族で別の個室を用意されるのじゃな。


「はい、こちらになります! ご注文がお決まりになりましたら、備え付けのベルを鳴らしてくださいね!」


「はい、ありがとうございます」


 そそくさと去っていく給仕の女を見送り、扉を静かにノックする。

 すると、部屋の中から大神様の声が返って来た。


「入りなさい、シリア」


「失礼致します」


 扉を開けて深く一礼し、頭を上げると――。


「……何をやっておるのじゃ貴様らは」


「え? 見て分からないかしら? ハーレムごっこよ♪」


「人間に仕える給仕は、こう言った側面も担うと聞き」


「そんな側面がある訳ないじゃろうが!!」


 大神様を挟むように、給仕服のフローリアとスティアが体を密着させた状態で、食事を食べさせておった。

 しかし、吠える妾に大神様は小さく首を振る。


「シリア。私も当初はあり得ないと考えていました。ですが」


 大神様はマジックウィンドウを出現させると、ある映像を投影させた。

 そこには、まるまると肥えた貴族の男や、髭が立派な貴族の男が同じように女を侍らせ、食事を楽しんでいる光景であった。


「貴族社会と言う物は、このように女性を侍らせ、自らの手では食事を摂らないという文化もあるようなのです」


「それは作り話です!! もしくは、ごく一部の貴族達の娯楽です!!」


「おや、そうなのですか?」


 小さく首を傾げる大神様に、妾は強く首を縦に振って見せる。

 こんな常識があってたまるか! かつての勇者であり王であったユースですら、こんなことは一度もせんかったぞ!


 どうせ貴様のせいじゃろうと、諸悪の根源を睨みつけると、そ奴は両手をパタパタと振りながら自分じゃないとアピールをし始めおった。


「ち、違うわシリア! これは私じゃないの! スティアよスティア! スティアがどこかからか、こんな情報があったって仕入れて来たの!!」


「スティア……貴様、給仕の身分として偽るようになってから、妙に偏った知識ばかりを仕入れ過ぎでは無いか?」


 妾が胡乱気な視線を向けると、スティアはこれまた涼しい顔で受け流す。


「私のリサーチに問題はありません。問題があると言うのであれば、それはこのような文化を根差した人間でしょう」


「人間のせいにするでないわ!! 大神様に悪影響じゃろうが!!」


「私はどのような人間がいても受け入れますよ。この世界に生きている人間は、いずれも可愛い我が子のような物ですから」


「そこは否定してほしいのじゃが……!」


 寛容が過ぎる大神様に、暴走女神のペアは最悪の組み合わせやも知れぬ。

 妾が額を押さえながら深く溜息を吐いていると、それを小さく笑っていた大神様が、マジックウィンドウの表示を切り替えた。


「それはそうと、シリア。お前を呼んだのは他でもなく、レナについてです」


「また何か、シーラ様から報告が入ったと言う事でしょうか」


「その通りです」


 大神様がマジックウィンドウをスルスルと操作し、保存されていた映像を再生し始める。

 そこに映し出されたのは、“反省”と大きく記されたパーカーのみを羽織っているシーラ様じゃった。


『ごめんね皆! もうちょっとレナには思い出してもらって、そっちとの繋がりを鮮明にしてから取り掛かろうとか思ってたんだけど、思った以上にソラリアって子の呪いが強すぎてレナに過負荷を与えちゃった!!』

『今はウチの力で休ませてるから大丈夫だけど、これは長期戦になるかも……! 消滅までには何とかできるよう頑張るけど、いざって時はウチが認めるから、誰か代表で迎えに来てあげて欲しいな!』

『ってことで、そのー何だっけ? あー、シルヴィちゃん! あの子の奪還はギリギリまでレナは参加できないものだと考えておいて! ホントごめんねー!!』

『あ、そうそう。話は変わるんだけど、今度レナの会社で熱海旅行に行くんだけどさ? お土産何がいい? 欲しいのがあったら買っておくから、ヴィジア君に言っておいてね! では、あでゅー!!』


「……レナに過負荷が掛かったとはどういう事じゃ?」


「なんかね、作り変えられた記憶の上から、封じられた記憶を塗り替えようとしたみたいなんだけど、ソラリアの呪いが強くて上手く行かなかったみたいなのよね~。で、これ以上続けるとレナちゃんが壊れちゃうってことで、ちょっとずつ掘り起こしていくことになったんですって~」


「そこについては私も了承済みです。レナという戦力を一刻も早く取り戻したいのは事実ですが、だからと言って彼女に負荷を掛け続け、彼女が壊れるようなことがあってはなりません。故に、当面はお前が根回しを続けている方向から、ソラリアへ攻撃を続けましょう」


「分かりました。では、まずは三日後に予定している、魔族軍による大規模な侵攻を進めます」


「えぇ、任せましたよ」


 これ以上得られるものは無いと判断した妾は、大神様へ再び頭を下げ、個室を後にする。

 レナのことは現状、妾達で何かできることは無い。となれば、妾は妾で成すべきことを成すまでじゃ。


「ソラリアよ、いつまでも引きこもっていられると思うでないぞ。今に目に物を見せてくれようぞ」


 その第一歩の準備を整えるべく、妾は転移を使ってレオノーラの下へと向かうのじゃった。

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