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850話 異世界人は週明けが憂鬱 【レナ視点】

 週明けの月曜日は、いつも憂鬱だ。

 眠たい体を無理やり早く起こして、時間に追われながら身支度を整え、満員電車に押し潰されながら会社へと向かう。

 会社に着いたら着いたで、みんな憂鬱そうな顔をしているから、そうじゃなかったとしても気が滅入ってしまう。


 まぁ無理も無いわよね。週五で働いてるのに、二日の休みで体調を整えろって時間のつり合いが取れてないし、疲れが取り切れてなくて翌週に持ち越しちゃうのはみんなそうだと思う。


「おっはよー恋奈(れな)! なんか元気無くない? コーヒー飲む?」


 そう。(こいつ)を除いて。


「……おはよう(あずさ)。あんたは月曜から元気ね」


「まぁねー。寝る前に推しを摂取して、目覚めに推しのASMRを使うことが元気の秘訣かな」


 オタクってそれだけで元気になれるんだ。羨ましいわ……。

 あたしなんてジムで色々あってバタバタしたり、シルヴィって子について思い出せそうで思い出せなかったりでモヤモヤした土日を過ごしてたって言うのに。

 PCを立ち上げながら鼻歌まで歌っちゃう梓をぼーっと見つめていると、梓は自分のカバンの中を見ながら「あー!?」と叫び声を上げた。


「な、何? 財布でも忘れた?」


「れ、恋奈ぁ……」


「何よ」


 先ほどまでのご機嫌な調子はどこへやら、梓は今にも泣きそうな声と潤んだ瞳で、あたしにそれを見せて来た。


秀太朗(しゅうたろう)が折れてる……!」


 梓が熱心に語っていた男の子のアクリルスタンドが、綺麗に真っ二つに割れてしまっていた。

 しかも、そのアクリルスタンドの上半身部分が化粧品用のポーチに挟まっているのも相まって、何だか若干の悲惨さを感じてしまう。


 何だっけ、何かこんな感じの演出があったアニメがあったわよね。

 可愛い女の子がファンシーな怪物に食べられるような……。


「うぇ~ん! 秀太朗ぉ~!!」


「あんたねぇ……。キーホルダーとかならまだしも、アクリルスタンドをそのままカバンにいれるなんてどうなのよ。あれって机とかに飾っておく物じゃないの?」


「そう思って持って来たの!!」


 半泣きでそう言いながら、梓は自分のデスクの一角を指で示した。

 そこはまさに、そのアクリルスタンドを置くためだけにスペースが用意されていると言っても過言ではない、絶妙な空間があった。


「あ、そこに置きたかったのね」


「そうなのぉ~! それなのに、それなのに! 秀太朗がマミられちゃったぁ~!!」


 何かまた知らない単語が出てきたけど、今聞いても答えてもらえ無さそうだし、そっとしておこうかな。

 半分に折れたそれを泣きながら抱きしめる梓を放っておいて、メールアプリを立ち上げる。

 始業までは時間があるけど、始業した後の段取りを考えるためにも毎日見ちゃうのよねーとか考えながら、新着のボックスを開いてみると、今日は既に四通届いているようだった。


「納期変更のご相談、稟議書作成依頼、か。これは午前中に終わらせた方がいいわね。で、これは……あぁ、来月の社員旅行の確認メールね。こっちは……ふーん、イーストエリアに新しい店ができるんだ」


「どんなお店!?」


「わっ!? 急に顔近づけて来ないでよ……。何か、洋食店みたいよ。ほら」


 お店と聞いて食いついてきた梓にも見えるように、少しどいてあげる。

 新規開店の広告がデカデカと押し出されているそれを見る限り、シンプルながらに小洒落た感じの洋食店に見えた。


「へぇー! 美味しそう! ねぇ恋奈、夜行ってみない!?」


「あんた、またあたしにたかろうとしてるんじゃないわよね」


「そんなこと無いって! 今日はこの前の配信が上手く行ったから、ちょっとお財布温かいし! なんなら、たまには恋奈に奢ってあげてもいいよ?」


「へー? あんたがそこまで言うってことは、よっぽど余裕があるのね。じゃあ、今日はお言葉に甘えさせてもらおうかな」


「まっかせなさい! 今日は恋奈が“もう無理食べられなぁい!”って泣くまで注文するからね!」


「言わないわよそんなこと!」


 なんて冗談を言いながらも、ふと今さっき聞き逃しそうになった言葉について聞いてみることにした。


「って言うかあんた、配信なんてやってたの? あれ? ムーチューバーみたいなやつ?」


「そうそう! だいたい日常の雑談配信だけどねー。ほら私、顔とスタイルいいじゃん?」


「自分で言うな自分で」


「だから結構人気はあるんだ~。トークもまぁ苦手じゃないし、ノリと気合でどうとでもなるから、割と暇潰し兼お小遣い稼ぎにはちょうどいいって感じ。オタトーク多めだから、私の見た目目的じゃない人も多いしね」


「ふーん。ってことは、いわゆるスパチャって奴がたくさん送られて来たんだ」


「そう! いやぁ、持ってる人はいいよねぇ……。私だったら、こんなよく分からんテンションのオタク女にお金落とそうとか思わないし」


 それを狙ってるんじゃないのあんたは。とは流石に言えず、何とも言えない苦笑で誤魔化す。

 でもそっか、梓は実は配信者だったんだ。あれも何か、当たればデカイ一発系の仕事って聞いたことがあるけど、先週ひぃひぃ言ってたのにもう余裕があるって言えるくらいには、リターンも大きい職業なのね。


「あ、今度恋奈も一緒に出てみる?」


「ふえぇ!? 何でいきなりそうなんの!?」


「え、だって今“何か梓面白そうなことしてるなぁ~あたしも気になるなぁ~”って顔してたじゃん」


「半分しかあってないけど!?」


「ほら半分は合ってたじゃん! だから出てみる? って聞いたの。それに、恋奈もちゃんと可愛いから私とは別の層に需要ありそうだし?」


「どんな層よ……。あたしはいい、出る側より見る側で十分だわ」


「えー? 絶対人気出るのにー!」


「あたしみたいなお子ちゃま体型でオタクでも何でもない女より、あんたみたいな顔とスタイルが良いオタクな子の方がウケるでしょ」


「恋奈は分かってないなぁ……。ってやば、部長来そう!」


「来そうって何よ。動物の勘?」


「女の勘って言って!」


 梓は謎の第六感を働かせて、いそいそと始業の準備を始める。

 それから二十秒と経たずに、本当に部長が来たのにはびっくりさせられるのだった。

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